Neetel Inside ニートノベル
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或る夏の物語
11週目

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●11週目



「また、会えるといいね」


くみがつぶやいた、たった一紡ぎの言葉。
けれど、そのたった一言がとても重い。
重圧で押し潰れそうなぐらい……。


ぼく「会えるさ、必ず」
くみ「もう、喋れないかもしれないよ」
ぼく「信じてる……。
   ちゃんと帰ってきてくれる事を」
くみ「……。」
ぼく「成功する事を祈ってるよ」

僕は精一杯の励ましの言葉をかける。
けれど、それらはあさっての方向に飛び散り、返ってくる言葉が僕の心を切り裂く。

くみ「……怖いよ」


例え届かなくても、逃げることは許されい。
彼女はさらに深い闇に立ち向かっているのだ。
何を言っていいかわからないけど、搾り出すように語る。

ぼく「大丈夫。くみは笑顔でここに戻って来る。
   必ずそうなる。僕はそう信じている」
くみ「ありがとう。嘘でもうれしいよ」


消えることの無い闇。
もう彼女と笑顔で話すことはなくなるのだろうか。



 ---




さんた「くみの命は……あと半年だ」


先週、くみが全然チャットに来なくて心配してた矢先の事だ。
さんたが状況を説明する。

さんた「くみは先週の土曜日に病院に運ばれた。
    お腹が痛くて眠れないからと電話があったから、俺が救急車を呼ぶ様に言った」

先週の土曜日……深夜にメッセが繋がった日……


さんた「検査の結果、胃癌が発覚した。
    手術は来週行う。胃の出血を止めるそうだ。
    ……医者の見立てでは、あと半年ぐらいだと……。
    すごく落ち込んでいる。今からチャットに呼ぶので励ましてくれ。
    暗くならないようにな……。」

ちゃんと聞いているのに、状況が理解できない。
いや、僕の脳は理解する事を拒否した。

そして、くみが入室してくるが……。

くみ「ぎゃっ。さんたったら余計な事まで言っちゃって」
くみ「お邪魔だったかな? あはは、またねー」

大した言葉もかけれず、すぐに退室してしまった。
さんたの話にもショックけたが、聞きたい事も山ほどある。
先ずはくみの事だ。

ぼく 「手術は来週だって?」
さんた「ああ」
ぼく 「その時に、胃癌の切除を?」
さんた「……いや、胃からの出血を止める。
    それで痛みは無くなるそうだ」
ぼく 「胃癌の切除はその次の手術でって事か」
さんた「……。」

沈黙

ぼく 「……え?」
さんた「いいか、来週の手術では胃の出血を止める。
    だが切除はしない。言っている意味わかるか?」
ぼく 「なんで……」
さんた「くみは痛みに耐え切れず、救急車で運ばれた。
    だけどすぐに手術はしない、しても止血だけだ。
    胃は今後の為に残しておく……切り取るなら全摘になるからな。
    無くなると食事が辛くなる」
ぼく 「だけど癌が……」
さんた「もう……手遅れなんだ。だから半年なんだ……!」
ぼく 「……。」
どらみ「……。」

沈黙

さんた「俺だって辛いさ……。だけど一番辛いのは彼女だって事を忘れるなよ」
どらみ「……うん」
ぼく 「わかった……」


その後、さんたマンションに会話は無かった。
いや、無かったと思う。正直よく覚えていない。

楽しかった「さんたマンション」だけど、その日はずっと暗雲がたちこめていた。



 ---



どらみ「大変なことになったね……」
ぼく 「うん……」
どらみ「これからどうなるのかな……」
ぼく 「わからない……」
どらみ「さんたマンションも無くなっちゃう?]
ぼく 「……いや、そうはさせない」

その時、ある決意が胸の内に閃いた。

どらみ「明日、手術の日だね」
ぼく 「そうだね」
どらみ「無事に帰ってくるといいね」
ぼく 「うん。絶対に帰ってくるって信じてる」


くみの為に何か出来ることはないかずっと考えていた。
どらみと話している時もずっと……。


そして、その日からさんたマンションには、1人の名前があった。
四六時中、消えることなく。

まるで誰かをずっと待つように……。



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