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自説自論
続・僕の好きなSF小説

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 はじめに言い置いておくが、前回の書き手とは別人である。
 自分が愛してやまないSF作品についての評論を目にし、喜び勇んで頼まれもしない続編を書くに至った次第である。
 
 前回の人が海外の作品を多く挙げていたので、日本のSF作家でのオススメを挙げていこうと思う。
 SFの本場は海外……というイメージは根強いが、日本の作品にだって素晴らしいものはたくさんあるのだ。ではどうぞ。

①神林長平「言葉使い師」
 SFファンなら誰もが知っている和製SFの巨人、神林長平氏の短編集である。芥川賞作家の円城塔、「魔法少女まどかマギカ」脚本の虚淵玄、アニメ「攻殻機動隊」シリーズ、ゲーム「メタルギア・ソリッド」シリーズなどに大きく影響を与えたといえば、彼の存在感の大きさが伝わるかもしれない。現代日本におけるSFを語る上で、外すことが出来ない存在と言って差支えない人物だ。
 この人の特徴は、文章の引き出しがとにかく多いこと。一人称、三人称、ハードボイルド、ちょっと気の抜けた日常もの、幻想的なイメージを喚起させるものと、様々な作風を持っている。その魅力を幅広く、余すことなく楽しめるのが本書だ。星新一風のブラック・ジョークが炸裂する「美食」や「スフィンクス・マシン」、ディックの影響を伺わせる幻想的な中篇「イルカの森」、不条理かつスピーディーな展開と鮮やかな幕切れで読者を痺れさせる「言葉使い師」……そして何よりオススメなのが最後の中篇「甘やかな月の錆」である。まずタイトルからしてすさまじくカッコいいのだが、主人公の成長と葛藤、そして最後のシーンがたまらない。それぞれの作品も短いので、一つ一つを読む時間もさほどかからないはず。難しい専門用語もあんまり出てこないので、SFに興味がない人も、ぜひ一度手にとって読んでみて欲しい。ちなみに同氏の第一作短編集「狐と踊れ」もオススメだ。

②草上仁「時間不動産」
 神林氏とは対照的に、あんまり名前を知られていない作家なのだが、なんでこんなにマイナーなのか疑いたくなるほど面白い。内容としてはスットボケた未来の日常ものが多く、ネタもややブラックである。星新一を少し人間臭くしてちょっと長くした感じ…といえばしっくりくるだろうか。星新一は好きだけど、あっさりしすぎて物足りないという人にはピッタリ。

③乾禄郎「完全なる首長竜の日」
 このミス大賞作…ということでジャンル的にはミステリーなのだが、SFの設定を多分に含んでいるのでSF枠での紹介とした。
 はっきり言っておくと、ミステリーとしては完全に駄作である。ただ、SF作品としては非常に完成度が高い。乾いた文体で執拗に繰返されるイメージに、突然紛れ込む不条理。交錯する過去と現在、現実と幻。読後感はスッキリとしないが、妙に心に残る。万人受けするような作風ではないが、安部公房が好きな人にはオススメだ。

(実はこの作品を完全に説明しようとすると、まずSFの定義から色々説明せねばならず、けっこうめんどくさい。この作品はSF(=サイエンス・フィクション=科学小説)と、SF(=スペキュレイティヴ・フィクション=思弁小説)の二つの要素を含んでいる。安部公房が好きな人におすすめ、と表現したのは、本書の魅力となる表現に、思弁小説的な要素が強いからだ。逆に、思弁小説に分類される作品を読みなれていない人にとっては、やけに散漫な作品に映る可能性が非常に高い。ここらへんが本作の評価を難しくしているのだが、個人的には名作だと思う)

④テッド・チャン「あなたの人生の物語」
 海外SFじゃねえか! と突っ込まれそうだが、とにかくこればっかりはどうしても紹介しておきたいのでなにとぞご容赦願いたい。現代SFの書き手として最高峰の一人に数えられる作家、テッド・チャンの短編集だ。ある種ゲーム的、あるいはラノベ的な類型を思わせる設定(ただし説明自体は非常にわかりやすい)に、登場人物が論理的にアプローチしていくうち、いつしか世界の真理に触れていく…というようなプロットが多い。世界の大きな謎を解いていくワクワク感と、そう来るか! と思わせる話運びが実に秀逸。特に表題作は表現上のギミックとあいまって、オチに衝撃を受けること間違いなしだ。


 ……こんなところだろうか。ちなみにオススメしたい作品はまだまだある。海外SF小説であれば、まずグレッグ・イーガンは外せない。ただしうっかり長編に手を出すとあまりの難解さに発狂すること請け合いなので、まずは短編集から始めたほうがよいだろう。「祈りの海」がオススメだ。古典で言うなら、永遠の名作「星を継ぐもの」(J・P・ホーガン)、全てのSFネタの源流「フェッセンデンの宇宙」(エドモンド・ハミルトン)、原初にして究極「タイム・マシン」(H・G・ウェルズ)、世に多くのSFファンとロリコンを産み落とした悪魔の書「夏への扉」(ロバート・A・ハインライン)、あたりを押さえておくとハズレがない。あぁ、でも古典を語るなら「ソラリスの陽の下に」とか、「1984年」とか、フィリップ・K・ディックの作品も読まないと……あ、あとカート・ヴォガネット・ジュニアの作品も好きだなぁ。でもそれを言うならサミュエル・R・ディレイニーも紹介しなきゃ……。

 と、語り始めると収集がつかなくなるのでここらへんでやめておこう。
 最後に一つ。今回冒頭でオススメした4作品のうち、3作品が短編集だ。個人的には、SFは短篇こそが面白いと思うので、最初に手を出すなら、長篇ものより短編集を手にとってみよう。入り組んだ設定や重厚な設定が出てこないので、比較的簡単に楽しめるはずだ。

 偉そうに色々言ってきたが、実のところ自分もまだまだSFファンと言うにはまったく読めていないのが現状である。もしSFファンの方々がいらっしゃれば、ぜひオススメ作品を教えて頂ければ幸いだ。では皆様、よきSFライフを!

       

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