Neetel Inside 文芸新都
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歌舞伎町の嬢王
プロローグ

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この世界、といっては人間の及ぼす影響範囲のみをさすようであるが、ここでいう『世界』というものはそれらの意味を凌駕するものであって、世界であって世界ではない。
およそ、『この世』、乃至は『世』と呼ばれているものの対局には『あの世』、というものがあると人々には信じられている。
大方それは間違っていないし、むしろ限りなく正答に近いのであろうが、ただ一つ、この『世界』にはもう一つ『この世』と『あの世』とをつなぐ世界がある。これはしばしば冥界などと呼ばれたりもしてきた。
これを加えることによって、絶対的答えとなる。
つまり、この宇宙、といっては語弊が生じるであろうか、それすらをも内包する『界』があるとするならば、そこには『この世』、『あの世』、『冥界』の三つの世界があるということなのだ。
この世の者は、冥界を通らずしてあの世にはいけず、あの世のものもまたこの世にいこうとすれば冥界は避けては通れない。
『冥界』とは、正にあらゆる次元における関所、税関なのだ。
入り鉄砲に出女、という言葉があるが、およそそれに近いものがあるかもしれない。
この冥界の役割は、正に『この世』と『あの世』、双方の秩序を保つべく存在する、最も重要な機関なのだ。この世のものにはこの世のものの、特に人間をさすのであるが、そして、あの世のものにはあの世のものの、こちらは主に、所謂天使であったり、神であったり、悪魔であったりとかおおよそそのようなものをさすことが多いのであるが、無論こちらにも秩序というものがあるのだ。
冥界の番人、こう呼ばれるものだけが、双方を何の境界線も干渉も持たず行き来できる、唯一の存在なのであり、これは、人の中には『死神』、と呼ぶものもいた。その所以たるも、冥界の番人が一度たりともあの世への入国許可を、この世のものであった者、つまりここでは『霊』と呼ばれるのであるが、にしてしまうと、なかなか逆はできない。これが、人によって作られた、死神があの世へ連れて行った、とかいう誤解の最たるものである。そしていったんあの世の住人になってしまえば、本当の意味での生前の記憶というものは消されてしまう。もし、あの世のものがこの世の住人になろうとしてもまったく同じことが起きる。
『この世』の者が『あの世』に干渉することはあってはならないし、逆もまた然りである。
死神の役割はまさに国境警備さながらに重要なものなのだ。
もしも、冥界を介さずにこの世とあの世をつなぐゲートができれば、それは由々しき事態というほかない。
しかし、すでにこの三つのそれぞれの世界は、今まさにその『もしも』によってひとつの世界になりつつあった。

       

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