そして今日も地獄を走る。
終わりの見えないゴールへと走る。
「はぁ、はぁ、はぁ、は――」
頭の中で、吐息が反響する。
頭蓋骨の中の暗そうなところが、その息で満たされていると錯覚する。
「はぁ、はぁ、はぁ――」
止まる。いや、止める。 走るという行為を止める。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
止めようと、吐息は止まない。
肩で息を切らしながら、足下を見る。
小汚いバスケットボールが一つ、転がっている。
『ハハハ。クスクス。ヘヘヘ』
ドブ臭い笑い声が耳に入ってくる。反射的に、目をそちらに向ける。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
粘り着くように何度も反響する吐息。いつまでたっても止まない笑い。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ――」
笑う彼らが、蜃気楼のように揺れる。
教室。
背中が蓄音機になったように、自分の後ろに嘲笑が集まる。
ペンを持つ手が震える。
唇が震える。
と、軽く何かが後頭を打って、足元に落ちる。
見る。紙クズ。クシャクシャになった隙間から、文字が見える。
『死ね』
背中に集まる笑い声は、止まない。
『死ね』
ふと前へ顔を上げる。
一人の少女が、無言で教壇に立っている。
同じクラスの女子。それが、表情一つ変えず、じっとこちらを見ている。
目が合った。でも、どうしていいかわからない。
僕は無意識に笑いかけた。
「――――」
彼女は何も言わず、憮然と教室を出ていった。
家の扉を開ける。
靴を適当に脱ぎ捨て、足早に二階へと階段を登る。
「あ、おかえんなさーい」
居間の方から、母の平和な声が聞こえる。空気の読めない声が聞こえる。
自室に入り、肩が外れたかのようにカバンを落とす。
そのまま着がえもせず、ベッドへ身体をうつぶせた。
「…………」
枕に顔をうずめ、少しの間自分の呼吸を意識する。
僕の匂いがする。
寝返り、すぐそこにある窓を見上げる。
窓の先にある空を眺める。
オレンジ色の太陽がよく見える。
眩しくても、僕はずいぶんな時間、目を離さなかった。
離せなかった。