「私がその龍神だ」
と、無茶苦茶なことを平気でいってのけるその少女に、俺は畏怖の念と皮肉、そして感謝をこめてこういった。
――「寝言は死んでから言え、お譲ちゃん」
刀を紐で背負うように体にくくりつける。
まるでブリーチだなと考え、そう考えた自分を鼻で笑った。この刀で敵をぶった切る、まさにアクションRPGの主人公。それも悪くない。
そんな俺の心を見透かすように、冬羽が「ふふふ」と笑う。
「別にその刀で霊を斬るわけではないぞ。むしろ霊は斬れん、ただの刀なんだから。“斬魄刀”だったっけな、そんなもの現実には存在せんよ。……アイデアとしては秀逸だがな」
ニヤニヤしながら俺を見る。まったく嫌な気分だ、こいつには自分の心の中を見透かされているようで、どうも落ち着かない。
「なん……だと……。え?」
と、見返す俺。そのしぐさを見た冬羽がにやりと口の端を歪めた。
図星か、と、そいつは笑っていた。
「じゃぁ、何のための刀なんだよ?」
俺はそっぽを向いて、冬羽に悪態をつきつつ、姉に気づかれないようにアパートを抜ける。
鈴虫が鳴く中、Tシャツにジーンズ、靴は動きやすいスポーツシューズといった割とラフな格好で夜道を歩く。
首には“お守り”に穴をあけてひもを通したネックレス状のものをかけていて、なんとも変な格好だ。自分で思うんだからそうなんだろう。
一度俺が“お守り”を忘れて白龍神社にきたときに冬羽が激怒してそうしたのである。俺自身の意志では取ることができない、勘弁してくれ。
「“それ”は戦うためさ。ただ、最近のマンガみたいに“人外”を相手に戦うわけじゃないさ。刀で斬るのはいつの頃だって“人間”だよ。ほんの三百年ほど前なんか、“試し”に人を斬ってもよかったのだよ?」
にやり、と。その瞳で俺を流し見る。
嫌な気分だ。
「……そうか」
俺は動揺を悟られないよう、深呼吸をする。