ミシマ
ep.4 暇つぶし
――大輔が公園から去った後、和葉と冬羽の会話。
『宮村大輔(18)
舞雲高校三年生。
彼女なし。
趣味、ピアノ(だが、恥ずかしくて人前では弾かない)
家族、姉(両親はすでに他界、五つ上の姉と二人でアパートに住んでいる)』
「と、基本情報はこんなもんかな。でも」
和葉は右手に浮かんだテレビのような画面から顔をあげ、目の前の白い子供に話しかける。
「冬羽ちゃんが僕以外の人間、それも生きている人間に興味を持つなんてちょっと信じられないよ。しかも“お守り”まで渡すなんて、ね」
フッと和葉は鼻で笑い、手元にあるギターをぽんと叩く。
「和葉、お前は人間じゃないだろう」
無表情のまま、冬羽はベンチに座った和葉を見つめる。
「今は人間だよ、今は。亡霊だけどさ」
和葉はそう言って夜空を見上げる。
鈴虫のりーんりーんという声が、公園じゅうにこだましていた。
と、和葉は急にまじめな態度に切り替える。
「なんで“お守り”を?」
「……近々、ミシマが動く。いや、目覚めるといったほうがいいかな」
白い彼女はため息をつく。
和葉が目を見開く。
「冗談だろ?」
何かの間違いだ、と和葉は目の前の子どもを睨む。
「あの坊やに私たちが見えたのも、通常ならあり得ないことだよ。あの坊やに霊感があるとは思えないし。それに、最近気配がするんだよ」
「……ああ、なるほど」
そう言って和葉はギターを奏でる。いつもと違ってぎこちない音色だった。
「だから、……私の声が聞こえる人間に、早々死なれては困るんだ」
そして彼女は両目を閉じ、「ふふふ」と力なく笑った。
「……まったく嫌な奴だな、私は」
『宮村大輔(18)
舞雲高校三年生。
彼女なし。
趣味、ピアノ(だが、恥ずかしくて人前では弾かない)
家族、姉(両親はすでに他界、五つ上の姉と二人でアパートに住んでいる)』
「と、基本情報はこんなもんかな。でも」
和葉は右手に浮かんだテレビのような画面から顔をあげ、目の前の白い子供に話しかける。
「冬羽ちゃんが僕以外の人間、それも生きている人間に興味を持つなんてちょっと信じられないよ。しかも“お守り”まで渡すなんて、ね」
フッと和葉は鼻で笑い、手元にあるギターをぽんと叩く。
「和葉、お前は人間じゃないだろう」
無表情のまま、冬羽はベンチに座った和葉を見つめる。
「今は人間だよ、今は。亡霊だけどさ」
和葉はそう言って夜空を見上げる。
鈴虫のりーんりーんという声が、公園じゅうにこだましていた。
と、和葉は急にまじめな態度に切り替える。
「なんで“お守り”を?」
「……近々、ミシマが動く。いや、目覚めるといったほうがいいかな」
白い彼女はため息をつく。
和葉が目を見開く。
「冗談だろ?」
何かの間違いだ、と和葉は目の前の子どもを睨む。
「あの坊やに私たちが見えたのも、通常ならあり得ないことだよ。あの坊やに霊感があるとは思えないし。それに、最近気配がするんだよ」
「……ああ、なるほど」
そう言って和葉はギターを奏でる。いつもと違ってぎこちない音色だった。
「だから、……私の声が聞こえる人間に、早々死なれては困るんだ」
そして彼女は両目を閉じ、「ふふふ」と力なく笑った。
「……まったく嫌な奴だな、私は」
「お守りねぇ……」
早朝、大輔は背中越しに自転車をこぐ尚紀に、聞こえるか聞こえないか微妙な声で呟いた。
アパートの隣に住む尚紀との自転車二人乗り。昨日派手に転んだおかげでお釈迦になった大輔の自転車は、大輔自身の最も能率的な通学手段であった。
そう、――昨日の夕方(夜)。
大輔が出会った二人の人物、否、霊もどき。
夢ではないかと疑うほどの現象に、最初は確信していた大輔も時間がたつにつれ半信半疑になりつつあった。
「なぁ」
「ん?」
じゃんけんで負けた尚紀が口をとがらせる。
「やっぱり距離半分づつにしねぇ? 自転車こぐのマジで疲れるんだよ」
「だめだね。お前が仕掛けた勝負じゃん。ちゃんと三回連続で勝っただろ」
「ちぇっ……ついてねーの。自転車壊したのお前じゃん、何で俺がお前を学校までタダ乗りさせなくちゃなんねーんだよ」
荒い息使いで尚紀が呟く。そんな尚紀をしり目に、大輔は右ポケットから“あるもの”を取り出す。
それは手にすっぽり収まるほどの白い綺麗な木の板だった。昨日、冬羽と名乗る白い少女が大輔に渡したものである。
「お守りねぇ……」
木の板の中心には荒々しく“辰”と赤字で掘られており、独特の雰囲気を――神々しい雰囲気を――出していた。
「大輔、さっきから何見てんだ?」
大輔が手に持っている板が気になったのか、尚紀が問いかけた。
「ん? ……もらいもん」
大輔は一瞬、昨日のことを尚紀に言おうかどうか考えた。
だが、オカルト嫌いの尚紀が大輔の話を十割ないし一割も信じてくれるはずもない。そう思った大輔は、板をポケットに突っ込むと『今日の一時間目(英語)の宿題やってねえなぁ』と、朝日を見つめながらぽつりと呟いた。