住人に貰った質問内容をふんだんに織り込み、俺は鉄火との会話に集中していく。
俺
「~そういや俺、姉さんの好きな音楽とかってまだ聞いてない」
鉄火
「え?言ったじゃん、あれ?言ってなかったっけ?」
俺
「言うてないよw」
鉄火
「えー恥ずかしいからいいよ」
恥ずかしい?何が恥ずかしいというのか、自らの趣味が人に聞かれて恥ずかしいというのなら
そんな趣味など捨ててしまえ、アーティストが可哀想だ。
と瞬時に考えたまでは良かったが、俺自身に置き換えてみたら
PCでエロ画像を見ながら御握りをしているというのが人に聞かれて恥ずかしいというのなら
そんなPCなど捨ててしまえ、AV女優が可哀想だ。
となってしまい、ひどく落ち込んだ。
とはいえ、彼女のお気に入りががもし幽々白書のエンディングテーマだったりしたら、
俺とめっちゃ気が合うに違いない、などと考えながら彼女にしつこく聞いてみた。
鉄火
「橘いずみ(※1)とかさ、かっこいいよね」
誰だそれは、た、たちばないずみ?ダディヤナザァーン?ウゾダドンドコドーン!!
とりあえず分かったふりをして質問を続ける。
俺
「何が好き?」
鉄火
「えええ?」
しまった、こういうところで会話スキルの無さが発動してしまうとは・・・
改めて質問をし直す
俺
「いや、食べ物とか」
鉄火
「ああ、食べ物ね、う~ん、何が好きかな、う~ん、そうか~」
「サラダ!好きだね」
俺
「うん、(じゃあ今度おいしいサラダの店知ってるから・・・無理)」
「好きな俳優とかって居るん?」
鉄火
「ケンコバ!!」
俺
「いや、俳優やってww」
鉄火
「福山雅治!」
ペナルティのワッキーに似てると言われた俺にどうしろと言うのか。
その後も色々と質問攻めに遭わせた俺ではあったが、
奇しくも目下のところ最も聞きたい質問が残ってしまったことに今さら気づく。
「嫌いなものは先に食べてしまえば後から楽しくご飯が食べられるんですよー」
幼稚園の先生の言葉がリフレインされる。
だがスレ住人もこれが聞きたいに違いない、返答次第では俺の進むルートが変わってしまう。
ここで勇気を出して聞かないことには俺は前には進めない。
「じゃあ、じゃあな、彼氏とかは?」
俺の鼓動が大きく、そして力強く拍動するのが感じられる
この気持ち、何かに似ている。
そう、吟味して購入したエロDVDの封を開け、トレイにディスクを乗せた時の感覚に。
俺は彼女の返答を待った。
(※1)橘いずみ・・・女版尾崎豊と評されたシンガーソングライター
自虐的な歌詞が持ち味だが、流行歌にありがちな「共感」とは一味違った
シンクロニシティを視聴者に与える事で有名。
出身地がスレ主と同じ兵庫であること自体は
鉄火の趣味とは全く関係がない。多分
俳優で映画監督の榊英雄と結婚、現在は芸名を榊いずみに変更している。