俺の刀はさも当たり前のように空を切った。
「……そんな攻撃では当たらんぞ」
軽快なバックステップで俺の斬撃を交わす“そいつ”。
だが、“それでいい”。
相手に防御行動をとらせることで、一瞬だけ相手の気を“刀”にそらし、思考を“戦いだけ”に集中させることができる。
「坊主、左手の出血を止めろ」
「やっている。だが、長くはもたない。早急に決着をつけろ」
「わかってる」
今、この戦いには三つのルールがある。
第一のルールが“公園中”で行うこと。
第二のルールが“武器”は“指定の獲物”しか使えないということ。
そして第三のルールが“相手”を“殺して初めて勝利”ということである。
“武器は指定のもの”というのは俺のサポーター的存在の白い少女――冬羽が渡したこの「百日紅」のこと。対戦相手の“少年”が今回は“鎖鎌”といったようにどうやら全員が刀といったような武器ではないらしい。
――ひゅん
暗闇の中、鎌が俺を襲う。街灯に刃が反射して一瞬きらっと光る。
良く訓練されている、無駄のない動き。
こいつは骨が折れるな。
「だが、こう“何回も”死んでたまるかッ!」
俺は飛んでくる鎖鎌を、体を無理やりねじって最小限の動きでかわし、一気に間合いを詰める。そして、さっき“攻撃すると同時に”どさくさにまぎれて拾い、ポケットに“引っかけて”いた、“俺の左手”をここぞとばかりに投げつけるッ!
「ッ!」
相手の視覚を一瞬だけ飛んでくる“物体”に移せれば、それでいい。
一瞬、まさに刹那の間。
相手の懐に飛び込んで相手の心臓を突く!
――びしッ
刀のはじかれる音。
そして背中に走る痛み。
……心臓に到達している。
「今のはちょっとひやっとしたよ、大輔くん。やっぱり君には驚かされる」
両ひざから崩れ落ち、あおむけに倒れる。
土の味が血の味とまざってなんとも言えなかった。
そして“一瞬だけ”意識がぷつりと途切れる。