Neetel Inside ニートノベル
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死体を喰うケモノ
一日目(2)

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 銘探偵、大塩平八郎に呼びだされたのは土曜の夜だった。

 探偵の水野忠邦は、ベンチに深々と座り、腕時計と人の気配を交互に窺いながら、大塩の到着を待っていた。
 大塩は、同業者ではめずらしく、友人の部類に入る関係だった。
 数年前、ある事件を一緒に乗りこえたのをきっかけに、互いに付き合いが継続していたのだ。

 ――いや、事件と云うよりも、事故の方が正しいか。

 ぴちちち、と名も知らない虫が、夜の木々の合間で鳴いた。
 大塩はすでに、一時間も遅刻していた。
 待ち合わせ場所は、街外れの森林公園。
 何の脈絡もなく、ただ、会いたい――とだけ伝えられた。
 だが、肝心の彼は、一向に来る気配がない。
 どうしたのだろう。
 苛立ちが、胸でうずまいている。首筋が、とっくの前に沈んだはずの太陽に、焼き焦がされるような焦燥。そこには、小さな不安も芽吹いている。
 キャンセルならキャンセルと、伝えれば良いものを……
 なぜ?

 公園は閑散としていた。
 闇がおりたった今では、人気が皆無と云って良い。
 街はずれにある森林公園。こんな中途半端な場所で、彼は何の話をするつもりだったのだろうか。
 水野は想像をめぐらせる。
 ここまで寂しい場所に呼びだすということは、それなりに人目を考える用件なのだろう。だが、声が気になるのなら、事務所に来るか、あるいは呼ぶか、すれば良いはずだ。
 合理的な結論は出ず、水野は携帯を取り出した。そして一時間と十分前に来たメールを、画面に表示させる。
 
《午後九時、天明森林公園、一本杉のベンチで》

 この知らせを見た瞬間、あと十分しかないということで、水野は大慌てで森林公園に向かったのだった。
 指定された場所はすぐにわかった。
 灰色に汚れたトイレから、約二十メートルほど離れたところに、ひとつだけ飛び抜けた杉が立っていた。
 その足元には、ベンチがひとつ据えられている。
 水野は、自分が座る部分の面積だけ、薄く張りついた木の葉を払った。

 時間に間に合ったは良いが、誰も来る気配がない。
 闇の降りた空間で、薄汚れたベンチに背にもたれる。風雨にさらされ、取り残されたそれに、感情を移入させながら。

 ときおり、虫の鳴く声が聞こえる。木々のざわめく音がする。トイレに設置された常夜灯が、じじ……と音を立てて震える。自分とベンチだけが仲間はずれだった。
 十時、十一時、十二時と、時計の針は焦らすように動いていく。
 もう我慢の限界だった。
 いくら親しい友人だからって――こんなに待たせるのは、許容の範囲を超えている。
 帰ろう。
 そう思ったとき、すでに日付が変わって二時間近く経っていた。

 銘探偵、大塩平八郎が殺されたのを知ったのは、翌日のことだった。



       

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