Neetel Inside ニートノベル
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「隣借ります」
「……」
 無言で空を見つめたままの彼女を横目に僕はベンチの端に腰掛けた。小さなベンチは2人で定員オーバー。そのまま両の手をひざに置いて頬杖をつき、地面を見つめる。芝生は水分を失っているのか暗緑色だった。
「ぐすっ」
 横で鼻をすする音がした。泣いている、と僕にはすぐにわかった。こらえていてもしゃくり声が聞こえてくる。どうして彼女が泣いているのかわからないけれど、彼女も僕と似た境遇なんだな、と理由なく確信めいたものを感じていた。
 と、いきなり彼女がその薄い胸の奥に刺さった切ない棘を抜きはじめる。
「……あのニブちんめぇ。ひっく、こんないい子が傍にいたって言うのに」
 やっぱり。ここにもいたか心の友よ。今日だけは共に嘆こう。今日だけは。
「どうして気づいてくれなかったんだろう。普通察するだろ」
「一緒のお布団で……ひっく。眠ったじゃんか」
「同じ部屋で1晩中喋ったことだってザラだぜ?」
 隣で並んで変わりばんこに愚痴をこぼすうちに涙がこみ上げてきて、俯いたまま僕は静かに泣いた。僕の涙が地面に落ちたのと時を同じくして、静かに6月の雨が降り出す。
 隣で声を上げて泣いている彼女が僕の店にアルバイト希望の面接にやってきたのは、それから1週間後のことだった。

       

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Neetsha