Neetel Inside ニートノベル
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地獄の釜の底で
地獄の釜の底で

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 俺は会社のデスクで目を覚ました。だだっ広いオフィスに残っているのは俺ひとりだけ。腕時計を確認すると午前2時37分になっていた。
 机の上には汁の残ったカップ麺、空になった湯のみ、そして手垢のついたDELLのキーボードとマウスが置かれている。俺はログイン画面を呼び出し、打ち慣れたユーザー名とパスワードを入力した。ディスプレイにメールソフトの着信画面が表示される。『不審者目撃情報』と書かれた新着メールが15分前に届いていた。


「くそ・・・・・・またかよ・・・・・・」


 俺はそのメールを開封し、内容を確認した。20代後半から30代前半の不審な男に後ろからつけられたとある。男は身長が175cm~185cmぐらいの痩せ型。メガネをかけていて、髪は長め。服装は黒っぽいシャツにジーンズ。目撃場所はこの会社にごく近い、歩いて10分ほどの住所が記されている。
 バイトのマニュアルによれば、このメールは悪戯ではない。速やかに登録会員と警察の防犯課へ注意喚起のメールを配信する必要がある。
 にも関わらず、俺は椅子の背もたれに身体を預け、メールの文面をじっと見つめていた。このメールに書かれた不審者の容姿・服装が、俺の特徴と明らかに一致しているためだ。俺はマウスを手に取り、そのメールを削除した。


 ◆ ◆ ◆ 


 土曜の昼下がり、バイトの後輩であるミナコに誘われた俺は、マックで遅い昼飯を喰っていた。俺はてりやきのバリューセット、ミナコはチーズバーガーの単品を2つとオレンジジュースだ。今日は2人ともバイトは休みで、この後はミナコの買い物に付き合うことになっている。


「・・・・・・ん~と、つまり先輩がぐーすか寝ているのを待ち構えていたかのように、会社のご近所で不審者が出現するのですね!」

「バカ、声でけえよ」


 俺はミナコの頭をパシンと叩いた。ミナコは首をすくめて、上目遣いで俺を見つめてくる。1ヶ月前からバイトに入ったミナコはボーッとしたバカそうな女だが、巨乳でエロい身体つきをしている。少し変な奴だが、俺に媚びてくる仕草が気に入っているので、そろそろ喰っちまってもいいかと思っている。
 ミナコから先輩、先輩と呼ばれているが、俺がこのバイトを始めたのも、たかだか3ヶ月前だ。登録会員から送られてきた不審者情報をチェックしてメールを一斉配信する。配信用のツールはできているから、日本語が読めれば誰にでもできる仕事だ。
 登録会員数も少なく、目撃情報が1件もない日が多々ある。このサービスが立ち上がってから半年も経っていないと聞いているが、まともな経営センスがあるなら一刻も早く撤退すべきだろう。もっとも、そうなれば俺は用済みだ。ミナコのいる郵便物仕分けの部署に行くか、下手をすればクビになる。生活のためにも、お偉い社員様が馬鹿なことを続けてくれるのを祈るばかりだ。


「うにゅ~、だって、ミステリアスではないですかぁ。先輩が夜勤に入るようになって、4回とも同じようなメールが来てるのでしょう? それだけでもアレですのに、着ている服までぴったんこの目撃情報なんて、偶然ではあり得ないと思うです。
 にしても、全日程において居眠りこいているのは、労働者として、いささかどうかと思うですよ。毎度、差し入れをしているミナコも浮かばれません」

「夜勤の通しは疲れんだよ。3時間勤務のおまえと一緒にすんじゃねぇ」

「ミナコはガッコ行ってんですからね。いい年してフリーターの未来のない先輩とは一緒にしないでほしいです」


 俺は少し強めにミナコの頭を叩いた。ミナコは少し怒った顔をして、ぽってりした唇を尖らせる。俺はこいつの口に膨張したペニスをぶち込みたい衝動に駆られた。


「そんなポカポカ叩かないでほしいですぅ。 ミナコ、バカになっちゃいますよ」

「社会なめてるからだ。おまえのガッコなんか行ってるうちに入らねえんだよ」

「なんですとぉーー! かくいう先輩はどこぞの大学出たですかぁ!」


 言葉に詰まる。
 が、少なくとも三流の短大に通っているミナコから馬鹿にされる覚えはない。
 迷ったが、俺は本当の学歴を伝えた。


「・・・・・・T大だ」

「ほへ? 何とおっしゃいました?」

「T大だっつってんだろ。知らねえのか?」

「・・・・・・ププ・・・・・・プギャハハハハハハ!
 せ、せ、先輩ってば、言うにこと欠いて何を言い出すですかぁ~。
 冗談にも限度ってものがありますよぉ~」


 ミナコはゲラゲラと笑っていた。周りにいた中高生のガキどもが驚いたようにミナコを見る。
 女の笑い顔ってやつは本当に醜い。俺は気分が悪くなり、黙って席を立った。


「はにゃ? 先輩、怒ってしまったですか?」

「・・・・・・」

「ちょっと、ちょっと、マジギレなのですか。
 あぅー・・・・・・ミナコ、ちょっと悪ノリしたです。堪忍してください。ねぇ、先輩ってば。今度の夜勤の時も差し入れ持っていくですから」


 俺の置きっ放しにしたトレイを片付けて、ミナコが俺の側に駆け寄ってくる。置き去りにされた子供の目で俺を見上げるミナコの顔はなかなかに魅力的だ。


「今度はカップ麺じゃなくて、もっといいもん買ってこい。モスバーガーとか」

「うぃ、了解ですぅ! モスバーガーにポテトもつけちゃうですよぉ!」


 満面の笑顔を浮かべるミナコ。馬鹿丸出しだ。女ってのは、男に金使って、股ひらいて喜んでんだから本当に馬鹿そのものだよな。


 ◆ ◆ ◆ 


 俺は真っ暗な自分の部屋で目を覚ました。部屋は肌寒いのに嫌な汗をかいている。枕元に置いた腕時計を探す手に、空になったコンビニ弁当の容器が当たった。手に取った腕時計は午前4時8分を示している。
 もそもそと起き上がって電灯を点けた。ゴミと本が散乱する狭苦しい1Kのボロアパート。本来の俺には似つかわしくない住まい。俺は薄い蒲団の上で胡坐をかき、煙草に火をつけた。
 立ち上る煙を見つめていると、あのメールのことが頭に思い浮かんだ。俺が夜勤に入るようになったのはつい最近だ。俺より先に入っていたバイトが辞め、スライド式に夜勤のシフトが回ってきた。
 このサービスは子供を持つ親が利用しているケースが殆どで、目撃情報も午後3時から5時の間に集中している。そのため、夜間のメールはまったくと言っていいほど無く『24時間監視体制!』という触込みを嘘にしないためだけに夜勤を1人置いているようなものだ。
 ところが、俺の入った4回は、いずれもメールが届いている。しかも、すべてが会社近辺での目撃情報であり、その特徴は俺と一致する。ミナコも言っていたが、偶然では有り得ない。おそらくは俺に恨みを持つ者の犯行だろう。
 俺は落ちそうになっていた煙草の灰を空き缶の縁で弾き落とした。

 ――やはり、あの事件の関係者か?

 俺は忌まわしい記憶を呼び起こす。T大に入学して一人暮らしを始めた俺は、手当たり次第に女とヤッていた。親から貰った顔のおかげで、黙っていても女は寄ってきた。
 ヤリ捨てた中に、いいケツをしている女がいた。正直、顔はぼんやりとしか思い出せなかったが、張りのあるケツをバックで突きまくったことはよく覚えている。
 ある日、そいつは俺への恨みを綴った遺書を残して自殺した。両親は俺を訴えた。
 それに便乗するように、法学部のブサイクが俺にレイプされたと訴えてきた。しつこく付き纏ってきたから、ボランティアで1度だけヤッてやったガリガリの女だった。
 どこから嗅ぎ付けたのか、週刊誌が俺のことを書きたてた。『極悪非道のT大生レイパー』として俺の顔写真が目線入りで世間に晒された。
 裕福だった父は俺に最高の弁護士をつけてくれた。綿密な打ち合わせの後、自殺した女の両親には土下座して詫び、示談に持ち込んだ。ブサイクの方は半ば脅しに近い形で告訴を取り下げさせた。
 俺が恨みを買うとしたら、このブサイクの関係者ぐらいだろう。俺を不審者に仕立て上げて警察に通報するつもりか? 調べれば過去の事件なんてすぐに分かっちまう。そうなれば、俺の言うことなんて誰も聞かず、いつの間にか犯罪者に仕立て上げられちまうんだ。
 にしても、あれから10年近くが過ぎている。今更、こんな手の込んだことをするかは、甚だ疑問だ。俺の考えすぎかとも思うが、そろそろバックレちまった方がいいかもしれない。明らかに悪意のある何かが俺に近づいていることは確かなのだから。


「ま、次の給料貰ってからだよな・・・・・・」


 俺は空き缶で煙草をもみ消した。給料日の前に夜勤がもう1度ある。それが終わったらバックレよう。貯金は10万程ある。それが尽きたら・・・・・・いよいよ俺も本当の犯罪者になるしかないかな・・・・・・。
 俺は明かりを消して、再び蒲団に潜り込む。嫌なことを思い出したせいで神経がずいぶんと昂ぶっていた。
 こんな思いをするなら、ミナコとラブホに行っときゃよかった。あいつ、ヤリたくてたまらないって顔してたな・・・・・・。

 俺はミナコの服を引き裂いて、その豊満な身体を陵辱する妄想に身を任せた。


 ◆ ◆ ◆ 


 午後7時を過ぎて、社内に残っている社員も少なくなってきた。今日の夜勤は変則シフトで午後6時から翌朝9時までになっている。夜勤は深夜給がついて割はいいが、その後2日間休みになってしまう。時間を切り売りして生活費にしているバイトの身には、勤務時間が減るのは厳しい。もっとも、今回に限っては、逃げる時間が稼げて好都合なのだが。
 俺は空になった湯飲みを持って給湯室に向かった。この会社には無料のティーサーバーがある。チェーン店のうどん屋にあるような、ボタンを押すと一杯分が出てくるタイプのものだ。ペットボトルを買うのはもったいないので、勤務中の飲み物はいつもこれで済ませている。
 給湯室にはこの会社の社員である禿げたオッサンがいた。入れたての熱い茶をすすって一息ついているようだ。
 こいつは俺の面接をしたからよく覚えている。面接の時、あいつは俺の姿を見た途端にギョッとしていた。その時は訳が分からなかったが、仕事を始めてみて、こいつの異常な神経質さに気がついた。机は常に整頓されていて、その上にある書類は常に机の辺と並行になるように置かれている。朝・昼・晩と、このティーサーバーの掃除をし、一番茶を飲んでは満足げにしているような異常者だ。今も掃除を終えて、その成果を楽しんでいるところらしい。
 面接時にカネのなかった俺は、かなり薄汚れた格好をしていた。こいつにはそれが驚くべき事だったのだろう。多かれ少なかれ、順当な人生を歩んでいる奴らは、同じような視線を俺に向ける。俺がいないかのように振舞う社員ども。処女を大事にしているうちに発酵して腐ってしまったようなババア。
 そんな奴らから、あからさまに避けるような態度を取られると、俺はお前らとは違うんだと叫んでやりたくなる。碌な大学にも入れなかったような奴ら。こんな先のない会社で一生を終える負け犬ども。

 俺はお前らとは違う。お前らのような馬鹿どもとは今日でおさらばだ。

 奴は茶を飲み終え、湯飲みを洗い、給湯室から出てきた。俺はすれ違いざまに軽く会釈をした。奴は俺を一瞥し、無視して去っていきやがった。クソ野郎が。


 ◆ ◆ ◆ 


「先輩はなんちゅうか、ヒガミ根性の塊ですよねぇ。
 まぁ、ミナコもあのねちねち親父は、苦手なのですけどね」


 無料の茶をすすりながらミナコが偉そうに言う。その茶を入れる機械は、あいつがメンテナンスしていると教えてやりたかったが、普段の俺もその茶を飲んでいるのでやめておいた。
 午後9時を過ぎた頃、約束どおりミナコはモスバーガーを差し入れに持ってきた。フロアには俺とミナコしかいないのをいいことに、この会社の社員どもがどれだけ屑かをついべらべらと語ってしまった。そのせいでミナコから屈辱的な言葉をもらってしまう。俺としたことが大失態だ。


「みんなテキトーに生きてるですよ。上とか下とかそんな考えてないですって」

「それはお前が女だからだよ」

「はにゃーー! 先輩は男女差別をするですかぁ! 文明人としてあるまじき発言ですよぉ!」

「差別じゃない。区別だ。あと、もう少し小さい声で話せ」

「ふぃ~、先輩のは区別じゃなくて差別ですよぉ・・・・・・」


 バカなくせに屁理屈だけはよく出てくる。それが女の特徴だってことに気付いていない。議論ができないし頭が悪い。
 ミナコはしょんぼりして肩をすくめていた。両腕に挟まれて、ニットの白いセーターを着たミナコの胸が強調される。俺はモスバーガーを食べる口が止まってしまった。


「・・・・・・お前、明日暇か?」

「ほひ? 明日は講義が入っとりますが・・・・・・」

「じゃあ、夕飯喰いに行かないか? マックよりいいとこに連れてってやるよ」

「はにゃあ!! 先輩からのお誘いですか?
 行くです! 行くです! 何なら講義なんぞ、サボってもよいのですよ?」

「・・・・・・いや、俺、これから夜勤なんだから寝させてくれ」

「はい! 了解ですぅ!」


 嬉しそうな顔しやがって・・・・・・。バックレる前に1回ヤリたいだけなんだがな・・・・・・。
 俺は何となく照れくさくなってしまい、ミナコがセットで買ってきたコーラを一口飲んで、おもむろに話題を変えた。


「ところで、おまえの分は無いのか? ハンバーガー?」

「おふ、ミナコはお腹が空いていたので、お店ですませてきたのです」

「俺を待たせて、ひとりで喰ってたのか・・・・・・」

「ほげえっ! 酷いです! 誘導尋問です! 乙女の秘密を暴かないでほしいですぅ!」

「・・・・・・ホント、うるせえな。ほれ、芋やるからおとなしくしろ」

「にゃー・・・・・・ミナコは芋嫌いです」


 ミナコに嫌いな食い物なんてあるのかと思った時、俺はふと違和感を感じた。

 夜勤のたびに差し入れを持ってきたミナコ。
 夜に弱いわけでもないのに眠ってしまった俺。
 眠っている時を見計らったように来る通報メール。


 なんだ・・・・・・そうなのか・・・・・・。


 考えてみれば、外部の犯行なんて有り得ないよな。
 シフトは週単位で決まるんだし、もし外部の人間が犯人なら、俺を1ヶ月間、四六時中見張っていることになる。そこまでできるくらいなら、もっと効率のいい方法があるよな。

 まったく、女って奴は信用ならねぇ・・・・・・。
 俺も学習しろよ。バカヤロウが・・・・・・。

 俺は真実に気付いたことを、おくびにも出さずに会話を続けた。


「あ? 俺の芋が喰えねえと?」

「ほわっち? 優しさのあとにサドモード全開ですか?
 ミナコ、マジ芋はダメなんス。堪忍してくださいッス」


 俺の仮説が確信へと変わっていく。
 俺はポテトを鷲掴みにして、ミナコの顔の前に突き出した。


「いいから喰え、とっとと喰え」

「どへー・・・・・・、わかったですよ・・・・・・。
 マジ、先輩はわからんちんですねぇ・・・・・・」


 ミナコは俺の持っていたポテトを鼻をつまんで頬張った。もしゃもしゃと咀嚼してゴクリと飲み込む。


「・・・・・・ふぃ~ん、これは訴訟もんですよぉ。ミナコ汚されてしまったですぅ。責任とって下さいですぅ」
「責任か・・・・・・俺のもっとも嫌いな言葉だな・・・・・・」
「うげぼ・・・・・・先輩、本日のところはこれでお暇させて頂きたく思うです・・・・・・」


 俺は去っていこうとするミナコの腕を力任せに掴んだ。ここで逃げられてたまるかよ。


「はうん? ななな、なんでございましょう?」

「もう少しいろよ」

「のえ? しかし、ミナコはゲロっちの予感が・・・・・・」

「死んでも堪えろ」


 俺はミナコの唇を塞ぐようにキスをした。最初、手をバタバタさせていたミナコは次第におとなしくなり、俺のなすがままになっていった。やっぱりこいつはビッチだ。目的よりも一瞬の快楽を求める。そういう奴だってことは俺にはわかっていた。
 もっと早く気付くべきだった。だが、まだ遅すぎることはない。こいつは俺が気付いていることに気付いていない。俺を見下して、俺を手玉に取った気でいるんだろう。それが間違いだってことを教えてやる。俺はおまえらとは頭の出来が違うんだってことを証明してやる。


「あはぁ・・・・・・先輩・・・・・・ミナコは幸せですぅ・・・・・・。
 ミナコは先輩のこと、ずっと好きだったですよぉ・・・・・・」


 俺が唇を離すと、ミナコは俺にしなだれかかってきた。女はここまでできるもんなのか? さすがに俺は少し恐ろしくなった。


「ほに? どうかしたですか?」

「いや、なんでもねえよ・・・・・・」


 俺はミナコの背中に右手を回し、ブラウスの上からブラのホックを外した。同時に左手で前のボタンを外していく。露わになった胸からブラをずらし、俺はいきなり乳首にむしゃぶりついた。


「うあんっ!」


 ミナコが女の声を上げる。陵辱されている時、女は最高に魅力的だ。

 愛? 心? テクニック?

 そんなものは魅力のない男が次善策として使うものだ。魅力あるオスの前では女は奪われて犯されることを望み、快感に打ち震えてケツを振る。そんな本能を社会的意識という滑稽なものが邪魔をする。

 あいつら、あんなに感じてたくせに・・・・・・。
 俺のペニスにしゃぶりついてたじゃねえかよ・・・・・・。

 それでいいだろ。何でいきなり自殺すんだよ。
 何で俺が訴えられなきゃいけねぇんだよ。

 あの事件が収束した後、俺は両親に親子の縁を切られた。恥晒しとなじられた。事情も知らない興味本位の奴らが犯罪者を見る目でおれを睨みつける。俺は耐え切れずにT大を退学した。俺は何ひとつ間違ったことはしていないのに、犯罪者に仕立て上げられ、晒し者にされてしまった。


 ――被害者は俺の方だ。


 俺の人生はクソ女どもにメチャクチャにされた。そして、こんな人生の負け組が集まるような場所で、また俺は安い女の乳を吸っている。クソ女どもはどこまで俺を追い詰めれば気が済むんだ。

 俺はミナコを机に押し付けた。短いスカートで申し訳程度に隠された丸いケツが突き出される。俺はびしょびしょになったミナコのパンツを剥ぎ取り、反り返ったペニスを突っ込んだ。


「あっ! あっ! あっ! あっ!」


 よがるミナコの声が深夜のオフィスに響いた。
 もっと鳴けよ。もっと鳴けよ!


「あっ! あっ! ふあっ! ああんっ!」


 俺はミナコの中に熱いものを大量に出してやった。俺の動きが止まると、ミナコはぐったりとして机にもたれかかる。俺はミナコからペニスを抜くと、ミナコの髪を掴み、膨張したままのペニスの前に、とろんとしたミナコの顔を持ってきた。


「舐めろよ」


 俺はミナコに言う。ミナコはゆらゆらして意識が朦朧としているようだ。
 ポテトに入れておいた睡眠薬が効いてきたのか?
 俺にはまだ効いてこないのに早すぎるだろ?
 下手な芝居してんじゃねえよ!


「先輩・・・・・・ミナコはチョー幸せなのです・・・・・・
 でもでも・・・・・・なんだかチョー眠いのです・・・・・・」


 ミナコはそう言うと、精液のついた俺のペニスをペロッと一舐めした。それはこれまで感じたことがないほど気持ちよくて、全身がビクッと震えてしまった。


「にょほほ・・・・・・先輩ったら可愛いのです・・・・・・
 ちょっと寝たら、何でもしてあげるですから・・・・・・
 暴れん坊将軍さんは、ちょっとだけいい子で待ってるといいですよ・・・・・・

 明日、いっしょにごはん食べるの、楽しみにしてるですからね・・・・・・」


 そこまで話して、ミナコは力尽きたようにばったりと床に倒れこんだ。ケツを丸出しにして隠そうともしない。

 ・・・・・・なんだよ、こいつ。

 お前だろ?
 差し入れに睡眠薬入れて、俺が寝てる間に不審者情報をメールしてたんだろ?
 だから俺と一緒にメシを喰わなかったし、ポテトを勧めても喰わなかったんだろ?
 俺があんまり言うから、喰うだけ喰って逃げようとしたんだろ?
 でも、俺に求められたらヤリたくなって、まあいいやって思ったんだろ?

 お前がポテトを喰うのを断って、俺は全部わかったんだ。
 過去4回の通報メールは、身長や年代は正に俺だし、しかも目撃情報の服装はすべて、俺がその日に着ていたものと特徴が一致している。
 お前以外にそんなメールが送れる奴はいないんだ。

 お前はあの件の関係者なんだろ?
 俺を不審者に仕立て上げて、適当な頃合で警察へ通報か?
 前科はついてないが、あの時の事件なんて調べりゃすぐにわかっちまう。
 そしてまた俺は犯罪者扱いだ。そんな手に乗るかよ。

 お前とヤッて、2人とも寝ちまって、今日、不審者情報が来なければ確定。
 明日、もう1度お前とヤッて、殺して、バックレる。

 そのつもりだったのに・・・・・・おかしいだろ・・・・・・。
 何でお前が寝ちまって、俺が起きてるんだ・・・・・・?
 あれだけお前の差し入れを喰っちまった俺が大丈夫で、
 ポテトだけ喰ったお前が何で寝てんだよ・・・・・・。

 混乱する俺を嘲笑うかのように通報メールが届いた。

 俺は倒れているミナコをそのままにして、食い入るように画面を見つめた。
 俺は震える手でマウスを掴み、通報メールを開いた。

 そこには一言、





 『死ね』





 と、あった。

 ゴッ! という鈍い音が響き、俺は頭に鈍い痛みを感じて椅子から転げ落ちた。何が起きているのか分からないまま、俺の頭に固いものが何度も叩きつけられる。次第に俺は身体を動かせなくなり、痛みも感じなくなっていった。

 大の字に倒れている俺を、誰かが見下ろしている。
 動きの止まった俺の側で、そいつは息を切らしていた。


「・・・・・・この鬼畜が」


 搾り出すような声がした。
 この声は・・・・・・あの神経質な異常者のオッサンか・・・・・・。

 俺は薄れゆく意識の中で、睡眠薬の仕込み場所に思い至った。

 あのティーサーバー・・・・・・。

 夜に仕込んで、朝に片付ける。夜は夜勤以外飲む奴はいない。
 今日、俺はあのオッサンが掃除をしたすぐ後に茶を入れて、その後は飲んでいない。
 薬が拡散されるまで、しばらく時間がかかるのだろう。
 だから、こいつは一番茶を飲めるんだ。

 飯を喰う時にはミナコの買ってきたコーラを飲んでいた。
 薬入りの茶を飲んだのはミナコだけってことか・・・・・・?

 こいつなら、俺が何を着ていたかなんてすぐに分かる。
 同じフロアで毎日仕事してるんだからな・・・・・・。

 でもよぉ・・・・・・俺がてめぇに何したって言うんだよぉ・・・・・・
 そんなに俺が気にくわねえのか・・・・・・
 それとも、筋金入りのキチガイなのかよ・・・・・・


「貴様・・・・・・まだ俺のことを思い出さないみたいだな・・・・・・」


 オッサンが震える声で喋る。
 何なんだコイツ? 訳わかんねえ・・・・・・訳わかんねえよ・・・・・・。


「・・・・・・俺は吉村浩二。
 貴様が自殺に追い込んだ吉村ミズキの父親だ・・・・・・。

 俺はすぐにお前だと気付いたぞ・・・・・・。
 なのに・・・・・・お前は・・・・・・完全に俺のことを忘れているみたいだな・・・・・・。

 ミズキのことも忘れたのか・・・・・・?
 お前が殺したミズキのことも忘れたのか・・・・・・?
 お前が涙を流して謝罪したのは、全て芝居だったのか・・・・・・?」


 俺は今度こそ全てを理解した。
 だが、俺にはあの女の顔も、女の両親の顔も思い出すことができなかった。
 俺にとっては、その程度の、その場さえ乗り切ればいい程度のことだったから。

 ・・・・・・つうかさ、俺、お前に土下座したんだろ? もう終わった話じゃん。

 テメエの辛気くせえ顔なんか、何度見たって覚えられねえっての・・・・・・。

 オッサンはわなわなと震えながら、俺のことを見下ろしている。
 先のねえオヤジの癖に、俺を上から見やがって・・・・・・。

 頭がガンガンと痛む。視線を横にやると、ミナコのでかいケツが見えた。

 ああ・・・・・・このオッサン、俺らがやってるとこを見てやがったな。
 使う当てのない股間を膨らませてたのか?

 そんな奴が断罪者気取りかよ。許せねえな・・・・・・。


「・・・・・・おい」


 俺が掠れた声で呼ぶと、オッサンは笑っちまうほどにビクッと震えた。
 その姿を見て、俺はニヤリと笑った。


「・・・・・・お前の娘はいいケツしてたぜ」


 奴の血の気の引く音が聞こえた気がした。これでテメエの心は2度と癒されることはない。死ぬまで苦しみやがれ、クソ野郎が。
 勝ち誇った笑みを浮かべる俺の顔に、奇声を上げるオッサンが、無駄に重い灰皿を打ち下ろそうとしていた。


 ミナコ・・・・・・ごめん・・・・・・。
 明日、飯喰いに連れてってやれそうにないわ・・・・・・。


(了)

       

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