Neetel Inside ニートノベル
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或る夏の物語
5週目

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●5週目



毎日、休む事無く「さんたマンション」に出入する日々。
家に居る時間は勿論の事、仕事中でさえ僕の名はチャット部屋に居座ったままだった。

さんたと、どらみと、そしてくみと話すのが楽しくてしょうがなかった。
逆に、仕事が忙しかったり他の用事でネットにすら繋げなくなると、凄く不安になる。
ある意味、禁断症状と言っても間違いではないだろう。


チャットを中心に生活が回る。
それは悪い事ではないが、実生活を疎かにする事は許されなかった。
仕事もあるし家庭もある。
だけど僕は、寝食の時間を惜しんでも彼らとの会話を渇望した。


そんな生活は僅かなほころびを生み、思いも寄らない形で現実を歪ませていく……。



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くみ「しばらく来れなくなるの」


「大事な話がある」という事だったので、皆で聞く事になった。
だけどくみの話は衝撃の一言だった。


彼女の働く会社が中国に工場を出すらしい。
そこの視察に彼女もついて行く事になったのだ。

くみ「中国語がちょっと出来るだけなんだけどね」


零細企業に勤める僕にとって、海外出張など伝説の様なものだと思っていた。
聞けば、今までにも何度か向こうに行ったり来たりしているらしい。
突然、彼女が雲の上の存在に思えてきた。


出張は半月ほどらしい。

半月。
言葉にすれば短く思える期間も、最近ほぼ毎日顔を会わせていただけに不安も大きい。
帰って来ないんじゃないか。
帰ってきても僕たちの事なんか忘れて、もう二と度と会えなくなるんじゃないか。
次から次と余計な考えが浮かんできてしまう。


そんな僕の気持ちを知ってか、さんたが僕宛にメッセージを寄越した。

さんた「くみも寂しがってるから、俺たちが励ましてやろうぜ」

……全くその通りだ。
僕は何て自分勝手なんだろう。
不安なのは彼女も同じ、だから僕達が励ましてやらないでどうする。
僕達が寂しがって居たら、くみも余計辛くなるじゃないか。

さんたは時に、年下に思えない的確なアドバイスをくれる。
確実に僕より恋愛経験豊富なんだろう。



ぼく「元気に戻って来てね。またここに来たら笑顔で迎えるよ」

くみにはそんな言葉を贈った。



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その日は朝から憂鬱だった。
仕事の量は決して多くなかったが、全く無い訳ではない。
午前中は程々に指を動かし、仕事を片付けていく。
午後にはチャットに繋ごうと思っていた。

くみが居ない事で、僕のモチベーションは間違いなく下がった。
だけど他のメンバーだって居る。僕はチャットの中心的存在だという自負もる。
まかり間違って、くみが帰ってくる迄に「さんたマンション」に誰も居なくなった。なんて事にならないようにちゃんと顔を出さないといけない。




しかしそんな考えは吹き飛んでしまった。


昼休みを過ぎた頃、1本の電話が着信を告げる。

その内容に、僕の頭は真っ白になってしまったのだから……。



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