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自説自論
『面白さ』は世代によって違うのか ~山田悠介研究~

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● 世代によって、人が面白いと感じる『ツボ』は違うのか?

 人が、漫画や小説を読んで感じる『面白さ』に、世代間のギャップは存在するのでしょうか?
 新都社で、漫画を描くようになって感じた疑問の一つです。
 つまり、十代の人が感じる面白さと、三十代の人が感じる面白さには、おおきな違いがあるのか? という事ですね。
 僕はその違いは『ある』と感じました。それも、かなり大きい違いが。

 それを今から書きたいと思います。

 それをわかりやすく説明する為に、新都社の作家でなくて恐縮なんですが『山田悠介』先生を例に説明をしてみたいと思います。
 山田悠介(以降敬称略)は、現代で商業的な成功を収めている小説家の一人で、代表作に『リアル鬼ごっこ』や『親指さがし』などがあげられます。
 なぜ彼を例に挙げたかというと、世代間の評価が、これほどわかりやすく違う人というのも珍しく、この問題を考えるうえで、僕におおきな手がかりをあたえてくれた人だからです。


● こんなに違う世代間の評価

 山田悠介は、若い人に熱狂的な支持を受けてきた作家です。きちんとしたデータを示すと、学校読書調査、中高生の好きな作家では圧倒的な得票差で1位になっています。
(全国学校図書館協議会(全国SLA)と合同で実施した「第58回学校読書調査」の結果)

 ですが、より上の世代からの評価は、全く対照的です。
 こちらは、アマゾンなどで、彼の代表作のレビューを読んでみれば、よくわかると思います。
 ちなみに僕個人の意見は(決して少なからぬ量の小説を読んできた、いち中年男性の素直な意見としては)、アマゾンのレビューの、いちばんひどく書かれた文章でもまだ手ぬるいと感じました。正直、生理的な嫌悪感を感じたほどです。

 ちなみに、僕が嫌悪感を感じた部分というのは、メッセージ(そんなものが彼の小説にあれば、ですが)が尖っているとか、思想(そんなものが彼の小説にあれば、ですが)が偏っているように感じられる、などの、内容に関する部分ではなく、もっと純粋に『単純に・品質が・低い』という所に対してでした。

 品質の低さについては、僕よりも、前述したアマゾンのレビューの方が、はるかに詳しく解説してくれると思います。興味があったら、ぜひ覗いてみてください。これもいち個人のいち感想ですが、彼の小説よりは、彼の小説のアマゾンのレビューの方がはるかに面白く感じられました。

 しかし、その山田悠介の小説が、若い世代の人々からは、熱狂的な評価を受けているのです。

 これを『若い人はわかってないからなあ』と言いのけてしまうことは簡単なのですが、それでは何の理解にも到達する事はできないでしょう。
 ですから思索の範囲を広げて、『なぜ山田悠介は若い人々の支持を受けているのか』を考えてみたいと思います。


● 無理やりにでも考えてみた、山田悠介の『良さ』

 僕は前述したように、山田悠介の小説(と書くことですら腹立たしい)を全く評価出来ないので、どうしても無理やりになってしまいますが、彼の小説の良さを考えてみました。

 ○ タイトルがいい
 これは、間違いなく、彼の小説の美点ではないでしょうか? タイトルのセンスは、間違いなく一流でしょう。

 ○ 地の文が少ない
 これを美点とするかは、評価の分かれる所ですが、始めて文章に触れる読者は、地の文(じっくり読む)と、会話など(サクサク読む)のテンポ感『ストップとゴー』の訓練が、当然されてはいないわけで、地の文がすくない方がらくらく読める印象を持つかもしれません。
 「詳しい描写は読むのめんどくさい、スピード展開を期待」
 とは、山田悠介本人の言葉です。かなり意識的に取り入れている部分なのだと思います。

 ○ 展開にひねりがない
 文章を読む、という行為そのものに慣れていない読者にとって『味方だと思っていた刑事ヤスが実は…』といった展開は、ミスリードして、展開についてこれなくなる恐れがあります。
 ですので、ストーリーの展開において、キャラの立場が途中で入れ替わったりしないし『自分がしていた善い事は実は全部…』みたいなどんでん返しは不要と考えているのだと思います。

 ○ 人が次々と死んだり、殺したりする、ショッキングな題材を多用したストーリー
 山田悠介の支持者層(14歳から16歳を想定しました)にとって「性」や「倒錯」、「犯罪」「レイプ」「殺人」「死」「不良グループ」「反社会的組織(ヤクザなど)」といった題材は、「ちょっと怖くて、でもカッコいい」事なんだと思います。これらの問題を扱った小説は他の作家の『携帯小説』などにもよく見られ、ある意味で定番の題材なのかもしれません。

 ○ 『根源的な恐怖』というテーマ
 正常に機能していたと思われる社会が突然牙をむき、昨日までとはまったく違った『狂った暴走機関』としての様相を見せ始める。スティーブン・キングなどによく見られるテーマですが、山田悠介の良さも、だいたいこのあたりにあるのではないかと思っています。ここは、山田悠介の美点として、はっきり挙げられるところではないでしょうか?


● 山田悠介を評価する人のプロファイリング

 以上の『良さ』を取り込んで、山田悠介を支持する読者像というのを勝手に創作してみました。
 僕は、以下の文章のような理由で、山田悠介は支持されていると推測します。

 オレは、今15歳。ちょっと本を読んでみようと思ったんだ。
 親とか先生に言ったら多分『ミヒャエル・エンデ』とか『芥川龍之介』なんかを薦めてくると思うんだ。
 でも、そんなんじゃダメだ。アイツら何もわかっちゃいねえ。
 だってそういうのは、本好きのオタクどもが、小学生の時に読んだりしているだろ?
 「ああ、それ読んだよ。小四の時かなあ」
 なんて鼻の穴おっぴろげて言われてみなよ。まったく型無しじゃないか。
 だからコレだ『リアル鬼ごっこ』。タイトルがまず気に入った。
 「お、ケンジ、何読んでるの?」
 「ああ、これ?『リアル鬼ごっこ』って言うんだ」
 ホラ、なんかいい感じじゃん?
 文章もいい。見てみな。全体的に白いだろ? 言葉が少ないんだ。
 本を読むのはほとんど始めてだから、きちんと最後まで読めるか不安だったけど、オレでも最後まで読めたんだ。
 だって生まれて始めて自分の小遣いで買った小説なんだぜ。やっぱり最後まで投げ出さずに読みきりたいよな。
 中身? うん。なかなかよかったよ。
 日が暮れるとサイレンがなってさ、日本中の『佐藤さんたち』と兵隊たちとの『鬼ごっこ』が始まるって話なんだ。捕まったら? もちろん殺されちまう。
 突然世の中がそんな風になっちゃうって、ちょっとおっかないよな。でも今の日本にも、そういう所あるかも、だろ?
 オタク? ちげーだろ! だって『リアル鬼ごっこ』だぜ。ガンダムなんかと一緒にすんなよ!
 最後? そんなの言えねー。言える訳ないじゃん。でもちゃんとスッキリ終わるぜ。あー、でもあれスッキリって言うのかなあ…言えねえけど…


● 「まとめ」 人の年齢、経験、性向によって『面白いもの』には大変な違いがある

 上の例でしめした『彼』の評価は、もちろん僕の妄想にすぎませんが、それでも彼の感じた『面白さ』というものが、かなり個人的な体験であり、絶対的な評価とはまた違ったところに大きなウェイトが置かれていると感じてもらえたのではないでしょうか?
 また、ここまで考えて、狙って『撃ちにいっている』のだとすると、山田悠介という作家は、なかなかに想像力があり、マーケティング能力に長けた人物である、と言えるのではないでしょうか?

 新都社内でも、すごくよくまとめられていて、品質の高い作品が、びっくりするほどコメントが少ない時があります。
 また、明らかに大きな品質上の問題をかかえた作品が、たくさんのコメントを集めていると感じられる時もあります。

 新都社内には、コメント至上主義が常識として存在しており、それは評価基準としてはある意味正しいものですが、このような『世代によって面白いと感じる作品の違い』に注目してみるのも、また興味深い事かも知れません。

 ちなみに僕が描いている漫画が不人気なのは、僕自身のせいです。すいません。精進します。
 駄文ですが、読んでいただき、ありがとうございました。

       

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