Neetel Inside 文芸新都
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 窓から鉄火の姿を見た俺の胸は、何故か混乱するでもなく妙に落ち着いていた。
ビニ子に告白ことなく玉砕したという、説明にも納得にも難い気持ちを誰かに理解してほしかったのか、それとも独りで居ることを良しとするこの俺の心に「寂しさ」というものが芽生え始めているのか。
そんな事を自らに問いながら、雨にぬれた鉄火に渡そうとクローゼットを開け、タオルを取り出す。
慌てて階段を駆け下り、鉄火の元へ俺は急いだ。

俺が一階に下りると、俺の部屋の窓の真下で彼女はバイクに横乗りで腰を掛け、胸に何かを抱えていた。
俺を見つけると彼女はイョッ!というポーズを取り、更ににっこりと俺に微笑む。
俺は彼女の元へ駆け寄り、タオルを手渡す。

鉄火
「ン?ああ、ありがとw なんだwそんな気の利かせ方も出来るんじゃんw」

彼女はタオルを受け取り、代わりに胸に抱いている大きな新聞紙の包みを俺に手渡す。
新聞紙に包まれたそれは、俺の腕の中で柔らかな熱を発し、食欲をそそる香りを放出している。
どうやら土鍋が入っているようだ。
俺がその包みを開けようとすると鉄火がそれを制止する。

鉄火
「あーーーーーーーー、開けちゃダメw まだまだwwホレホレ、寒いから中入ろうよ」

彼女の顔を見ると、その美しい顔に似合わない透明の液体が彼女の鼻からしずり落ちている。
は・・・・鼻水だ。
俺がそれを拭おうと自らの親指を彼女の顔に近づけると、彼女はそれを察知したのか俺の手を払いのけ、こぶしで拭いながら鼻をすすった。

鉄火
「早く上がろうよw寒いから鼻が出るんだってw」

俺の家なのに俺が何故招待されているような感じになるのか、
俺の疑問を無視したまま、彼女は階段に向かっていく。もう一度言うがここは俺の家だ。




何度か「家に入ろう」⇔「いやだ」を繰り返しながら、階段を上がっていく。
彼女が寒いのは分かっている。寒いのは俺も同じだ。
出来ることなら彼女にお茶の一杯でも飲ませてあげてから帰してあげたい。だが、俺には今日は
いや今日はというより絶対に他人には俺の部屋には入られたくない理由がある。

俺の部屋には自称非オタク系のマンガ本やエロ本、
あげくはお握りに使用したティッシュの安置されたごみ箱等が所狭しと散らばっているからだ。
そんな部屋、女の子どころか友達や家族にすら見られたくない、というのが本音だ。
俺はこの状況を如何にして打破するかを必死に考えていた。

鉄火
「だからさ、早く部屋に入れてよ、もうここまで来てるしさ、しかも手土産付きなんだよ?
ここまで嫌がるのってのには何か理由があるの?・・・・・ハッ・・・!」

彼女は芝居めいた顔で何かにひらめいたような表情をし、言葉を続ける。

鉄火
「さてはビニ子ちゃんがもう既に家に居るとか?ってそれはないかーーーw」

俺が「ビニ子」という言葉に一瞬狼狽したのを鉄火は見逃さなかった。
彼女は俺の手が土鍋で塞がっているのを良いことに、体を摺りつける振りをすることで女性に免疫の少ない俺を更にたじろがせ、その隙にドアを開け、玄関にその細い体を滑り込ませた。
俺は、彼女が「トランザム・・・」とでも囁いた気がしてならなかった。
そして急いで彼女の後に続く俺を、彼女の笑い声が迎撃する。

鉄火
「あっはっ!きったない部屋じゃん!マンガばっかwwwwwwwww」

や、やめろ、馬鹿にするな
土鍋をキッチンに置いて部屋を物色する彼女を制止しょうとした俺だが、彼女は既に片付けを開始してしまっている。まさに電光石火、いやこの場合電光鉄火か。
更に彼女が座布団をめくったその瞬間、彼女と俺の目に艶やかな表紙の雑誌が飛び込んできた。

「ニートピア エロとスト―リーで読ませる 2大巨匠復活特集号」



住人よ、俺をさっくりと殺してくれ



       

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