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自説自論
『僕らの夏の核爆弾』考察――古賀勝男は本当に核爆弾を作ったのか?――

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『Bonny』を完結させたコガッツオ先生が現在連載している作品に『僕らの夏の核爆弾』という作品がある。
 自殺した古賀勝男という少年が残した「核爆弾」をめぐり古賀の友人たちが翻弄される、というストーリーの漫画である。(正直言って僕は説明があまりうまくないのでストーリーを正確に説明できてないかもしれない。もしよくわからないようだったら直接作品を見てほしい。)
 現在までのところ三話までが公開されている。僕の主観で言うと、面白い。ただ、更新が二〇一三年の六月で止まってしまっている。おそらくコガッツオ先生が忙しいのだろう。WEB漫画ではよくあることだから仕方ないが、本当に続きが気になる。

 さて、本題に入ろう。今回、僕がこの作品の何を問題としたいかというと、タイトルにも含まれている古賀の作った「核爆弾」のことである。
 古賀は本当に核爆弾を作ったのか?
 作中でもまだ明らかにされていない、この作品の中核をなす問題である。今回はこれについて取り上げたいと思う。

 僕がこの点について疑問を持ったのは、劇中で次のように描写されていたからである。
 第二話の後半で「核爆弾」が本当に核爆弾なのか主人公たちの間で論争になるのであるが、その時にふとしたはずみで爆弾の設計図らしき図と原発の見取り図が出てくる。そして、原発の見取り図を見たキャラクターの一人、恵美子が言うのだ。
「この見取り図…あの原発だ…! 新聞で言ってた…」
「ここの核燃料の数が合わないって…!」
 そして、主人公たちの間では「『核爆弾』は本物なのではないか」という疑念が浮かんでくるのである。
 もし、古賀が核爆弾を本当に作ったのであれば、行方不明になった原発の核燃料を彼が何らかのかたちで入手して作ったと推測されるのだが、ここでひとつの疑問が浮かんでくる。
 原発で使う核燃料は核爆弾を作れるほどのものなのか?
 僕は文系だ。化学や物理学の知識には乏しい。だが、一般的な知識としてこれだけは知っている。
 通常、日本などで使われている軽水炉というタイプの原子炉(核燃料が行方不明になった原発が軽水炉なのは見取り図を見れば明らかだ)では、濃縮度が二%から五%の濃縮ウランを燃料として使う。
 だが、核爆弾に使われるウランはこの程度の濃縮度では足りないのである。通常核爆弾を作るのに必要なウラン二三五の濃縮度は九〇%以上とされている。北朝鮮やイランなどはこの目標値を達成するために必死で核開発を進めていたのだ。
 つまり、原発の核燃料からは直接核爆弾は作れない、ということになるのだ。

 さて、では古賀の作った「核爆弾」はフェイク(偽物)なのか?
 だが、現時点では断言できない。なぜなら、まだいくつかの可能性が考えられるからである。ここからはその可能性について記述する。
 考えられる仮説は主に二つの大枠に分けられる。「核爆弾」が本物の核爆弾なのか、そうではないのか、という枠だ。

 まず「本物の核爆弾」説のほうから挙げる。
①古賀は濃縮ウランの濃縮度を九〇%以上に上げた
 たとえ核燃料に使われるウランの濃度が低くても、それをさらに濃縮すれば核爆弾を作ることができるだろう。古賀は何らかの方法でウランの濃度を上げ、核爆弾を作ったのではないか?
 だが、この方法は非常に難しいだろう。ウラン濃縮を行う方法にはガス拡散法、遠心分離法といった方式があるが、どれも膨大な電力を必要とする。それだけの電力を古賀はどこから手に入れたのか? また、その機材をどこに隠していたのか? それに、濃縮度の低いウランを高濃縮ウランにするにはたくさんの量が必要なはずだ。どうやって古賀はそのウランを運んだのか?
 以上の要因から、この仮説があたっている可能性は低いと僕は考える。
②問題の核燃料ではなく、別のウランを使った
 もしかしたら、古賀は原発の核燃料ではなく、別ルートで手に入れたウランを使って核爆弾を作ったのではないか? 原発の核燃料がなくなったのは実は皆を欺くための罠だったのかもしれない。それか、ただの偶然だったのかもしれない。
 だが、この仮説も厳しい。罠だとしたら、なぜそのような回りくどいことをするのか? 偶然だったとしたら、核燃料がなくなったのは一体何だったのか? この疑問に答えられない。
③核燃料の濃縮度が元から九〇%以上だった
 もしかしたら、件の原発に使われていた核燃料が最初から高濃縮ウランだったのかもしれない。実際、原子力艦に使われている核燃料は高濃縮ウランである。
 だが、民間の原発にそんな危なっかしい物を置いておくだろうか? 保安の関係上、その可能性は低いのではないか。
④ウランではなくプルトニウムを使った爆弾だった
 古賀の遺した「核爆弾」の設計図を見ると、あることがわかる。描かれているのは爆縮レンズ型の核爆弾なのだ。このタイプの核爆弾はプルトニウムを使うことが多い。もしかしたら、古賀が手に入れた核燃料はウランではなくプルトニウムだったのではないか? 実際、ウランとプルトニウムを混ぜた核燃料(MOX燃料)を核燃料とする計画(プルサーマル計画)はもうすでに行われているのだ。それに、プルトニウム型核爆弾の場合プルトニウムの濃度はそこまで高くなくてもいい(二〇%ぐらいでいい)のだ。
 だが、それでも問題は山ほどある。まず、プルトニウムは非常に取り扱いの難しい物質だ。放射線だけでなく化学的な毒性も持っているし、何より自発核分裂といって自分で勝手に核分裂を始めてしまう可能性がある。それをどうやって古賀は核爆弾にしたのか? また、件の核燃料がMOX燃料だったとしても、ウランとプルトニウムを分離する必要があるのではないか? 爆縮レンズを作るのも非常に技術が必要となる。それほどの頭脳がわずか一七歳の古賀にあるのか?

 次に「偽物」説を挙げる。
①核爆弾ではなく「汚い爆弾(ダーティ・ボム)」だった
「汚い爆弾(ダーティ・ボム)」という爆弾がある。通常の火薬と放射性物質(ウランやプルトニウムなど)を混ぜた、単純な爆弾だ。核爆発は起こせない。しかし、爆発によって広範囲に放射性物質を散らし、付近の生物に放射性障害を負わせることはできる。恐るべき爆弾であり、今世界各国が警戒している。古賀が作った爆弾はこれなのではないか。遺書に書いてあったように「街を跡形も無く吹き飛ばす」事はできないが、大規模な被害を及ぼすことができる。
②核爆弾ではなく、ただの爆弾だった
 もしかしたら、放射性物質すら入っていないただの爆弾なのではないか。これも、爆発させる場所によっては大規模な被害を及ぼすことができる。
③爆弾でも何でもないただのガラクタだった
 もしかしたら、やっぱりただのフェイクなのかもしれない。爆弾ですらない、ヘタしたらただのボールなのかもしれない。
 
 以上の三つの説には共通する疑問がある。なぜ古賀は「核爆弾を作った」などという嘘をついたのか? それがわからない。

 以上七つの説を挙げたが、作品が更新されない限り真相は不明である。今後の更新を期待したい。

       

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