Neetel Inside ニートノベル
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「はい。最初はそう思ったんです、失礼ですけど。ですけど、違うんですよね。話せばこうやってあなたは現実に存在する人間だとわかる。やっぱり都市伝説なんだって、いまはそのことを、実感させられているところです」

 青年はちょっとだけ笑ってベンチから立ち上がろうとした。

「すいません。演奏の邪魔をしてしまって」

 ギターの彼はそれを制して彼にこういった。

「あんがい都市伝説は都市伝説じゃないかもしれないよ。あの桜の木を見てごらん。何で二つしかないのか、その理由を知っているかい?」

 青年は意図がわからないという顔をした。

「あの桜の木はもとは一本だったんだよ。でもね、白血病の女の子を救おうとしたミュージシャンがもう一本隣に植えたんだ。……なんでかって? その女の子が“櫻”っていう名前だったんだよ。私はもうすぐ死ぬんだっていつもふさぎこんでいた彼女を慰めるためか、同じ名前の樹を隣にもう一本植えたんだ。君はひとりじゃないんだって、女の子がよく来るこの公園に植えることで、伝えたかったんじゃないかな。……結局女の子は死んじゃったんだけどね。もう五十年くらい昔の話さ。桜の木の亡霊ってのは、そのミュージシャンのことだろう? 願いをかなえてくれるってのは初耳だけど」

 ギターの彼はシニカルに笑うと、青年の方を向いた。

       

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