Neetel Inside 文芸新都
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違う。
違うと思う。
 こんなのは違うと思う。
 これも、僕には理想の世界じゃない。
 身体が美しい女性になろうと、お金持ちの家の生まれだろうと、穏やかな街の育ちだろうと、親身な家族に囲まれていようと、それは僕の理想ではない。
 僕の理想は失くなった。
 僕の理想は、陳腐なものだ。そう思い始めた。
 それが、崖から飛び降りてこの街で目覚めて、顕著になってきた気がする。
 空飛ぶロケット? 仲良しのロボット? 未来の車? 平和な社会?
 どういうことだよ。僕がどんな暮らしをしたと思ってる。
 毎日毎日嫌なことばっかりだ。自分の矮小さを常に思い知らされる。
 僕が弱者だと感じる。最低ランク外のクソ。
 カッコをつける前に、カッコがつかなくなる。
 そうしているうちに、周りのカッコがついている人間を見るようになってる。
 そして九ミリの大きな蚤よりも小さくなった。
 死んだおばあちゃんと体重が同じになった。
 あの夢はどこに行った。僕が描いた、僕の未来都市はどこに行った。
 どこに。
 どこだ。
 砂漠の果てにでも、墜落してしまったのか。どうなんだ。
 マメが潰れたような痛みを感じる日々にさよならだ。
 もうたくさんだ。
 そう思って行き着いた先が、こんな理想の世界だ。
 理想? 違うな。これは理想じゃない。
 理想と思い込んだ世界。
 ――混乱するわけだ。
 ああ、今僕は、混乱している。
「…………」
 目が覚める。
 重々しく、瞼を悠然と開く。安閑とした目覚めだった。
 ゆっくりと、ベッドの柔らかいシーツの感触を確かめながら、ゆったりと起き上がる。
 気だるい眼差しが見つめるのは、大きな窓から見える、大きな空だった。
 空は青くなかった。
 黒煙がモウモウと立ち込めている。
 僕の目が見開いた。
 煙? 飛び起きて、窓の外を見る。
「――――」
 まるで別世界。
 別世界だった。
 瓦礫の山が、火と煙を吐き出しながら町を覆っている。
 破滅の死海。
 逃げ惑う人々の影。崩れる建物。渋滞している道路。グシャグシャの自動車。うるさいサイレン。ああうるさい。
 積み木崩し。
 僕が壊したような積み木崩しのような荒れ果てた風景だ。
「アオ様!」
 っと勢いよく部屋に入ってきた老執事の声も知らない。どうでもいい。
 今は僕は、この世界の風景に釘つげだ。
 乾いた唇。寝起きでねっとりした口内。そんな僕の口元が醜く歪む。
 腹の辺りから筋が通った。光の筋。感覚の筋。身体を震えさせる得体の知れない筋が脳に突き刺さる。
 僕はきっと笑った。
「――――っ」
 これだ。これだよこれ。こうでなくちゃ。
 これだよ。そうだ。どうでもいいんだ。
 泣き叫べ。崩れろ。破滅しろ。
 もう訳が分からないんだ。
 ガシャガシャのグチャグチャだ。やったぜ。
 ああやった。
「ははっ」
 そうだ。これだ。
 これがワタシの、『新しい』、未来都市だ――


       

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