Neetel Inside ニートノベル
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或る夏の物語
4週目

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●4週目


ふと気付いたら「さんたマンション」には僕とさんただけが居た。
数人が出入りを繰り返しているチャット部屋で、2人だけになるのは珍しい事ではない。
けれど、さんたとぼくのツーショットは多分初めてだ。

男が二人顔を突き合わせると、自然と会話は女の事になってくる。
この時も例外ではなく、メンバーの女性の話になった。

僕は素直にくみに気があることを伝えると
「どらみの事はどう思ってる?」そう返ってきた。

さんたはどらみに気があるのだろうか?


どらみは年下で、妹のような感じで接している。
僕には妹が居ないが、居たらあんな感じになるのだろうか。

それに恋愛をするには距離が離れすぎていると思う。
遠距離恋愛は成功した例も多いが、失敗した体験談はさらに多く聞く。
現実的な距離と心の距離は比例するんじゃないか。
そんな事をさんたに話した。

さんた「恋愛は距離じゃなく、心の持ちようだ」
ぼく「・・・。」

言い返せなかった。


距離が近いという安易な理由で、くみに恋愛感情を抱いている。
そんな自分が酷く卑小な人間に思えた。



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くみは一人暮らしは寂しいと言い出した。
大家族という程でもないが、男家庭(父親と兄2人)で育ったので家が静かだと落ち着かないそうだ。


さんた「じゃあ、皆で集まって鍋でもしようぜ」

さんたが突然そんな事を言い出したが、

くみ「できるといいね」

くみは意味ありげな返事をして、この話は唐突に終わってしまった。
少なからず期待していたのに……


くみは寂しさを紛らわすために、ペットを飼う事に決めたらしい。
そう宣言して2・3日もしないうちに、家族が2人増えたと報告した。
てっきり1匹だけかと思ってたが、そう言うとくみは理由があるという。

くみ「チワワが欲しくてペットショップに行ったんだけど、すごく寂しそうにしている犬が居て、一緒に連れて帰って来ちゃった。」

そんなエピソードを聞かされ、くみの優しさを垣間見た気がする。


くみ「そうそう、名前をまだ決めてないんだけど何かない?」
さんた「かわいい名前をつけてあげないと」
ぼく「さんたとぼくなんてどうだろう(笑)」
くみ「それいいね!」
さんた「マジか(笑)」

僕は冗談のつもりで言ったのに、結局犬の名前は「さんた」と「ぼく」に決まってしまった。
さらに、くみの家に居る金魚にまで「どらみ」と名づけてた。
ちょっと思わぬ展開だったけど、なんだか微笑ましく感じてしまう。


ただ、さんたと名付けられたチワワは、とても賢くて静かなんだけど、ぼくと名付けられたトイプードルは落ち着きが無く手がかかる子らしい。
ペットの事と思いながら、自分が言われている様で何か釈然としない気持ちになった。



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夜に珍しく、どらみがメッセで話しかけてきた。

どらみ「こんばんはー。ちょっといいかな?」
ぼく「いいよ~。何、どうしたの?」
どらみ「変な事聞くようだけど……」
ぼく「言わなきゃわからないって(笑) 何の話?」
どらみ「ぼくって彼女いたりする?」
ぼく「居ないって、モテないって言ったじゃん(笑)」
どらみ「じゃあ好きな人とかは?」
ぼく「う~ん、一応いるよ」
どらみ「そうなんだ……」
ぼく「どうした? 好きな人でもできた?」
どらみ「ちょっとね」


胸の奥で何か言い知れぬ感情が湧き上がってきた。
さんたの言葉が思い出される。

……もしかして、さんたは何か知っていたんだろうか。


何かいけない事をしている様な、そんな不安が心をよぎる。



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