Neetel Inside ニートノベル
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俺会議
会議と人物紹介

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「じゃあそろそろ第四回 なぜ河村に彼女が出来ないのか会議を始めたいと思います。
 司会・進行は私、小川が担当します」
「いぇい」
「待ってましたー」
「よっしゃ」

小川による挨拶と各々の棒読みの掛け声を持って今日も俺のための会議が始まった。

「まず近況はどうなの?なんか進展は?」
「えぇ~……実は」
「ないな」
「ない」
「駄目だな」

答えようとしているのに遮る三つの声。
滝沢、森下、野本の三人だ。
確かに進展はない。だが、話を少しでも面白おかしくしようとする癖で
もったいぶった様な話し方をしてしまったのだ。
三年目ともなるこのメンツでは……もはやお約束扱いだ。

「ちょおま、決め付けんなッ」
「そうだよ、何かあったかもしれないじゃん!」

小川はいつもフォロー役だ。ありがたい。

「いや、まぁ、ないんですけど」
「やっぱりないんかい!ヒャハハハハ!!」

そうやっていつも小川のフォローを裏切る。
そして小川が癪に触るくらいの甲高い声で笑う。
これが地声じゃなかったら「おいカメラ止めろ」と言ってから放送禁止事項をすることであろう請け合い。

「あったら会議開く必要ないから」
「ですよねー」

これ(ですよねー)は滝沢の口癖だ。とても平坦なイントネーションが可愛いと思う。
滝沢の影響で俺も使い始めたが、可愛い保証はない。

「そっかー、進展なしか。まぁ予想通りだよな」

森下はいつも辛口だ。だが言ってることは正論が多い。
ただしそれは他人に言うことに対してのみであり自分に対しては非常に適当だ。
自分に甘く、他人に厳しい、そんな雰囲気がする。
前者は悪い意味、後者はいい意味で。

「もう言っちゃえよー。そうすればスッキリするだろ?」

野本はいつも無責任なことを言う。なぜなら俺に興味がないからだ。
野本は小川の友人という繋がりから話すことになった。
人見知りをする俺は友人の友人という関係にどう接すればいいか分からないもんだから
野本との友情も希薄なものなのだ。
知人以上友達未満、帰る方向が途中まで一緒だというような関係だ。
その野本が今一緒にいるということは、つまり帰り道なのだ。

今この五人は小川(父)所有のクラウンで大学からそれぞれの自宅へと向かっている最中だ。
運転はもちろん小川。ブレーキやアクセルの踏み込みが急な運転をする。

「いや、勝つ見込みのない戦いはしないよ」
「臆病者ー。マジチキンだな」
「いぇーチキーン」
「チキン!チキン!」

チキンコール。
いつものことだからと笑って済ます俺は宇宙くらい心に余裕があると思う。

「なんとでも言え」
「チキン!チキン!照り焼き!」
「それは違くねぇ!?」
「はい!じゃあ俺ポーク!」
「じゃあ俺ビーフ!」
「カレーはやっぱりチキンカレー!」
「ですよねー」
「はぁ!?トマトカレー舐めんな!」
「カレーは飲み物ですー!」
「つうか話おかしくなってねぇ!?」
「何の話だよこれ」
「晩飯の時間が近いから仕方ないよね」

ボケとツッコミが錯綜する車内。
ボケは河村、つまり俺一人といっても過言ではない。
滝沢と森下がたまに乗ってくるくらいで主体的にボケようとはしない。
今回、照り焼きとか言い出した滝沢は非常にレアだ。
例えるならはぐれメタルが仲間になるくらいのレアさだ。
河村以外の四人はツッコミだ。
俺から言わせれば俺がボケるから仕方なく、だろう。
でもそうでもしないとアニメ話でつまらなくなる人が出てくる。
(主に俺と滝沢。アニメは見ないんだ)

「で、何の話だっけ?」

と、程よく治まったところで話を戻す。

「進展は?」
「ない」
「じゃあさ」
「あ、今日はここら辺でいいよ。ちょっと買い物して帰るから」
「嘘つけー!お前、逃げる気満々じゃん!」
「いや、本当に買い物だから!」
「なに買うんだよ?」
「のど飴」
「どうでもいいもんじゃん!」
「ばっ!俺の喉から奏でられるビブラートの効いたテノールを聴けなくなってもいいのか!?」
「うぜぇ!もう降りろ!帰れ!」
「帰るよ!あ、あともう少ししてから!まだスーパーまで遠い!」
「うっせ!降りろ!降りろ!」

ハザードランプを点滅させ、荒々しく踏まれるブレーキ。
滝沢の「やめろ!酔う!」の文句を聞きながら俺は野本と森下の二人によって車外に放り出される。

「ちょ、もう少し」

俺の言葉を待つこともなく車は急発進していってしまった。
野本の甲高い笑い声と滝沢の急発進に対する罵声を残して。

こうして第四回 なぜ河村に彼女が出来ないのか会議は終わった。
だいぶ涼しくなった10月の頭。
半袖Tシャツ一枚ではちょっと肌寒いか。
なんて思ったあと、さっきまでの馬鹿らしいやり取りを思い出しながら歩き始めた俺は
スーパーに寄るのを忘れてそのまま家に着いてしまった。

アホだ。

       

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