「お守りねぇ……」
早朝、大輔は背中越しに自転車をこぐ尚紀に、聞こえるか聞こえないか微妙な声で呟いた。
アパートの隣に住む尚紀との自転車二人乗り。昨日派手に転んだおかげでお釈迦になった大輔の自転車は、大輔自身の最も能率的な通学手段であった。
そう、――昨日の夕方(夜)。
大輔が出会った二人の人物、否、霊もどき。
夢ではないかと疑うほどの現象に、最初は確信していた大輔も時間がたつにつれ半信半疑になりつつあった。
「なぁ」
「ん?」
じゃんけんで負けた尚紀が口をとがらせる。
「やっぱり距離半分づつにしねぇ? 自転車こぐのマジで疲れるんだよ」
「だめだね。お前が仕掛けた勝負じゃん。ちゃんと三回連続で勝っただろ」
「ちぇっ……ついてねーの。自転車壊したのお前じゃん、何で俺がお前を学校までタダ乗りさせなくちゃなんねーんだよ」
荒い息使いで尚紀が呟く。そんな尚紀をしり目に、大輔は右ポケットから“あるもの”を取り出す。
それは手にすっぽり収まるほどの白い綺麗な木の板だった。昨日、冬羽と名乗る白い少女が大輔に渡したものである。
「お守りねぇ……」
木の板の中心には荒々しく“辰”と赤字で掘られており、独特の雰囲気を――神々しい雰囲気を――出していた。
「大輔、さっきから何見てんだ?」
大輔が手に持っている板が気になったのか、尚紀が問いかけた。
「ん? ……もらいもん」
大輔は一瞬、昨日のことを尚紀に言おうかどうか考えた。
だが、オカルト嫌いの尚紀が大輔の話を十割ないし一割も信じてくれるはずもない。そう思った大輔は、板をポケットに突っ込むと『今日の一時間目(英語)の宿題やってねえなぁ』と、朝日を見つめながらぽつりと呟いた。