Neetel Inside ニートノベル
表紙

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「顔に出るのがわかってるならせめて隠そうとしてください。」
何か顔に出てない部分も読まれた気がする。
「気のせいです。」
「いや、もうそれ気のせいじゃないだろ。」


そんなことはお構いなしに、忍はどんどん話を進める。
ちょっと待ってもらいたい。
「私、S県T市に住んでいたんですけど、ある日、彼氏に山歩きに誘われたんです。」
「……!?ちょっと待ってくれ。」
「何ですか?」
「S県…?S県からここまで来たのか?このT都まで!?歩きで!!??」
「半年掛かりましたけど…。私方向音痴で。」


3~400Kmを徒歩で半年か…。
道に迷ってゆっくりならそれくらいか…? しかも飲まず食わず。
生きてたら死んでるな。 死んでるから死なずに済んだんだが…。

あれ? なんか変だな。

「続けても?」
「あ、ああ。どうぞ。」
勝手に始めた話を途中で止められるのも後味が悪い。
好奇心だけで聞いてしまってはマズいとは思っているのだが…。


「…そう。それで山を歩いて頂上まで登りきったんですよ。すごい綺麗な景色でした。そこで、私が作ったお弁当を食べて、下山したんです。」
「そして、下山途中その男にやられた…と。」
「何言ってるんですか?」
「え?」
「下山して、家に帰って、ああ疲れたって言ってすぐに寝ました。」
「…なぁ。お前何の話してたんだ?」
「え?山の話ですけど?」
天然かよ… |||i _| ̄|○ i|||i


「殺された時の話じゃないのかよ!」
「しても良いんですか?」
「…はぁ。わかった。しろよ。」
「ふふっ。」
今、ニヤってしたよな?
ニヤってしたよな?
作戦だったのか…? この天然の策略にはまったのか?
ハッ! まさか天然に見せるのも作戦かっ!?


「で、その登山の数日後なんですけど…。」
「……。」
「何か言いたそうですね。」
今度こそ死んだ時の話なんだろーな。
「ええもちろん。」
「また顔に出てた?」
「いいえ全然。」
即答かよ。 しかもつまりそれって考えを読まれてるってことじゃねーか!


「あ、一応私大学生だったんですけど、私と彼は学部が同じなんです。」
まぁ。 そりゃ。 そうだ。
「それで、もう一人同じ学部に女の子がいるんですけど…。あ、その学部私と彼とその子の三人だけなんです。」
ど、どんな学部だ…?
「言いたい事はわかりますけど、後にしてくださいね。」
「あ、ああ…。」


「その子にある日、夜中の一時に山のふもとにある工場の4番倉庫まで来いって呼び出されて。」
「怪しすぎるだろ…。って行ったのか…。」

「はい。それで、行こうとしたら間違えて3番倉庫に行ってしまって。」
よくボケをかましてくれるな。

「そしたらなんかヤーさんが凄い沢山いらっしゃっていまして。」
「逃げろよ。」

「いえその…。最初ヤーさんだとわからなかったものですから、ついついフレンドリーに行ってしまいまして。」
「フレンドリー…。」

「そしたら話に華が咲いて、気付いたら夜中の3時で。」
「…なんか嫌な予感がする。」

「で、それに気付いてすぐに4番倉庫に行ったんです。そしたらまだあの子が居てて。」
今から半年前か…。秋始めくらいか…。朝方はちょっと寒いよなぁ…。

「そうなんですよ。その子案の定震えてまして。」
…また読まれた。


「それで、その子私を見るやいなや、開口一番に…。」
「恨みつらみ吐かれたか。」
「『寒い!死ぬ!コーヒー頂戴!』ですって。」
そいつも天然なのか。 |||I _| ̄|○ I|||I


「で、私が近くの自販機でコーヒー買ってきてあげて。」
「わざわざ。ご苦労様。」
「いえいえ。どういたしまして。」
皮肉が通じないッ!


「で、そのコーヒー飲み終わったら突然包丁で心臓を一突き。」
「い、いきなりそんな。痛い痛い。」
「で、今に至ります。」
殺されるまでが長いよ。


ようやく終わった。
ここまでほとんどすっ飛ばしてきた人たちのために、簡単に説明。
忍は、同じ学部の女に殺された。 以上。


「なぁ。今までの話まとめたら1行で終わったんだが。」
「気のせいですよ。」
「いや、事実事実。」


結局、殺された理由とか呼び出された理由とか、その他諸々の大事な部分がわかってないままだ。
進展してねぇ。
姿が見えないから、もしかしたらこれは夢とか僕の果てしない妄想なのではないだろうか。
それだったら、結構良い笑い話になるなぁ。
「笑い話にしないでください。人一人死んでるのに。」
「いや、お前が話したことそのまま客観的に面白いと思うぞ。」
「じゃあ、お笑いやりますか? コンビ名は、『片方の声は聞こえません』!」
「長いし、それじゃあお客さんわかんねぇだろ…。見た目ピン芸人だし…。」


結局、忍は僕に一体何を期待しているんだろう。
犯人捕まえろって、S県だぞ。 一日で捕まえられるモンじゃないだろ。
大学&バイト休めってか? 言っとくけど、それってつまり=死だぞ。
忍と同じ状態になれってか。


「うん。やっぱ無理だわ。」
「そ、そんな!!そこを何とか!!この通り!!」
「この通りとか言われても、見えない。」
「ああっ!ちょっと待って!説明すると今私土下座してるんです!」
「ほぅ。ではお前今ソファーの上で土下座してるのか?」
声は、僕の座っているすぐ隣から聞こえてくる。明らかに向かい合ってはいない。

「……。 こ、この通り!」

前に移動したらしい。 やっぱさっきはしてなかったんだ。

「いじわる。捕まえてくれないんなら、一生翔さんに取り憑いてやるんだから。」
それは困る。 一日中僕の傍で騒がれては、僕だけ集中できない。
なぁ、作者さん。 2行で犯人捕獲終わらせてくれない?
無理ですか、そうですか。


「それではS県に向けてしゅっぱーつ!」
結局、僕が折れた。 明日の夜までに帰ってこられればとは思っているが、多分無理だろう。 謝礼は出すって、幽霊が一体どうやって?
「それは――。 まぁ気にせずどんどん行きましょう!!」
コイツ…。



新幹線に乗って5時間。
既に夕方の五時。
よく考えたら昼飯を食ってない。
忍にトースト取られたから、実際のところ今日何も食ってない。
「駅弁食べたかったなぁ。」
「お前な。」


「とりあえず、私の家に行きましょう。」
「行って、どうする?」
「事情を説明してあげてください!私の声は聞こえないみたいなんで。」
「信じると思ってるのか?」
「そりゃもう!私の家族ですから!あ、行ったら驚くと思いますよ。」
「はぁ…?まぁめんどくさい事に変わりはないが…。」


最寄の駅からバスで30分。 そこから歩いて10分行ったところに、忍の家はあった。
文字で書くと、忍者の家みたいだな。 イテッ。
「この家の何処が忍者屋敷なんですか!?」
「まぁまぁ…。あれ?なんで触れないはずなのに痛みが「さぁ早く家に!」
スルーされた。


忍の家を訪れると、40歳くらいのおばさんが出迎えた。
「お母さんだよ。」
予想はしていたが、忍から説明が入る。
つかここからどうすれば良いんだろう。 とりあえず、忍の家&忍のことなんだから…。
「えっと…。すいません。忍さんの事でちょっと大事な用があるんですが…。」


あっという間に家の中に引きずり込まれた。
おばさんは僕の胸倉をつかんだままずんずん進む。
案内、もとい連れて来られた所は、どうやら居間らしい。
「お父さんと、弟だよ。」
45歳くらいの、ちょっと中年太りしかかってるおっさんと、高校1年生くらいの少年が居た。
居間に入るや否や、おばさんが開口一番こう言った。

「アンタ達!プロジェクトS発動だよ!」
なんなんだこいつら――!!

       

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