Neetel Inside 文芸新都
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 コンビニのドアをまず突破した俺は、ついついいつもの癖で一番窓よりの通路に足を運ぶ。
歩いていくと右手側の棚には週間少年VIPや月間コミックニート、
今日発売のヤングVIPまでもが平積みされている。よ・・・読みたい。だが俺には指令がある。
まずはレジの方を見てビニ子の存在を確認する。居た。やはり木曜日は絶対に出勤らしい。

居たのを確認すると俺は彼女をバイト上がりに誘い出そうという作戦に打って出る。
よくよく考えれば、住人に誘い出し文句などを聞いてから特攻すべきだったのかも知れない。
自分のお息子をお握りする時も、こうやっていざ告白という時ですらも早漏な自分に全く乾杯さ。

妄想1
『(レジを済ませる俺)あの・・・もし良かったらなんやけどバイト上がりにファミレスでも・・・』

妄想2
『から揚げちゃんと肉まん、それと・・・レジのお嬢さんを一人』

妄想3
『俺の名前はロックオン、おまいさまの心を狙い撃つぜぇ!!』

いくつか掴みの台詞を考えてみたが、ほれ見たことかどう考えても全て却下だ。漏れなくキモい。
そんな事を考えながらビニ子をチラチラ見ているうちに、胸が早鐘のようになっていることに気づいた。ど、どうしたというのか。何故俺はそこまで緊張する。
バクバクと鳴る心臓、この時間帯でありながら客が次々と入ってくる店内。
緊張がピークにさしかかろうかという時、俺の耳が賑やかな店内の様子を鋭敏に拾い集め始めた。
ああ、人間が極度のストレスや緊張状態に入ると知覚神経が研ぎ澄まされるという奴か、これが。

(店内)
-ビニ子「811円のお返しになりまーす、レシートは(ry」-
-ビニ男「お弁当は温めますか~?」-
-金髪女子「どうしてここにいるのよ!」-
-優男「どうしてここにいるんだ!」-
-巻き毛少年「俺がガンダムだ!」-
-ロック青年「何個か硬さとか形 色んなの買っといたから使いやすいの使ってみると良いよ」
-女子高生「ありがとー」-

ええい!ここにきてこのような集中力など要らないのに、むしろ鈍感になれ、俺。そうしないとビニ子へのお誘い文句など出てきやしないだろうに・・
とりあえず俺は何か買い物をと思い、とりあえず俺の大好物であるボン兵衛大盛りを手に取る。
選択肢は妄想1で行こう、無難かつ様子を見やすいお誘い文句だしな。
俺はレジに向かい、ボン兵衛をカウンターにポトリと置く。ビニ子がそれを手に取り、顔を上げる。
俺も顔を上げた。

ビニ子
「いらっしゃ・・・」

彼女の営業スマイルが俺を補足し、あの愛嬌ある顔を俺だけのために送ろうとし、
俺が誰なのかを認識した瞬間、彼女は一時停止をクリックされたようつべ動画のごとく固まった。


「・・・・!!!!」


ビニ子
「しゃいませぇ~」

しかめっ面でビニ子が再起動する。
そしてせわしなくもう一人のバイト店員である男の方をチラチラと見る。
男性店員が彼女の目配せに気付き、「あ~ぁ、うんうん」という表情をしたあと、彼は「レジ休止中」の札を彼の担当するカウンターに置き、彼女の傍にやってきた。
そして俺はビニ子に急いで話しかけようと精一杯ニッコリと笑い口を開こうとした。


「あの・・ビニ・・」

ビニ男
「ハイレジかわりま~~~~す!ビニ子さんからあげちゃん作るの頼みま~す!!」

彼は俺がビニ子に話しかけようとするのを遮る様に大きな声で彼女にレジ交代を命じる。
俺はその雰囲気に飲まれてしまい、ボン兵衛の会計はビニ男によって済まされてしまう。

「仕方ないか・・・今日は諦めよう」

俺はボソボソと独り言を言い、何事も無かったようにレジ横の給湯ポットに向かい、ボン兵衛のパッケージを開けていく俺。どうしようもなく情けなく、情けないほどにどうしようもない。
スープの袋を開封し、パッケージに粉スープを投入する。ここからはレジ内の様子が良く見える。
カウンターを挟んだ向こうには、俺を横目で白眼視するビニ男が居た。俺は彼の視線にTIGのそれを感じてしまい、慌てて下を向く。
俺には見えていた。彼に脅え下を向いたままでも。
ほっとした様子でこぶしとこぶしをコツンと合わせ、彼女の小さな拳が彼の腰骨を叩き、その後優しく互いにその掌を握り合わせる様子を。

そうか、そういうことだったんだな。

湯を注いで後は5分待つだけのボン兵衛をカウンターに残し、俺はコンビニを出た。
冬の終わりが来ているというのに、今日はやけに冷え込む気がする。
2月の寒の戻りというやつの所為か、告白もしてないのに失恋した所為か。
嫌われるのには慣れてるというのに、どうしてこんなに切ないんだろう。追い討ちに雨まで降ってきた。徹底的だな。


車に乗り込んだ俺はパキンと携帯を開いた。
俺にとっての原動力、GNドライブである住人にウソ偽り無く失恋を報告しようと。

       

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