Neetel Inside 文芸新都
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まっすぐ帰るつもりだったが、俺は工場の奥へ足を進める。
工場の奥では大きな鉄筋材料に向かって溶接をしている一人の姿があった。

溶接の光から顔を守るための面を被り、一心不乱に溶接をする姿
ドロドロに汚れた作業服に身を包み、しゃがんで溶接をする姿

俺はしばらくその姿を見ていた。


やがてその作業員は面を外し、腰を痛そうに叩きながら俺に背を向けたまま立ち上がる。
俺には気付いていないようだ。
現場に置いてある作業定盤の上に置いてある缶ジュースを取りに行こうとして、その作業員は俺に気付いた。

「ああ、なんだ。もうパソコン仕事は終わったの?」

関西出身の俺にはその標準語がとても綺麗に感じる。
涼やかな気分にさせられて、俺は慌てて無言で頷く。

「なんだ、したらもう帰るんだ。こっちはあともう少しで終わるんだけどね、溶接見てて楽しいの?」

俺はまた無言で頷く、なんかかっこ悪い。まるで必死で相手して欲しがってる犬みたいだ。

「何その無言返事wまあ見るんならご自由に。あんま光見ちゃダメだよ。」
「目痛くなっちゃうよ」

俺はむしろ溶接の仕事の様子よりも、彼女のかっこいい仕事する姿に見とれていた。

彼女の名は鉄火、姓と名の妙な繋がりをもじられてそう呼ばれている。
俺が最近話をするようになった,いわば数年ぶりの話相手だ。

       

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