Neetel Inside 文芸新都
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「……飛ぶ?」
 そっと冷笑を浮かべる不気味な猫。周りは冷たく頬を打つ空気。
 脈絡ない言葉とは、これほど乾いて不気味で寒い。
「そう、飛ぶ。ジャンプする。ダーイブする」
 彼女の足元のコンクリから、雑草が必死に生えている。苦しそうに生えている。
「……どこから?」
「どこから」
 まるで鍵盤を奏でるようだった。
「どこから。どこからと??」
 手元の旋律を確かめるように、葉桐さんは悠然と会話している。
 しかし、意味が分からない。気後れしている自分がいた。
「ここからだよ」
 葉桐さんの手が、ピストル形になった。屋上の柵が、グリップ代わりの人差し指によって弾かれる。
 いったい何を伝えたいのか、理解できない。
「あの、ふざけてるの? もしかして」
「ふざけてないし、特に冗談を言ってる気もない。それよりも、飛ぶ? 飛ばない?」
「…………」
 なんで僕は、こんな嫌な学校の、こんな寒い屋上で、こんな電波な女子に絡まれているんだろう。どうしてだろう。
「飛んだら死ぬよ」
「うん」
「うんって……」
「でも、そうしなきゃならない。いや、そうしたい。そうしたいはず。佳山くんは」
 ギョロリと、餌を求める金魚のような奇抜な目を向けてくる。しかし、そんな目や言動を次第に受け入れている自分自身も、十分奇妙だと思う。
 つまりは。
 いじめか。
「それは……、嫌味なの?」
「嫌味?」
「いじめられてる……」
 自分でそれを公言するのは、ひどく恥ずかしいものだった。
「いじめられてる、僕に対して」
「飛べるよ」
 会話にならない。
「むしろ飛んだ方がいいよ。あれだけ不幸抱えてるなら、この腐った学校、日本、世界、地球、宇宙、あらゆるすべてから解き放たれたほうがいいよ」
「……は?」
「いい場所があるの。行こうよ」
 不適に破顔する彼女を背景に、飛行機が喧しい音を立てて飛んでいった。
 轟音が聞こえなくなる頃、昼休み終了のチャイムが鳴った。

       

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