彼が演奏を続けていると一人の男が彼の前で立ち止まった。制服を着ている外見から、高校生くらいだと大体想像がつく。
「何で、こんな夜中にギターなんて弾いてるんですか?」
浅黒く日焼けした肌の青年が強い口調で呟く。
彼は演奏を止め、男の顔を見上げた。
「こんな夜中に、僕に何のようかな?」
笑顔で青年に聞き返す。街灯に照らされたその顔は笑っているが、目の奥、その根本的な部分は全く笑っていなかった。青年は彼のその雰囲気を感覚で察知したのか、少しだけ身構える。
「僕に用があるから、わざわざ“こんな夜中に君の方こそ”この場所に来たんじゃないのかい? まぁ、隣に座りなよ。短い話じゃないだろう?」
彼はそう言って青年を促した。青年はそれに従ってベンチに腰を下ろす。
「君の名前はなんて言うんだい?」
「木戸浩司」
青年は端的に答える。表情は暗かった。
「都市伝説みたいなの、聞いたんです。七夕、夜中の二時三二分にこの公園にギターを弾く亡霊が現れるって。その亡霊が、願いを一つだけ何でもかなえてくれる……」
青年が両手を組んで笑う。
「おかしい話ですよね。そんな都市伝説、信じてない、信じてないはずなのに。俺はこうしてこの場所にこうやって座っている。あるわけない。あるわけないのに……」
「僕がその亡霊だと……?」
ギターの彼がにっこりとほほ笑む。少々不気味だった。