Neetel Inside ニートノベル
表紙

悪役やろう
第1話 マインドコントロールって卑猥な響きだよね

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「おにーさん、良いバイトあるんだけどやってみない?」
 学校からの帰路、近道するのに歓楽街を通らなければならないのだが。
古びた焼き鳥屋の脇からこっちへコイコイと平手が踊った。
なんともまぁ胡散臭い物言いだなと思いつつも、
声をかけられた僕はそれが女の子の声だったのでちょっと下心をのぞかせて、
でもってヒョイと声のした方を覗き込んだのが不味かった。
 僕は突然首根っこを掴まれてそのまま暗転した。

     



 白。
 ぼんやりと目覚めた僕をまず迎えたのは煌々と光る照明の色だった。
 ここはどこかしら、と上半身を起こす。
僕が大の字に寝ていたのは手術台だった、映画とかでよく目にしてるアレだ。
 その手術台を中心に、そこは狭い個室になっているようで、前方に磨りガラ
スのはいったドア、サイドに机が一つだけある殺風景なものだった。
 その机にはメスやらその他の器具が入った鉄製の盆がある。
ただ一つ気になるのはそれが血みどろで、使用後だってことだ。
 身をよじったらおなかに違和感があり、のぞいてみたら制服のワイシャツが
はだけていて、ヘソを中心に逆十時に切って縫った跡があった。
「・・・え?」

     


     

 誰も聞いてくれる人がいないのに気の抜けた声が漏れてしまった。
縫い目が痛まないのは麻酔でも効いているのか、よくわからないがメスを入れ
られたのが僕だってことだけは分かる。
 次第に声にならない不安の霧が胸に立ちこめてくる。
 そんな時、

 ぎゅいいいいい、立て付けが悪いのか甲高い音がしてドアが開いた。

「やっと目を覚ましたようね、しょーねん」
 焼き鳥屋の裏道の、あの声がした。
 開ききったドアの向こうから躍り出てきたのは白衣の・・・ちびっ子。
 僕の頬から顎へ、緊張とは違う種類の汗が流れた。
「どーかしら、体、調子悪くなってない?」
んんん? と僕の顔を覗き込んでくる。
妙に甘い香りが彼女の長い髪から匂ってきたり、この状況とか、あーこの子睫
毛長いなーとか、頭の中が今更テンパって来た。
 え、あの、と口でモゴモゴやりつつ、
「いやー、おなかの傷が気になる位? たははっ」
そうじゃないだろ僕っー、つーか我ながら乾いた照れ隠しの笑いがキモかった。
 とりあえず聞かなくてはなるまい、この状況を。
慌てて聞いても逆に要領を得なくなる、まずは穏便に助走を付けるべく、
「とりあえず質問良いかな? この状況とか」
「ええ、許しましょう」
なんか上から目線だなこの子、目線は背の高さ的に僕より下だけど。
白衣の下、よくこんなサイズがあった物だと思えるスーツとタイトなスカート
をついでに追ってしまった自分の目線を虚空に軌道修正。
「一々項目別に聞くのも面倒くさいし、僕の聞きたいことも大体分かってるで
しょ? ひとまとめに説明してくんね?」
「お、横着ですわね」
彼女が若干うなだれたのが見て取れた。
そしてオホンとひとつ咳払いすると、白衣の襟を正して語りの姿勢を作る。

「まず何からにしましょうか、便宜上私が名乗るのとその所属を最初にしてお
きますね。
 私は照ノ 千里、表向き焼き鳥屋を装っているこの建物こそ人類から我ら超
人結社リトキヤが地球を征服するための拠点!
 ちなみにここは組織の四天王の一人たる私のプライベート地下室ね」
 いきなり展開がぶっ飛んだぞ。
そこらへんに転がってはいなさそうな将来有望な顔立ちだけど、どうみてもこ
いつは小学生スケールだ。
僕はあからさまな半眼で彼女を見る。
彼女はまあ聞けとばかりにその視線を華麗に回避。
「そもそもリトキヤとは、ちょー古代から日本の極地に細々と住まっていた鳥
なのだけど」
いきなり肩をふるわせ、しみじみと回想しているようで涙を一筋。
「生まれながらに貧乏で若くしてホームレスしていた私と組織の幹部は身を寄
せ合って橋の下で暮らしていたのよ。
 食うに困ってそこら編にいた見慣れない鳥を焼き鳥にして食べたら、あら不
思議、超人的な特殊能力が身に付いちゃった訳。
 こりゃもう私たちを苦しめていたこの世の中をこの力で苦しめ返すしかない
って」
「その力を使って金儲けしようって発想にならないあたりが先天性超貧乏のゆ
がみって奴?」
他人が苦しんだ所で飯は食えない。
表の顔で焼き鳥屋やってるあたりも貧乏くささが漂ってくるし。
「黙りなさい。
 金持ちになった所で元々私達のいた最底辺を嘲笑うくらいじゃない。
 そんなことでこの世への恨みは晴れないわ」
「左様ですか。 でもってそれと僕との関点は?」
 不幸なことに僕には目立った特技や特質が無いどころか、要領の悪さで何時
も人に引けを取りまくってる。
何を好んでこの劣等学生を巻き込んだのか。
彼女は長い髪を揺らして大いにうなずく。
僕も手術台に腰掛ける体制になって聞く体制を作った。

     


     

「私の特殊能力、人の行動をちょっとだけど操作することが可能なのよ。
 正確には一ヶ条制限を加えると言った方が正しいかもしれないけど。
 あなたには「嫌々ながらにも私の命令に逆らえない気がする」程度の制限が
なされているわ。
 絶対遵守にすると応用が利かなくて困るから緩くだけど」
つづけて、
「手術跡はご覧の通りおなか開いて縫ったのよ。
 私の陰毛を抜いて、貴方のおなかの神経に繋ぐことで私の能力は効力を発揮
するのだけど。
 ちなみになぜおなかかというと一番やりやすいからよ」
こいつはなんとも大層なことを、平然とした顔で言ってのけた。
「ちょっと待てよ、僕の神経にお前の陰毛が絡んでるのかよ! 外せよ!」
他人の陰毛なんて、自分のですら多少なりに嫌悪感がある。
僕には不幸ながらフェチな嗜好も無いのでいくら可愛い子のでもご免被る。
 彼女、千里だったかはもみ上げあたりの髪の毛を指に絡ませ首を傾げ、
「お前ってのは汚いわね、お嬢様と呼びなさい、しょーねん」
・ ・・なんだろう、そうしないといけないような不安感が僕の中をよぎる。
勇者が自分の宿命を知り辛いながらも旅に出るように、計り知れない使命感。
胸にわき起こるハラハラとした焦燥感に負けた。
「お嬢様、外せこら」
半端な忠誠、というのがちょっとだけの操作ってことなんだろう。
だが言われたことに対しては多分、僕の意思力じゃ反抗出来そうにない。
「無理無理、接続して一時間以上経過してるから貴方の神経と見事に同化して
ると思うわ」
最悪だ。
というか、よく考えたら新たな疑問が生まれる。
「お嬢様、チビでロリっぽいけど生えてんのかよ」
「やっと生えてきたはじめの一本を通りすがりの貴方に実験移植したのよ。
 ちなみにどうして自分の能力が分かったかというのは備わった時にご都合主
義的に自覚出来たのよ!」
「色々ひどくね!」
お嬢様、しぬほど偉そうにのたまってくださいやがった。
「でも安心しなさい。 下っ端戦闘員として末永くボロ雑巾にしてあげるわ」
えらい言われようだ。
美少女に尻に敷かれても嬉しくないぞ僕は。
 あー、それにしても手術してから一時間以上経ってるってことは、もうすっ
かり日が暮れてるんだろうなぁ。
夕飯食いそびれたかも、携帯何処かな、夕飯残しといてもらお。
「なに目を反らして現実逃避してるのよ。 まずは本当に身体の異常がないか
見がてら、組織の案内や紹介にいくわよ。
それにしても私たち組織初めての下っ端よ、死ぬほど自慢してやるわ」
 ずいぶん小規模な組織なようだ、怪人とかもいないんだろうか。
なによりまず本気で世界征服やら撲滅やら考えてるんだろうか。
でもとりあえず、結論を言えば。

 その日、僕は半奴隷戦闘員第一号になった。

       

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Neetsha