Neetel Inside 文芸新都
表紙

そして俺はカレーを望んだ
――《The second meteorite collision(2)》

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 あの日から、焼け焦げた腕が脳裏に焦げ付いて取れないまま、一体どれだけの時間が経ったんだろうか。
 日に日に寒くなっていく俺の周りに近付く者はもう居ない。最初は心配してくれたんだろう手を差し伸べてくれた人達も、その手が凍り砕け散ることを知って離れて行った。
「……心まで、凍えてしまいそうだ」
 崩れたままのビルで寝泊まりして、いつの間にか“創れる”ようになっていた氷から水分を摂り。結局、俺自身が人から離れるように生活している。
 恐かった。
 今こうして冷静に思考出来ている事が不自然な程に、俺は憎んでいる。この、理不尽を許した世界に、彼女や俺の家族の代わりに生きている人に。……恐かった。自分のタガが外れ、手当たり次第にこの“力”を振るう事が。
 けど、この生活も長くは続かない。いずれ人前に出ない事には人が生きていくことなんて出来ないのだから。

――《The second meteorite collision(2)》

 日に日に増してゆく理不尽への憎しみは、とうとう力の影響を恐れる気持ちよりも上回り、俺は隕石が落ちた日から初めて、街を意図的に歩く事となった。
 歩きながら視界に入る光景は、何処もあの日見た“彼女”が住む地域と似ており、焼けた匂いがこびり付いている。
 すれ違う人は、そもそも俺の事なんて気にしていなかった。他人を気にしている余裕なんてないのだろう。二週間も前ならば、俺の恰好はホームレスでも通りそうだと言うのに。
 未だ整備されていない道を歩きながら、俺は曇天を見上げる。雪は降っていないが、刺すような冷気が体中を撫でまわしている。
 ……そうだ、俺は生きている。生き残り、そして、何の因果か力を手に入れてしまった。なら、やるべきことは一つしかないのだ。死ぬわけにはいかない。“この”原因を創った何かに復讐するまでは。
 俺は視線を前へ戻すと、当面の食料、それに今着ている物よりも寒さを防げるような服を探し始めた。
 探し始めて一時間も経たない内に、厚手の黒いロングコートと新品同然の靴を手に入れることが出来た。爆風で散らかった物が道に飛び散っていたこと、加えて未だに治安が回復しきっていない事もあり、拾って持ち去ることは容易だった。
 こうして俺は拾ったコートを今着ている服の上からそのまま羽織り、靴を履きかえる。やはり防寒を目的としている服だけあり、先程までとは体感している寒さの度合いが全然違う。
 履いている靴を脱いで、新しい靴に履き替えながら、俺は周りの景色に目をやる。俺の記憶が正しい限り、この辺りはデパートやショッピングモールがあったはずだ。しかし、デパートは崩れかけ、ショッピングモールは、もはやどこにあったのかさえ思い出せないくらいにその形を成していない。
 ……この光景が、俺の今置かれている状況が、全てあの石ころ一つでの結果だと言うのなら、俺は一体何にこの気持ちをぶつければいいのか。
 無気力を隠そうともせず道端に座っている男か。一人で泣きながら歩いている子供か。目に希望を宿しながら瓦礫を片付けている人々か。
 わからない。ただ、一つだけわかる事は、何かにぶつけない限り、俺の気持ちは収まらないのだろう。
 靴を履き終えた俺は立ち上がり、当面の問題となっている食料を探すべく歩き始めた。



<――っだ、やだ!>
 その声は、不意に俺の頭の中へ割り込んできた。
 さすがに食料は全ての人間に需要があるからなのか簡単には見つからず、必然的に人気が少ない方へと足を進めていた時だった。
 まるで感情そのものに訴えかけるような叫びが、頭蓋の中に響いたのだ。慌てて周囲を見渡すと、俺以外にも聞こえていたようで数人の人が俺と同じように周りを見回している。
 恐らく、何かの因果で“俺と同じような類”の力を手に入れた者が発信しているんだろう。そう見当をつけるも、声とは違い何処から聞こえているのかは全く分からない。
<誰か、たす、けてっ!>
 二度目に鳴り響いたその声は、不特定多数に向けられる助けを求めたものだった。しかし、周囲の人間は不思議に思うことはあっても、動くことは無い。……仕方がない、これが一番しっくりくる回答だと思う。
 この声を聞いている者の中には、間違いなく助けたいと思っている者がいることだろう。だが、現実に声だけ聞こえている状況で何が出来る。拒絶と救いを求める声、それが聞こえただけでは何も出来ない。だから、仕方がない。その言葉が正解に最も近い答えと言えた。
<死にたく、ない>
 そう、この“おかしくなってしまった世界”では、そうすることが正解だったのだろう。現に周りでは声など聞こえないと言わんばかりに、皆平然と先程まで行っていた事の続きを始めている。それはそうだろう、“前までの俺でも”聞こえなかったことにする。隕石は飽くまでも自然災害として片づけられるが、頭に響く声なんてものは説明出来ないのだから。……でも、今の俺は分かってしまっている。それが有り得ると。
 ――だから、俺は走り始めた。この不条理を認める世界が許せなかった。不可思議を受け入れた世界を認めたくなかった。そんな世界の中で同化していく自分が耐え切れなかった。だから、俺は当てもなく走り始めた。
<やだ、やだよお> 
 走り始めて二分も経たない内に、当てが無かったはずの足が目的を持ち始めた。何度か頭に響いてくる声が、段々と強くなっているのだ。
 頭に声が響いたことなんて今日まで経験したことが無いものだから、強いと近いが比例しているのかは確かではない。しかし、それしか違いが分からないことは事実。俺は近付いている事を願いながら走り続け、ようやく、その“現場”と思わしき場所に辿り着いた。
 崩れ落ちそう、もしくはもう崩れているビルが集まるこの区画の中で一番原形を留めているビルに差し掛かった瞬間、初めて直接俺の耳に声が届いたのだ。
 辿り着いた場所は、さっきから薄々感付いてはいたが、俺が今日まで潜んでいた廃ビル群のすぐ傍だった。
 怒声と罵声。感情をそのまま表現しているかのような声は、その大きさもあり、すぐにその発信源へと導いてくれた。その場へ着いた時、真っ先に目に入ったのは五人の大人に囲まれている人影。見た限り性別は分からないが、輪の中心で蹲る人物が先程まで暴行を加えられていたことは火を見るよりも明らかな状態だった。
「誰だ、お前?」
 一人の男が俺に気付いたのか声をかけてくる。それにつられて他の四人も一斉に俺の方へ目を向けた。
「誰と言われても、呼ばれたから来た男としか言いようがない。お前達こそ何だ、そこで何やってんだ」
「呼ばれた? ……クソッ、この化け物が、またやりやがったのかよ!」
 俺の答えに怒らせるような言葉があったのか、仕切り役だと思わしき男が怒鳴りながらうずくまる人間を蹴り上げる。
 ……妙に冷える。それに気付いたのは、吐いた息が白くなって俺の視界に飛び込んで来た時だった。
「詳しい話は知らない。お前たちに興味も無い。だが、それ以上ソイツに暴行するのは止めろ」
「アァ? なんでお前に指図されなきゃいけねえんだよ、興味が無いなら帰りやがれ。殺すぞ?」
 未だに蹴ることを止めない仕切り役の代わりに、俺に一番近い男が腰からナイフを取り出して凄む。
 殺すと言われたが、どうだろう。今になって、俺自身何をしたいのかよく分かっていないことに気付いた。……そもそも、俺は助けを求められたからこそここまで来た。じゃあ、俺は今も蹴られている人間を助けるというのが道理だろう。
「帰れと言われてもな、俺はこの周辺で暮らしているんだ。俺から言わせて見れば、お前達の方に帰ってもらいたい」
「ナメてやがんな、コイツ。……おい、やっちまってもいいぞ。こんな時に男一人死んだところで、どうせ誰も構いやしねえ」
 仕切り役の男がそう言うと、取り巻きの四人は一斉にどこからともなく刃物を取り出した。ナイフ、包丁、斧、持っているものはバラバラだが、どれも人一人殺すくらいなら十分過ぎる凶器だった。
 ふと思う。いくら未曾有の災害が起きた後だからと言って、人間とはこうも極端に変わってしまうものなのだろうか、と。“普通”の人間にしては、殺すという行為に躊躇いが無い。無さ過ぎる。
 そこまで考えた時、斧を持った男が奇声を上げながらこちらに走って来ようとしていた。目測にして俺と男達の間には五メートル程の距離がある。平均的な成人男性ならば、こんな距離、離れているとは言えない。思った通り、男は一瞬にして俺の目の前まで迫ってきた。
「いいから死んどけやガキがァ!」
 言いながら、目の前で斧を振りかぶる男。目の前で見ると、その顔は頬骨が浮き、目の下には濃いクマが出来ている。歳もそれなりに重ねているようにも見える。……そこまで観察してから、男の両手の先が見え、続いて斧と錆びた刃が目に映った。
 やめろ。そう思ってしまうのは普通の事で。ただ、その男の腕が瞬時に凍りつき、勢いのまま砕けて折れるという現象は、不可思議以外の何物でもなかった。
「は? あ、なんだ、コレ。なんで俺の腕……おい、何だよ、何かしたのかよ! なあ!?」
 一人喚いている男と、それを無視し続けている俺。それを見つめている残りの男達は、自分で気付いていないのか、ゆっくりと後ろに進み始めていた。
 意図的に無視しているわけではなかった。そう、考え事、この“力”を初めて人に向けたことについて俺は考えていた。考えていたのだが、特に思うところは無く。結局の所、家族が死に、恋人が死に、帰る場所も無くなり……今さら俺を殺そうとしている奴の腕を無くしたくらいで、何も思うことなんて無かったのだ。
「……俺はまだ死にたくない。じゃあ、俺を殺そうとしてる奴は、どうなるんだ?」
「だからよォ! 俺の、俺の腕は――」
「死んでしまうのだろう、とは思う」
 腕を無くした男が何かを喋り終える前に、その動きを止めた。それもそうだろう、全身が白くなるほどに凍ってしまったのだから。
 男だった氷塊は、その膨張した醜い姿を一瞬だけ晒すと、すぐさまその場で崩壊した。その陰に隠れていた残りの男達は、揃いも揃って恐怖心を隠そうともせず、今も後ずさりしている。
 寒かった。この“力”を使う前にコートを拾っておいて良かったと本気で思う。現に、俺以外でここに居る人間は皆震えている。それは恐怖心から来ているのかも知れないが、少なくとも、額に流れていた汗が一瞬で凍る程の寒さは感じているに違いない。
 もう口を開く者は居らず、動ける者も居ない。今もコンクリートの床で倒れている人間を除き、皆一様に助けてほしいという意思を目に宿らせている。しかし、それは無理な相談だった。既に、俺は“死んでしまえ”と男達に思っていたから。
 ……最初の男と同様、他の男達も同じように崩れてしまった後、この場に残されたのは俺と、微動だにしない人間だけが残された。何も思うところは無い。
 今更ながら観察すると、ボロ布を掻き集めたようなものを頭から被っているだけのように見える。見る限り、小柄な人物だ。
 俺は未だ動かない人間の傍に立つと、ボロ布を取ろうと手を伸ばす。その瞬間だった。
「――ッ!? ガッ、ごふぇ」
「やだやだやだぁ! 死にたくない、どっか行けよぉ!」
「わかった、止め、俺は殺さな、ごえっ」
 突如俺の腹に拳がめり込み、めり込み、めり込む。数にして三回。その“女”は泣きながら俺の腹を殴ると、まるで親の仇でも見つけたかのような目を俺に向ける。
「俺がお前に何かしたか」
「だって、僕を殺そうとして……あれ? なんで、そんなに悲しそうなの、君」
「悲しそう?」
 女は不意に目から怒りの色を消したかと思うと、すぐさま、眉毛を傾けてそんなことを言う。言われた俺は、一体何のことを言っているのか全く分からない。
「うん。……ああ、ううん、なんでもない。というか、僕を襲ってたゲス野郎達は何処に行ったの? もしかして君が追い払ってくれた?」
 俺が疑問に思っていると、女は何かを察したように首を左右に振り、続けて、あの男達の所在を聞いてきた。その問いに答えようにも、俺が思う適切な答えは一つしかない。
「殺した」
「……この、周りに散らばってるのがそうなんだ」
 女は周りを見渡すと、気分が悪そうに言う。……おかしいだろう、その言葉は。
 俺は一言も殺し方を喋っていないし、常識的に考えて“散らばっている赤黒い氷塊”と“人が死んだ状態”は直結しない。言ってみれば、女が今言った言葉その物が不可思議と言えた。
<だから、僕は化け物なんだ>
(……そうか、納得がいった。お前がこの声を出していた奴じゃなかったら、ここまで来た俺は非常に無駄な時間を過ごしたことになるからな)
<え?>
(この声を聞いて、助けに来てやった、と言ったんだ)
 ……その後、またも泣き出した女――俺のコートに顔を埋めながら――をなだめること十数分。合間合間に零していた話を聞き、分かったことがあった。一つは、先程の男達は刑務所から逃げ出してきたという事。非常に納得の出来る話だ。もう一つは、その男達は昔、女の力の所為で捕まったという事。それを恨んでいたのだろう、偶然再会してしまい、結果は今に至ると。
 拾ったばかりのコートが涙と鼻水をこれでもかと押し付けられた頃、ようやく女は俺から離れると、鼻をすすりながら口を開く。
「ねえ、僕、一人じゃ生きてけない」
「なんだ、唐突に」
 言わんとしている事はなんとなく分かった。だが、それは、どうなのだろう。
 ……如何せん、今の俺は主体性という物が無くなったように思える。今はまだ客観的にそう思えるから良いものの、それが自然となってしまったら、果たしてそれはまともな人間と言えるのか。と、そこまで考えておいて、ついさっき男を五人も凍らせ殺したことを思い出す。もうまともじゃないのだ、と。
「いや、まともだよ。少なくとも、僕を相手にして普通にしてくれてるだけでもだいぶまともだと思う」
「……そうやって人の心を読めるような力を持っている人間に対して普通に対応すること自体がまともではないように思えるのだが、どうだろう」
「……そう、そうかもしれないけどさ、逆に考えようよ。僕は君の“目的”が分かってるけど普通に対応して、しかも助け合おうよ、って提案してるんだよ? 君にとっては、まともなだと思うよ?」
 そうか。じゃあ、分かるだろう。俺がその提案を本気で決めかねていることに。そして、一つだけお前に対して抱いているまともではない考えを。
<それは大丈夫だよ。だって、僕がこの力を使えるようになったのはずっと前のことだから>
(……そうか)
 
 ▼

「――そんなわけで、晴れて僕とめん君は分かり合い、一緒に慎ましく今日まで暮らしているんだとさ、ちゃんちゃん。……っていうのが、僕とめん君の出会いなんだよね。わかる? わかっちゃうかなあ、この持ちつ持たれつ感」
<いや、わからん。どんなわけでそこから一緒に暮らしたりしちゃうわけよ。と言うか何なの、惚気なの? 自慢? この年齢イコール彼女いない暦の俺に喧嘩売ってんの? 買うよ? 買っちゃうよ? というか地味にバイオレンスな出会いで逆に対応し切れんわ>
 雪が振りまくって非常に寒い日、それも夜中だというのに、“俺”は窓の外で“毛”をモコモコと震わせながら思う。
 目の前にいるスーパー僕っ娘伝子ちゃんは少し考える素振りを見せると、複雑そうな顔で口を開く。
「なんかごめん。“猫”でもそういうコンプレックス的なアレって持ってるもんなんだね」
<だから何度も言ってんだろファッキンビッチ、俺は気付いたら猫の中に居た意識なの。れっきと出来ないけど人間様なの>
「でも、人間が中に居る猫なんて聞いたことないよ、僕は。どういうことなの? 中の人なの?」
<言葉としては正解だけどニュアンス的に間違っている気がしてならないんだよね俺は。わかってないでしょ、実はおバカさんなんでしょ君>
「猫に馬鹿にされた……地味に猫と意思疎通してるよりショッキングな出来事だよねこれ……」
<だから何度も言ってんだろノータリンの乳足りん、俺は人間なんだよ>
「ああああ殴りたい、殴りたいけど、見てくれが完全にトラ猫だから胸キュンしちゃう……!」
<まて、ハグるな、やめろ、俺実は女が苦手っていう裏設定が、いやあああああああ>
 なんて、はて、俺は何をしているのだろうか。何やら硬すぎて女として意識出来る要素がない胸の中でもみくちゃにされながら、俺はふと考え始める。
 大前提としてわかっているのは、俺は細かい俺の中の一人であり、カレーが大好きで、女の子が苦手で、何故かボクっ娘がめん君などという聞いている限りでは冷血漢の男の話を俺に向かって話している、という場面で“俺”が生まれたということだけ。謎だらけ過ぎて全部ブン投げたくなるねコレ。どうしよう。
「あ、そういえば、名前聞いてなかったよね。なんて言うの? タマ?」
<だから猫じゃないって言ってんだろ、分かって言ってるでしょ、そうなんでしょ>
 しかも困ったことに名前が思い出せない。と言うか記憶というものがあるのかも疑わしいくらい、思い出せることが何もない。いや、カレーの知識だけ無駄に思い出せるけど何コレ、俺って言う人物がそもそも不審なんですけど。
 ……名前、名前かあ。
<どうやら俺はカレーが好きみたいだから、今から俺のことはスターアニスと呼ぶがいい。どうだ、かっこいいだろう>
「ええ……なんか中学生の頃くらいに患う特徴的な“俺特別感”が滲み出てるけど……」
<なんかボロクソに言われた気がするんだけど>
「結構そんな感じだけど。それ、なんて意味なの?」
<八角>
「え?」
<はっかく>
「なにそれ」
<本場のスープカレーには八角を含めた色んなスパイスを入れて、あの奇跡的な味を生み出すんだよ。その中でも八角は星みたいで目立つ形をしてるんだわ>
 なんでコレ? と聞かれても真っ先に思い出しちゃったからとしか答えようがない。
「なんで英語にしたの? 八角でいいじゃん八角」
<そこはお前わかってよ。“俺特別感”出したいでしょ、わかってよ>
「……じゃあスターアニス、君は今日から僕の友達ね。決定」
<……ん?>
 あれ、結構色々煽られていた気がしたんだけどなんか友達認定されちゃったぞ。喜んでいいんだろうか。わーい。
<なんでやねん!>
「関西出身?」
<違うけどね、とりあえず割りと恥ずかしかったから誤魔化してみたりしちゃった感じかな>
「ふうん。……今改めて思ったけど、猫と友達ってテンション上がるね!」
<だから猫じゃねっつってんでしょなんなのホント雑菌だらけの爪で引っ掻くよマジで>



 とかなんとかいう記憶を現在進行形で受け継ぎながら二人の出会いを目の前で見させてもらっちゃったわけなんだけど、残念ながら俺とこの二人の接点って全然ないよね。どうしてこの二人の場面を見せられるのかイマイチわからんちんちゃん。
 いやしかし、猫か。やっぱり手当たりしだい“俺”が広がっていくと、そういうこともあるもんなのかね。わからんけど。
 未だに俺の前に現れたことがない“受け止めてくれる俺”ならそういった疑問に全部答えてくれるんだろうけど、どうしたら出てきてくれるものか。……本音を言えば、この一人映画館的な状況が飽きてきたということもあり、話し相手が出てきてくれるのなら割と誰でもいい的な感じ。俺は後どれくらいこの状況を続ければいいのかというのは、あまり考えたくはないお題なんですよねホント。
 ああ、段々腹が立ってきたぞ。なんで俺がこんな思いをしなけりゃならんのか。カレーを食わせろカレーを。こんな無味無臭空間で一生過ごせってか。知らない内に友達認定されちゃったりしろってか。さすがの俺もまいっちんぐだよ。誰でもいいから、さっさと何とかしてくれ。
 ……ほらみろ、また景色が変わり始めたぞ。次はどんな変人が出てくるのやら。



       

表紙

人大甲 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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Neetsha