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自説自論
続々・僕の好きなSF小説 ~最近におけるSFの潮流を踏まえつつ~

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 「続・僕の好きなSF小説」を書いた人間である。

 そういやあんなことも書いたなと思いつつ、せっかく上がってきたのだからもうちょいおススメ書いてみるべえと思った次第だ。

 今SFというジャンルは「夏の時代」であるらしい。こちとらさっぱり実感はないが、アニメ・ラノベ界隈を中心に色々と大きな動きが起きているようだ。

 アニメ「Phyco-Pass」がそれなりに大きなプロジェクトとなり、伊藤計劃の「虐殺機関」「ハーモニー」の劇場アニメ化発表、「ソードアート・オンライン」や「魔法科高校の劣等生」などのラノベが続々とアニメ化されてヒットを飛ばし、アニメオリジナル作品でも「東のエデン」「サマーウォーズ」「時をかける少女」などがぽんぽんと出ては結構な人気となったところを見ると、確かに2000年代後半から現在にかけて、SFというジャンルはずいぶん一般的になったように思える。ちなみに筆者が最も好きなSFアニメは「ノエイン もう一人の君へ」である。
 
 AR技術の台頭やスマホの普及、ドローンの登場、IoT(Internet of Things。極小の端末をあらゆる製品に埋め込み、相互通信を行うこと)、初音ミクといった電子アイドルなど、世の中に様々なガジェットが増えてきたことも、SFがより身近になった一因かもしれない。いまやSFは「遠い未来の話」から「日常の延長」に変異しつつあるのではないかと筆者は思う次第である。

 さて、SF作品と現実世界との距離が近くなるなかで、現行のSF作品にも、二つの潮流ができたのではないかと思う。すなわち、「身近なSF」と「より遠いSF」である。

 前者は文字通り、「日常+ちょっと進んだ科学技術」というスタンスで描かれたものである。先ほど並べ立てた例で言えば、「ソードアート・オンライン」あたりだろうか。「ゲーム世界の中に入る」というガジェットは未来の技術だが、モチーフになっているオンライン世界は現実のものと良く似ている。さらに、「ゲームの中に入り込む」というガジェットそのものについても、Oculus Riftをはじめとする機器の開発により、だいぶ現実味を帯びてきた。「涼宮ハルヒの憂鬱」なんかも、SF+日常という意味ではこれに近い。

 こうしたジャンルのSFとしておススメなのが、宮内悠介の短編集、「盤上の夜」である。囲碁・将棋・麻雀などのボードゲームを軸に、人間とは何か、進化とは何か、を問うていく。SFといいつつも、科学技術はほとんど登場しない。(SF技術をメインに据えているのは、チェッカーをテーマにした話くらいだ)しかし、現実と数式、人とコンピュータ、理論と感情、確率と流れ……現実とゲームの中で交差する秩序(理論体系)と混沌(感情や不確定要素)、さらにその中であがき苦しみながらも、人としての限界の「先」に進もうとする姿は、間違いなくSF的。特に表題作は最後の静かな余韻にゾクッとすること間違いなし。先ほど例に挙げたチェッカーの話も、一般の人たちが「挫折」ととらえるその先を見せてくれて、爽やかな読後感。漫画で言えば「ハチワンダイバー」の熱さが好きな人はおススメかもしれない。ハチワンよりもっとドロドロしているが。

 さて、ここまで説明してきた「近いSF」の対極として位置するのが、「遠いSF」である。これは要するに、「既存の技術から予測される未来像のさらに斜め上にブットんだ新しい未来を描いてやろう」というものである。伊藤計劃の「ハーモニー」はこれにあたるだろう。

 こちら「遠いSF」の筆頭として挙げたいのが、酉島伝法の短編集、「皆勤の徒」である。
 
 最初に言っておくが、これは万人向けの作品ではない。

 筆者が表題作を読んだとき、まず抱いた感想は「何なんだ、これは……」だった。一行目から意味不明・説明無しの造語のオンパレード。しかもその名詞の8割くらいがダジャレなのである。
 世界観もさっぱりわからない。泥の干潟しかない世界で、主人公は人型のアメーバ状生物(作中では『社長』と呼称されている)に使役されている。やたらとグロい世界で、主人公が意味不明のブラック作業に従事する描写が延々と続くのだ。たぶん一般人の8割くらいはここで脱落するんじゃないかと思う。ちなみに最後まで読んでも、わかりやすい説明はまったくない。造語についての解説もまったくない。描写から類推し、さらに最後の大森望の解説を呼んでやっとなんとなく世界観が掴めるくらいの難解さである。
 
 だが、これが滅茶苦茶に面白いのだ。

 酉島伝法のスゴさは、「全く新しい未来の世界観を作っちゃった」という点にある。膨大な造語と執拗なグロ描写、さらに壊滅的な説明不足(というより説明する気が最初からないと思われる)に隠されがちだが、その奥にある世界設定は実に緻密で、しかもきっちり「SF」しているのだ。こういう尖った未来観の描写は(大森望氏も解説で指摘しているが)、椎名誠の「アド・バード」に類似しているが、描写の密度で言えば酉島伝法の作品のほうが圧倒的に上である。その描写ゆえに読みにくくなっている部分もまた、多々あるのだが。

 昔から、SF作品には後の作品の基盤となった作品が多々ある。
  
 ロボット作品の嚆矢となった「われはロボット」
 タイムトラベルものの原点「タイム・マシン」
 映画になるが「E.T」などはSFジュヴナイルの教科書的存在だろう。
 サイバー・パンクと言えば「ニューロマンサー」だ。
 スペースオペラは苦手なので良く知らない。
 
 「皆勤の徒」には、これらのモノリス的作品と同様、新たなジャンルを開拓し、ひとつの時代を築くポテンシャルがある。今後この世界観が噛み砕かれ、再生産されていったら凄いことになるんじゃないか。そう思わせる膨大なエネルギーを持っているのだ。
 
 はっきり言って鬼のように読みづらいが、ぜひ読んでみてほしい。気色の悪い生き物がゾロゾロ出てくるこの世界観は、一度ハマったらクセになること間違いなしだ。

 さて、気づいた人もいるかもしれないが、今回紹介したこの二作品、ともに2012年と2013年の日本SF大賞受賞作である。ともにデビュー作による受賞となり、大型新人として注目されている。なるほど確かに、今はSFにとって夏の時代なのかもしれない。目指す側にとっては実に胃が痛くなる話である。ああ、辛い。

       

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