会話

御一条が腕を引っ張り、ようやく大三和は立ち上がった。
少年は、ただただ大三和を凝視していた。勿論あのひしゃげたままの形相で。
「さて、と、どこから話そうかしら」
御一条は一人ごち、人差し指を顎にあて、考えるそぶりをしてみせた。
「取り敢えず来た道戻りましょ?ここだと車が通るし」
二人と一つの死体は、踵を返し、またも新宿清掃センターのある通りを戻って行った。
ここにきても、やはり口を開くのは御一条、ただ一人である。
「いい?今からあなたに説明しなくちゃいけないことがあるんだけど」
大三和は自転車を押しつつ、顔だけを御一条のほうへと向け、何度か連続で首を縦に振った。
「いきなりで、私のことホントに変な人って思うかもしれないけど、この世の中には実体と霊体と、その狭間、つまり半実体っていうのがあるの」
御一条をそこでいったん区切ると、死体の少年を指さす。
「つまり彼。半実体」
さらに言葉を続ける。
「で、これは強い力、例えば現世に対する執着だとか恨みだとか、まぁ言ってしまえば未練よね、これがさっき言った半実体っていうのを形成するの」
そこで大三和は、はっと思いだしたように視線を御一条に合わせる。
「じゃ、じゃぁ俺がその恨みの対象っていうことに・・・」
御一条はそれに対して、ななめ上のほうへと目を流し、唸り声をあげる。
「ちょっと違うかな。半実体の形成には執念とかの他に、一つだけ形成する方法があるの。ある特別な力を持った実体、あるいは霊体が、半実体になるには遠く及ばないような思いとか気持ちに、その力を加えることによって、半実体に昇華させてやることができるの」
二人は話つつ、すでに第一分団署付近にあるグラウンドに差し掛かっていた。
「い、言ってる意味が全くわか──」
大三和の声は、突如としてさえぎられる。
「あ、そこ左に曲がってちょうだい」
大三和は、まったく違う話題を振られたがために、一時気が動転し、あたふたとあわてふためいてしまった。それから大三和は、言われるがまま、グラウンドにそって歩きだした。この通りは、左手にグラウンド、右手に病院となっているため、新宿歌舞伎町ではあるものの、外界からはかなり隔離されているように思える。周囲の薄暗さもそれに拍車をかけた。
「まぁ、判らないでしょうね、何言ってるかなんて。私達の世界に置き換えて考えるなら、その特別な力を持つ実体、霊体っていうのは、言いかえれば死神だとか天使だとかっていう存在」
そこで御一条は立ち止まり、大三和に向き直る。
「で、ここからが本題。このありとあらゆる世界には一つのルールがあって、死んだ者は無条件にあの世とこの世の狭間にいかなくちゃいけないの。そしてそこで、そのまま生き続けるか、昇天するかを選ぶものなの。だから、そもそもこんな半実体なんてものは生まれるはずがなくて、それにあの少年の場合は、あなたに恨みなんて大して持ってないの。どちらかと言えば別の事柄に対する未練の方が強いわ。だからね、これは明らかに外部の犯行、つまり犯人は死神か、天使ということになるの。そこで、あなたにはこれから、この少年の未練をやり遂げてもらいたいの。それが終わったら、また私はあなたのところへ行くわ。それじゃ、それまでさようなら」
言い終わるや否や、彼女は姿をくらまし、いつの間にやら、大三和の目の前には例の少年ただ一人となっていた。
しかし、その姿というのは、生気に満ちた、少年らしい少年の姿であった。
「お・・・お前・・・」
「・・・大三和さん・・・?」
警官と少年、そのどちらも、同じような、困惑した表情をしていた。
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