Neetel Inside 文芸新都
表紙

そして俺はカレーを望んだ
第一話『へ……!?』

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第一話『へ……!?』



『――には、何らかの――が見られ――ては――昨今の事件に――ていると』
 テレビからの声を右から左へ聞き流し、朝食を食う。食う。食う。
「思った。光史ってばカレー味のものを食べる時って、いつも黙るわ」
「……」
 雑音を全て脳内で打ち消し、目の前のドライカレーを食べることに集中する。黄色く染まった米粒からはスパイスの効いた匂い。それが鼻を刺激して、思わず口に運び込む。瞬間、舌に感じる強烈な刺激。これが辛味か――。水分が抜けた米粒は歯ごたえがよく、それでいて旨みは残っている。なんということだろう、人類はこんなにも美味いものを作ってしまうどころか、これを食卓に並ばせるほどの技術力を持ってしまった。間違いなく、このドライカレーは世界を救える。喧嘩をしているカップルに差し出してみろ、途端に喧嘩を止め、この魅力的な匂いを放つドライカレーにぞっこんだ。ま、ドライカレーを奪い合うという喧嘩になっちゃうのが玉に瑕だな!
「で、感想は」
「母さんはまだいける。まだ高みを目指せる。こんなにもおいしいドライカレーだけれど、この先を俺は見て《食べて》みたい」
「わかった。今日の晩御飯はカレードリアね」
 カレードリア……だと……。いけねえ、俺の唾液がボルケーノだぜ。
 この席に座っていたら、おかわりという禁断の言葉を発してしまう。時間を見るに、そろそろ行かないとまずい。というわけでコップの中の水を飲み干し、ごちそうさまの一言と共に席を立ち、おそまつさまの一言を背後に受けながら、学校へ行く準備をする。
 ――今日は、なんてことはない日だ。そう、何もない日。いつも通りの日だ。何もないことはいい事だと思う。飽きない程度に娯楽は供給されてるし、生活し続けるに困ることは何もない。これ以上何かがあったら、それはサプライズなんかじゃなく、ハプニングだろうと。
 そんなことを考えながら、家を出る。歯磨きをしたはずなのに、存在の主張を続けるドライカレーな口臭が、この爽やかな朝をぶち壊しだ。うん、この程度でいい。何も無さ過ぎるのは詰まらないからな。
 通学路。塀の上で猫が欠伸をしている。かわいい、顔がにやける。サプライズだね!
 それだけで、登校時間は終了。家から学校までは500mも離れておらず、この道を歩くたびに、女の子と長話しながら素敵な時間を楽しむという行為は出来ないのだろうと絶望する。楽だから別にいいんだけどね。そもそも一緒に行ったり帰ったりする女の子なんていないし。曲がり角も無いからぶつからないし。終わってる。
「おはようござーます!」
「おはよお」
 校門の前で元気に挨拶をしている何かの委員だろう男子がいたので、挨拶を返す。爽やか過ぎる笑顔を返された。太陽だな。
 眩しすぎたので少し足早に下駄箱へ向かい、内履きに履き替える。毎回思うけど、なんで男子の下駄箱周囲ってこんなにダークマターな匂いがするのだろうか。今日はドライカレーがあったからよかったものの、毎日嗅ぐには少しばかりきついものがある。
 なんてくだらないことを考えていた所為だろうな、女子の下駄箱から来た人とぶつかってしまう。……俺は前を見ていた。横は見ていなかった。そういうことだ。
「ごめん」
 一応謝る。しかし、前を見ていなかったのは向こうのほうだ。確かに俺も横は見ていなかったが、普通に考えて俺が謝られなければいけないはずだ。
 さあ、謝れ。そして何事も無く教室へ行こう。……と、思ったんだが、スカートを履いた人は一向に謝る気配が無い。うん、変な言い回しだな。女子だ。
 よくよく見ると、目の前の彼女は何か変だった。いや、制服はうちのだし、スカートを履いた男子ってわけでもないんだけど、ああ、気付いた。髪が黒くない。プラチナブロンドとでも言えばいいのか、それはもう綺麗な銀色だった。そうして俺が髪に見とれていると、彼女が俺のことを見ていることに気付く。どうしよう、女子とあまり話したことないんだけど。なんで俺のことを見てるんだ。やばいな、てんぱってきた。
 ふと彼女の目を見る。俺の顔に負けないくらい真っ青な色。その時点で俺は悟ったね、この子は日本人じゃないんだと。つまりは簡単だ、日本語が通じてなかったんだ。これで大丈夫、英語の点数は赤点ぎりぎりだけど、ソーリーくらいはわかるぜ。
「ソーリー」
 しかし、俺の発した謝罪の言葉に彼女は何を言うのでもなく、興味無さ気な視線を俺から離すと、校舎の奥へと歩いて行ってしまった。へこんだ。……教室に行こう。
 教室に入り、席に座り、さっそくのネガティブタイム。人には言えないけど、俺は女の子が少々苦手だ。だってそうだろう、あいつら何考えてるかわからないんだもん。だからって男色に走るとか、別にそんなことはないんだが。まあ、なんてことはない、目の前に女の子がいると少してんぱるだけだ。気にすることはない。けど、さすがにさっきのはへこむわ。ソーリーとか言っちゃったんだけど。それでも無視されるとかどうしよう泣けてきた。
「やあ、どうしたのさ相羽君。まるで脳味噌をグレイにキャトルミューティレーションされたような顔をしているよ?」
「疑問形で言われても俺は反応できないぞ。さすがに反応できないぞ」
 窓の外を眺めてちょっとしたセンチメンタルを感じていた俺は、急に脳内を侵食してくる未確認飛行物体な単語に溜め息を漏らす。声のしたほうに顔を向ければ、名前は覚えてないけどクラスメイトな男子が立っていた。
「僕の予想では、君の性器も綺麗サッパリ無くなってると思うんだけど、どうかな」
「それはやばいな。じゃあ今日の朝立ちは一体なにが立っていたのか気になるぞ。というかお前なりの挨拶なのか、それは」
「おはよう」
 ほんと誰だよお前。なんで知らない奴に俺の朝立ち事情を話さないといけないんだよ。
 名前も知らない奴の所為で、すっぱいブルーな気持ちが一瞬にしてグレーになってしまった。グレイだけに。なんちって。
「ぶふっ」
 どうしよう、自分で考えて笑ってしまった。だめだな、俺。コイツと同類だよ。変人だ。だがしかし、グレイだけにってのは。
「ぶふお」
 考えて噴いた。
「相羽君が元気無さそうだったから、僕なりの挨拶で元気を出してもらおうと思ったけど、どうやらその目論見は成功したようだね」
「いや、俺が勝手に笑った。自分で考えた駄洒落で笑った。お前が俺に出来たのは、駄洒落のネタを提供するまでだ」
 何がツボに入ったんだろうか。自分のツボが信じられなくなった。とりあえず噴き出しそうになりながらも、冷静にメガネへの返事をする。……ようやく腹筋が落ち着いたので、深く呼吸。
 さて、目の前には怪しげな雑誌を脇に挟んだ眼鏡属性持ちのクラスメイトが立っている。どうするか。生憎だが、“そっち”関係のことはグレイとかUFOまでしかわからない。つまり、会話が続かない。それは気まずいだろう。……よし、名前を聞こう。というか、それが第一だろ。なんで相手は俺の名前知ってんのに、俺は知らないんだ。それはちょっと相手に悪い。よし。
「ところで、ぶしつけなことを聞くけど、名前知らないから教えてほしい」
「え? 僕の名前? じゃあクラスメイトCかな」
「“じゃあ”の意味がわからない。その名前もわけがわからない」
「実はね、僕、説明キャラというものに憧れてるんだ。いつか、僕が説明キャラとして活躍する時、“お前は! 通りすがりのクラスメイトC!”という反応をしてもらうために、この場はこの名前で覚えてもらいたいな」
 多分、お前のムー的な知識を披露する場は、今後来ないと思う。そんな言葉をぐっと飲み込み、自分なりに一番爽やかだと思える笑顔を浮かべる。こうするしかないだろ。
 メガネは満足したのか、自分の席へ戻っていった。結局キャトルなんとかってのを言いたかっただけなんじゃないのか。俺が落ち込んでるとかどうでもよかったんじゃあないのか。俺自身も既に落ち込んでいたことを忘れてしまっていたぜ。
 心の内で一通りツッコミを入れ終わり、満足。時計を見ればそろそろ朝のホームルームが始まる時間だ。今日は朝から変なのに絡まれまくったけど、うん、平和だ。
 教科書を机の中に入れていると、担任が教室へ入ってきた。騒がしかった教室内が、一瞬で静まる。よく訓練された生徒だな。担任は教壇の前に立つと、“えー”の後に適当な挨拶をする。思う、なんでああやって前に立ち、話す人ってのは“えー”って言うんだ。気にしだすと、何回言ったか数えちゃったりして凄く困る。授業中とか困る。
 そんな感じで俺が困っていると、聞き流していた担任の言葉の中に、いつもと違う言葉が混じる。
「えー、ホームルームを始める前に、一つ。実は今日、転校生が来ている。季節外れだとは思うが、えー、彼女は両親の都合により、各地を転々としているそうだ。まあ、仲良くしてやってくれ」
 転校生。季節外れの転校生。しかも女の子。こいつはやばいな。そう思ったのも束の間、教室内が静かなざわめきで溢れる。主に男子。気持ちはわかるよ、俺もざわめきたい。急なサプライズで色々と胸に沸きあがるこの思いを、ぶちまけたい。しかし、俺の隣の席は空いたまま。あの野郎、今日もか。
 俺が不完全燃焼のまま、担任の一喝によってざわめく場は消えてしまった。続いて、担任は喋る。
「それじゃあ、自己紹介をしてもらおうか。おーい」
 担任が前、教壇側にある扉を見つめる。俺たちも見つめる。その時、扉が開いた。後ろの。
 後ろの扉……だと……? やべえな、フェイントだよ。転校生ごときがフェイントだぜ。右も左もわかんないような奴が、俺たちにフェイントをかましやがったんだ。
 まさかのフェイント。教室中の奴らが後ろの方にある開いた扉を見て、閉口。
「先生! 遅くなりました! まだ出席取ってませんよね! 座ってます!」
「あー……ああ、早く座れ、山田」
 “あれは……山田! 山田じゃないか!”、“ファック、山田の野郎、驚かせやがって!”、“え? 山田が転校生で山田はクラスメイトで、え?”。
 二度静まった教室内も、空気読めないのあだ名を欲しい侭にする山田の登場により、騒がしくなる。当の本人と言えば、俺の隣にちゃっかりと着席。ああ、そうだ。コイツだよ。山田が居ないと、俺の一日は始まらない。俺の一日を潤してくれる、天然のトラブルメーカー! 山田! 今日もどうせ遅刻扱いだぜ!
「おはよう、相羽。今日も変人っぽいな」
「お前には負けるよ。勝てる気がしない。そんなことより空気読めよ」
 山田と適当に挨拶を交わし、担任が必死に静めた空気の中で転校生を待つ。しばらくすると、教壇側の扉が開き、女子が一人入ってきた。その瞬間、教室の空気が変わる。俺の心臓が入ってきた女子を見てビクビクする。
 煌くような銀髪、日本人じゃありえない青い瞳、彫りの深い顔立ち。間違いねえ、朝のブルーな彼女だ。
 担任に白いチョークを渡された彼女は、黒板に“Heinrike Gerlach”と流れるように書き、チョークを担任に返す。そして前を向き。
「ハインリーケ・ガーラックです。親しい人はハインと呼びますが、親しくなる前に私が転校すると思うので、気にしないでください。よろしくお願いします」
 気にしなくていいなら言うなよ、と。いつもの調子でツッコミたくなるのを堪える。さっきも思ったけど、自分素っ気無い奴だ。なるほど、俺にだけじゃないんだな。少し安心した。
「まあ、そんなわけでハインさんは空いている席……そうだな。ああ、相羽の後ろにでも座ってくれ」
「わかりました」
 担任が適当に相羽の後ろの席を指差す。相羽の後ろか。……俺じゃん。やめてよ。なんて、そんなことは言えるはずもなく、彼女はすたすたとこちらに向かってくる。……目の端に映っている山田の顔が輝いているのは気のせいだろうか。気のせいじゃないな。
 彼女が俺の隣を通りかかった時、一瞬だけ目と目が合う。なんだかサディスティックなものを感じたんだが気のせいだろうか。気のせいじゃないな。
 事もなく。彼女は俺の後ろの席に座ったのを確認して、担任はいつも通りホームルームを始めた。



 授業が終わる。随分早いと思ったが、なんてことはない。今日は土曜日だ、半ドンだ。ということは、バイトのシフトもそれに合わせて入れてあるということ。なんだか他人行儀だな、自分のことなのに。忘れてたんだからしかたないけど。
 机の上に広げてある教科書を鞄に突っ込む。そうか、だから今日の鞄は軽いんだよな。明後日に数学の小テストがあることを思い出し、鞄にちゃんと教科書が入っているか確認。よし。
「よお相羽、駅前のゲーセン行こうぜゲーセン。今日はアーセナル・コアの稼働日だし、一緒に対戦しようぜ!」
 いざ、バイト先へ向かおうと席を立った時、まるで見計らったかのように山田が話しかけてきた。長くなりそうなので鞄を机の上に置くと、俺は言葉を返す。
「やだ。家庭板のをお前とやったけど、あれクソ難しいじゃん。というか、俺今日はバイトなんだけど」
「今日“も”、だろ。ひでえよ、最近の相羽ってばほんと付き合い悪い。それだから女友達いねえんだよ」
「付き合い悪いのは認めるけど、その話の飛び方は認められないぞ。なんでそれが女友達に繋がるんだよ。山田のくせに俺のハートを傷つけるな」
「心外だ……なんなら、女友達、紹介するぜ?」
 山田が爽やか過ぎる笑顔を浮かべながら、携帯を取り出す。
 どうしよう、それはすごく魅力的な提案だ。思わず首を縦に振りそうになるが、少し考える。はたして、山田の奴がなんの思惑も無しに貴重な女友達を俺に紹介するだろうか? いや、しないだろうな。コイツとの付き合いは長い。バカのフリをして、こういうことに限っては悪魔的な頭脳を発揮する。なにか、とてつもないことを企んでいるに違いないさ。ああ、人は醜い。
「せっかくだが、その提案は却下だ。なまじ山田が言うだけに、底知れない何かを感じる」
「よくわかったな! これをネタに一週間ほど昼食をたかろうかと思った。反省はしていない」
「そんなことだろうと思ったよ。もうお前とは話さない。帰る」
 本当は別に山田と話し続けてもいい。けど、時計を盗み見た限りそろそろバイトの時間が迫ってるので、早々に切り上げる。山田が心底寂しそうな目を俺に向けているが、この際無視するしかないだろう。……山田のこと、好きか嫌いかと聞かれたら好きって答えちゃうくらい好きだけど、今はバイトを優先するしかない。ああ、心が痛い。
「じゃあごめん山田、一足先に帰るわ! 好きだぜ!」
「……キュン」
 山田と気持ち悪いやり取りをして廊下に出る。急がないとな。
 下駄箱に向かい歩く。耳に入ってくるのは、やる気をビンビン感じる野球部の掛け声。青春の声だよね。……そういえば、俺も部活動なんてものに入っていた気がする。そう、確か天文部。
 僕達私達が通う高校にある天文部は、顧問すら投げ出すほどに幽霊部員が多い。ついでに、部員数もトップだ。まあ、このご時世だし仕方ないとは思うんだけど、活動する気が無いのなら入るなよと、声を大にして言いたい。そんな俺も半幽霊部員と化しているから、それこそ大きい口を出せる立場じゃないんだけどね。
 そんなどうでもいいことを考えていた所為だろうな、下駄箱までやってきた俺は、背中で誰かとぶつかってしまう。……俺は今朝の経験を生かして、前はもちろん横も見ていた。そういうことだ。
 振り向けば、もうここまでくれば予想通り、銀髪の彼女が居た。……あー、えー。うん、名前忘れた。
「謝謝」
 これもまた今朝の経験を生かした謝罪だ。以前、銀髪の人形遣いが出てくる漫画を読んだことがある。確か中国っぽい所にも行ってた気がするんだよね。そういうことだ。
「……Ein Hindernis」
「へ……!?」
 おかしいな。思うに、これは中国語ではない。……ははは、瞳が青い中国人なんているかよくそったれ。というか今朝、日本語喋ってたじゃんかよ。俺にコントじみたことをさせるなよ。
 ぼそっと喋った彼女だが、ニュアンス的に考えてあまりいい言葉とは思えない。なんか不公平じゃね、向こうは日本語がわかるからいいけど、俺はわからないんだが。
 気まずい空気が俺と彼女の間で流れる。そうだ、今気付いた。俺、女の子苦手なんだ。へ!? とか言っちゃったんだけど。印象悪いよな。しかし、今朝の一件からして俺の印象は既に会う前から最悪みたいな、そんな感じだったんだけど。じゃあ印象良くするとか、そもそもの時点で無理じゃねえか。泣けてきた。帰りたい。
 冷や汗を流しまくっていると、目の前の彼女が急に俺を見上げる。流れる銀髪、青い瞳。やべえな、可愛い。女とか恐いけど、この子は可愛いかもしれない。そうだ、好き嫌いはしちゃだめだって母さんに言われてるもんな。この機会に仲良くしてみるのもいいかもしれない。
「邪魔、って言ったの。退いてくれない?」
 そんなことを、敵意のこもった瞳で見つめられながら、言われてしまった。
「……はい。すみません」
 結果、こうなる。仕方ないだろ、退けって言われたんだから。退くしかないじゃないか!
 やばいな。女の子恐いな。下手なことは考えるもんじゃない、やっぱり恐いものは恐い。しかも、“あれ”は別格の恐さだ。山田とはまた違った底知れない何かを感じる。……あの調子じゃあ、
『ぶつかってきたのはアンタなんですけど! 謝ってください! 三秒以内で!』
 なんて言えるわけもなく。
 恐くてしばらく立ったまま呆然としていたけど、バイトのことを思い出して気持ちを切り替える。よし、彼女のことは置いといて、とりあえずバイト先に向かおう。



 労働と言うには程遠い作業を終えて、俺は家路に着く。いやあ、暇だったな。いつものことだけど。軽く体を伸ばして、すっかり辺りが暗くなったのを確認すると、遅れて寒気を感じる。そうだね、もう冬だもんね。いつ雪が降るかと思うと、気が気じゃないぜ。
 歩きながら、今日あったことを思い出す。清々しいくらいに何も無かったな。あったとすれば転校生イベントくらいか。女だったし、どうせ仲良くなれないんだから考えるだけ無駄だろう。うん。それよりも明日は日曜日、山田といかにして休日を遊び倒すか、それを考えるほうが実に有意義だ。今週は張り切ってシフトを入れすぎたし、お詫びもかねて山田が嫌と言うくらい遊ぼう。……どう考えても俺のほうが先に音を上げるだろうな。
 繁華街。等間隔で街灯が並ぶ道を黙々と歩き続ける。家からは少し遠いけど、今やってるバイトは時給がいい。少し歩く程度だし、かなりお得だと思う。バイトOKな高校で本当によかった。毎日ほくほくしている懐を思い、顔がにやける。そのまま近道の公園に入り、転んだ。
 転んだ。
「転んだ!」
 いてえ。まさか何も無いところで転ぶとは。あまりの唐突さに口に出して転んだことを確認してしまった。
 膝を擦ったけど、長ズボンでよかったなあ。制服にも穴は開いてない。よし、大丈夫だ。安心して膝をさすりながら、ふと、足先を見る。随分とスポーティな白い靴が目に入る。ああ、俺の靴だ。間違いない。だが、問題はそこじゃあない。これが内履きだという点だ。
 ……そうか。下駄箱での一件ですっかり履き替えるという考えが失せてしまってたんだろうな。しょうがない、あれは全てを忘れるくらいの恐さだった。ああ、しょうがない。
 公園に入ったことにより地面の質が急に変わって転んだんだろう、そう考えると納得できる。俺は変人だとしてもドジっ子じゃないからな。
 気を取り直して立ち上がり、吹っ飛んでった鞄を拾う。人に見られてなくてよかった。こんな現場を見られたら、とてもじゃないが生きていける自信がない。
「……何してんの、あんた」
「生きててごめんなさい!」
 茂みから声がした。つまり、見られていた。咄嗟に俺の口から自分の全てを呪う言葉が出た。……終わったな、俺の人生。そして始まる、明日からの俺。そうだ、挫けちゃあいけない。知り合いならともかく、知らない人に見られたって別に何も悩むことはないじゃないか。こんなことで死ぬだなんてバカらしい。挨拶をして帰ろう。
 よし、と茂みのほうに体を傾けると、今日何度目だろう、銀髪の彼女が姿を現した。そう、銀髪の彼女だ。知り合いかと聞かれたらそうでもないけど、でも、同じ高校に通うクラスメイト。……見られた。俺内履きじゃん。死ねる。
「こんばんは。さようなら」
 見なかったことにしよう。そもそも、こんな夜に公園でうろつく転校生なんて、俺と比べたとしても十分に変人じゃないか。そんな奴に構っている暇はない。ああ、無視に等しい対応で十分だ。
 二言残して、俺は踵を返し立ち去ろうとする。が。
「待ちなさいよ。私は何してんの、って聞いているんだけど」
 歩こうとしているのだが、前に進めない。制服のブレザーを後ろからつかまれた。なんだよそれ、お前こそこんな時間に何してんだよ。なんて、言えないですよね!
「家に帰っているんです。さようなら」
 前に進む。
「あ、そ」
 後ろから相変わらず素っ気無い感じの言葉が聞こえてくるが、無視無視。腹も減ってきたし、内履きは恥ずかしいし、早く帰ろう。そうしよう。
「一応言っとくけど、その先に進んだら、死ぬわよ」
「知ってます。さようなら」
 マジ変人だなあいつ。俺でもさすがに死ぬとかどうとかは冗談でも言えないわ。ありゃあ関わっちゃいけない類の変人だぜ。
 別に追いかけてくる気配はない。いや、これで追いかけられたら全力で逃げるんだけどさ、やっぱ変人に背中を見せるのって抵抗あるじゃん。俺はある。
 広い公園。繁華街に面しているからか、少しでも緑を多く見せようとした結果なんだろう。林まではいかなくとも、相当な数の木が生えている。鬱蒼とした茂みもいくつかあって、夜に一人で通るには、中々ハードルの高い場所だ。それでもここを通り抜けることによって、約10分ほど時間が節約されるのだから通るしかない。でもやっぱ雰囲気怖い。
 ちょうど公園の中心あたりだろうか。申し訳程度に設けられた灯りを頼りに進んでいると、少し遠くに人が立っていた。うん、それだけだ。ロングコートに深く被ったニット帽という風貌はあからさまに怪しいが、別にこっちから刺激しない限り害は無いだろう。たとえあのロングコートな人が殺人鬼だったとしても、俺なんかを殺して楽しめるはずが無い。……あれ、誰でも殺すから殺人鬼なんじゃね?
 恐怖感がピークに達する。ロングコート――顔を盗み見たが、男だ――男の横を通り……過ぎた。よし、何事も無い。そうだよな、そうそう何かが起こったら、今頃地球は爆発してるぜ。ああ、怖かった。
「おい、止まれ」
「はい」
 即答して振り返る。世の中は甘くなかった。世界はこんなにも残酷だ。俺という害の無い一人の高校生を恐怖に陥れるくらい、この世の中、なんてことはないのだ。
 声を発したのは、目の前のロングコート男。とても寒そうに、両手をポケットにつっこんでいる。そうか、この人は怪しい風貌をしているけど、別に殺人鬼なんかじゃないんだ。寒いだけなんだ。多分、ニット帽を深く被っているのは髪の毛が薄くて、体と心、二つの意味で寒いだけ。なるほど、納得した。全然怖くない。
「ここらで銀髪の女を見なかったか。お前と同じ制服の学校に通う女だ」
 顔はよく見えないが、声がイケメンなロングコート男は何を思ったのか、銀髪女を捜してると言う。何故? いや、わからないが、多分彼女もこの公園に来ている辺り、知り合いなんだろう。待ち合わせていたに違いない。この公園は広いし、会うのに苦労していると、そういうことなんだろうな。納得した。全然怖くないぞ。
「見てないです。じゃあ俺はこれで」
 ロングコート男に背を向けて、歩き出す。
 よかったよかった。なんとか何事も無く帰れそうだ。
「待て」
 カチャリ、と。なにやら金属めいた音が、俺の背中で鳴った。どうやら、背中に何かを押し付けられたらしい。あれだよな、こういう状況だと、映画なんかでは銃を押し付けられちゃったりしてるんだよね。
 恐る恐るゆっくりと振り返れば、なんだ、ただの銃じゃないか。
「命だけは助けてください」
 ああ、人は醜い。考えるよりも前に、俺は命乞いをしていた。いや、ごく普通の反応だと思う。夜、銃、変質者、これだけで既に満貫確定みたいなもんだよ。さらにそれが自分に降りかかるとかいう裏ドラが乗っちゃってるんだから、でかいね。これはでかいよ。泣かないだけでも、俺、頑張ったと思う。
 ロングコート男は銃を構えたまま、俺に手を差し出す。やべえ、黒い皮手袋だ。かっけえ。……ロングコート男が喋る。
「学生証を出せ」
「わかりました」
 ここは下手に逆らわないほうがいい。学生証くらい、いくらでもあげようじゃないか。
 ゆっくりとズボンのポケットに手を伸ばして財布を取り出し、その財布ごと男に渡す。よし、これで大丈夫な気がしてきた。財布ごと渡されるとか、この男にとってすげえサプライズだぜ、きっと。
「……もう一度聞く、女はどこだ」
 しかし、男は声色すら変えることなく、同じ事を俺に聞いてくる。もちろん財布は返してくれない。
「え、知りませんけど――」
「嘘をつくな。お前はなんだ、女の仲間か。女はどこに潜んでいる。次に下らない嘘をつけば、俺は引き金を引かなければならない」
 ちげえ仲間じゃねえ。確かに嘘ついたけど何故か嘘ついちゃってたけど、でもこれはわけわかんねえ。なんだよ引かなければならないって。引くなよ! 殺す気か!
 ……殺す気なんだろうなあ。
 有無を言わさない空気に俺は素直に言わなかったことを後悔し、彼女を見たと口を開こうとした、その時。
「――ッ!」
 ロングコート男が、急に俺から見て右を向き、銃を構えながら後ろに飛び退いた。やべえ、何やってんのこいつ。さすがの俺でもこの変人っぷりには敵わないわ。
 呆然としていると、男が銃を向けている茂みから、鼓膜が痛くなるほどの音が辺りに響き渡った。遅れて、草木を掠る音。……うん、銃声だ。とりあえず腰が抜けたのでへたり込んでしまう。
 今思ったけどこの男すげえな。音がする前に飛び退いたぞ。あれか、漫画によくある気でも感じたのか。世の中やべえな。
「来たか、ガーラック……!」
 男が銃を握り締めたまま空を仰ぎ、変なことを喚いている。どうしよう、このどさくさに紛れてとりあえず逃げたいけど、腰が抜けて、立ち上がれないぞ。
 それでもせめてもの抵抗、地面に捨てられた俺の財布を広い、ポケットにしまう。うん、命は守れそうにないけど懐が暖かくなった。少し安心。
 安心して溜め息をついていると、またも銃声。続いて、茂みから人影が飛び出す。灯りに反射しているその銀髪は、見間違えるはずもない、今朝と今晩の彼女だった。なんか銃持ってる。
「とうとう名前まで覚えられたなんて、開道寺兄妹も中々暇なのね」
「ほざけ。自分がしていることを棚にあげて、よくもまあ言えたものだな」
 ロングコート男と銀髪女。二人が距離をとり、対峙している。そして、二人が駆け、銃声が続けざまに鳴り響く。
 ――目の前で何が起こっているのかわからなかった。
 彼女の手には夜でも黒く光る銃が握られていて、それを人に向けて容赦なく撃っている。アクション物の洋画ではよく目にする光景だけれど、現実ではあまり見られない光景だ。いやいや、見るような状況に俺は疑問を抱いているわけで、この考え方はちょっとおかしい。
 目の前の光景から目をそむける。違いねえ、これは夢じゃない。いや、バイト帰りに夢を見るほど俺は眠りに貪欲ではないし、立ったまま眠るなんて高等技術も持ち合わせちゃあいない。というわけで、この考えもなんかおかしい。
 もう一度視線を目の前へ向ける。ああ、黒のロングコート男に向けて、彼女が銃を撃っている。……ここは日本だぜ。天下の日本だ。治安だけはいいはずなんだ。不祥事だの何だのと言われているが、日本にも警察はある。なのにまだ警察が来ないのはどういうことか。俺を早くこの場から助け出してほしい。そうだ、俺は無関係な通行人だ。別にこんな非日常なんか求めちゃあいないし、明日の小テストのことを考えたくらいで死にたくなる善良な高校生だ。そんな俺を巻き込んで、この目の前でドンパチやっている二人は楽しいのだろうか。よくよく考えれば不可抗力もここまで極まれりと言うのか、俺がこの場にいる理由なんてこれっぽっちも無いわけだ。ならば話は至極簡単、この場から一目散に逃げ出し、家に帰って布団に包まるべきだ。ああ、それが正しい。
 我ながら恥ずかしい、尻餅をついていた体を起き上がらせ、落としてしまった鞄を拾い、俺なんかには意識を向けてないと願いつつ体を反転させ、さあ、逃げよう。
「――その道は通行止めだ」
 駆け出した直後、背後から若い男の声。間違いねえ、彼女とドンパチやっていた奴の声だろう。だが、知ったこっちゃない。なんせ俺の目の前に障害物は無いし、これだけ広い公園なんだ、たとえ通行止めになるほどの物があったとしても、いくらでも逃げようはあるさ。撃たれる可能性として、男は銃を持っているけど、所詮ハンドガンだろ。これだけ離れていれば当たることはないだろう。以上、漫画で仕入れた知識披露終わり。走る。……それにしても内履きって走りづらいな。今日に限ってこれだよくそたれめ。
 無視して走っていると、背後から“轟音”としか表現できない音が聞こえてきた。そう、過去形。焦げ臭い空気が頬を撫でたと思ったら、急に明るくなり、何故かはわからないが目の前に俺の身長ほどはある火の壁が出現した。
 そう、火の壁。まんま火の壁。MTGで言わせるとパワーが2ほどある壁。それが俺の目の前で轟々と燃えている。火なのだから燃えているのは当たり前。やばい、目の前の出来事に頭が追いつかない。
 こうなれば人間も本能で動く、俺は火の壁を回り込むように向こう側へ進もうと走り始める。が、俺の動きが想定内と言わんばかりに、またも目の前に火の壁。壁。半円を象るように現れた火の壁は、なんてことはない、俺の逃げ道を完全に潰してしまいやがりました。
 諦めて後ろを向くと、ロングコート男が勝ち誇ったような笑みを浮かべて俺を見ていた。なんだそれ。なんでこんなに燃えてんだよとか、色々と思うところはあるけど、なによりもなんでそんなに勝ち誇ってんだよ。口に出したらちょっと悲しいから言わないけど、俺はただの通行人だぜ。MOBだぜ。毎日同じことしかしてないような、そんな普通の人間捕まえて、なんでお前はそんなに勝ち誇ってんの。さすがの俺も少しビキビキきちゃうんですけど。
 そんなビキビキも、ロングコート男が銃を構えて近づいてきたことにより、一瞬で萎えてしまう。どうしよう、銃で撃たれたら痛いのかな。痛いだろうな。しかし、逃げ道を思う。焼死ってのは個人的に一番やりたくない死に方なんだけど。あれ、どうしよう。なんで俺、こんなことになってんだ。
 というか彼女はどこだよ。
 それだよ。
 なんで俺がコイツに絡まれなきゃいけないんだ。
 彼女とドンパチやってろよ。
 頼むよ。
 お願い。
 帰らせて。
 今日の晩御飯は俺の好きなカレードリアなんです。
 誰か。
 神様。
 死にたくない――。
「――開道寺ッ!」
「む」
 後ろは熱いし前は恐いしもうだめだ終わりだ。なんて死を覚悟していると、隠れていたのか、銀髪女が近くの茂みから飛び出してきた。
 というかなんで名前叫びながら出て来るんだよ。ばれるじゃん。撃たれるよ? それでいいのか? だめだろ? 撃たれたら痛いに決まってる。そりゃあ血がドバドバ出るだろう。その内、体が冷え切って死んじゃうだろう。それはだめだ。
 男は完全に銀髪女のほうを見ている。いける、やれる。俺なら出来る。
「ちょっと失礼」
「なっ!?」
 紳士的に断りを入れて、俺は力の限り男に突進する。……やべえ、普通に転ばせちゃった。どうしよう。あ、銃落としてる。やべえ、恐くねえ。
 咄嗟に俺は銃を拾い、予想以上の重さにびっくりしながら、背後の火の壁へ投げ捨てる。よし、もう恐くないぞ。
「ちょっと、なにしてくれてんの!」
「え?」
「……貴様、死にたいのか」
「へ?」
 気付けば、俺は仁王立ちしている銀髪女と地面に伏せてるロングコート男、二人に睨まれていた。やべえ、ロングコート男はもう恐くないけど、女は恐い。銃持ってるし。よくよく考えたら、俺が銀髪女に撃たれない保障なんて一つもないわけで。
 俺が失禁しそうになっていると、男がゆっくりと立ち上がる。そう、ゆっくりと身長に。……なるほど、銀髪女は銃を持っている。さっきのドンパチを見る限り、ただのサバイバルゲーム仲間ってことはないだろうしな。下手に動けないわけだ。
 男は立ち上がり、そのままゆっくりと両手を挙げて。
「動く――」
 な。銀髪女が制止の声を上げようとしたところで、視界が真っ白に煌いた。閃光だよ閃光、もう無理、目開けてらんない。目を瞑る。
 ……無音が続く。なんだ、どうなったんだ。あれか、スタングレネードでも使ったのか。ということは、俺は今無防備か。やばいな、これは死ねる。……と。
「ぐふう」
 腹に、猛烈な、衝撃が、あ、もう一発、ぐ、これは、効くぜえ……。
 たまらず目を開けると、とっくに視界は回復していて、目の前には銀髪女が物凄い形相で俺の腹にパンチを食らわせていた。そうだ、腹がいい。顔はダメだ、傷が残るからな。しかしだな、やっぱりこれは、効くぜ……?
 地面に膝を付く。思わず咳き込む。やべえ、女とは思えないパンチだ。いや、女だからこその所業かこれは。だめだ、やっぱ女恐い。ろくなことしねえ。
「何考えてるの、あんた」
「いや、今は何も、考えられないです」
「そうじゃなくて、なんでタックルなんかしたの、って聞いてるの。なんなのあんた、私の邪魔して。そんなに死にたいわけ?」
「邪魔した覚えはないし、死にたくもないわ。少なくとも、お前のほうが死にたそうなことしてたぞ」
 なんで俺が殴られなきゃいけないんだ。そうだ、俺は彼女を助けたんだぞ。命の恩人だと、お礼の言葉の一つくらいもらってもいいはずだ。腹にパンチを入れるのが外国式の謝礼だと言うのならば、何も言えないが。それはまずありえないだろ!
 とか思ってたらだんだんと怒りが沸いてきたので、丁寧語を崩しながら彼女に答えた。
「別に私は頼んでないんですけど。勝手に巻き込まれた分際でよく言うわ」
「巻き込んだ張本人がよく言うぜ」
 にらみ合う。が、恐いので目を逸らす。いや、あれだ、なまじ可愛いだけに恐いというか、その風貌でメガトンパンチかましたり毒を吐いたりされると、さすがに参るんだわ。だめだ、もう無理。恐い。帰りたい。
 彼女は何も言わない。俺も何も言わない。埒が明かないので、鞄を拾って再度立ち上がり、目を逸らしたまま帰ろうとする。
「……」
 閉口。忘れてた。パワー2の壁クリーチャーが召還されてたんだった。やべえな、倒せる気がしねえよ。回り道しかないな。しかたなく、火の壁に沿って歩き始める。
 ……今日はいろいろなことがあったなあ。ハプニング続きだったよ。もうお腹いっぱい。口からはみ出るほどにハプニングだよ。でも、こんな日があってもいいかな。これであとは家に帰ってカレードリアを食べて、風呂に入って寝るだけだ。うん、中々刺激的な“日”だったね、“火”だけに。火の壁だけに。
「ぶふうっ」
 どうしよう、俺、笑いの才能があるかもしれない。さっきまでひどい状況に陥っていた人間を笑わせるなんて、こりゃもう地球を救えちゃうよ。世界中が笑いの渦だよ。はっはっは。
 ――カチャリ、と。
 どう考えても銃めいた音が、俺の背中で鳴った。どうやら、背中に銃を押し付けられたらしい。あれだよな、こういう状況だと、映画なんかでは銃を押し付けられちゃったりしてるんだよね。さっきもあったばかりだよね。
 恐る恐るゆっくりと振り返れば、なんてことはない、ただの銃を持った銀髪女が立っていた。




→第二話『ナンだけになんともないぜ』

       

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