洗面所でぬめりを伴った「あるもの」を流しながら、エアータオルで手を乾かす。
一種の悟りのような感覚が俺を包み込んでいるのは、俺が精神的に成熟しているからか。
はたまた、自慰の所為か。
ゆっくりと鏡の前で旋回しながら自らの身嗜みをチェック。
汚物、精液ともに視認されず。オールグリーンです。
俺は席に戻り会話に再度参加しようとする。
アイハブ コントロール
ああ、俺は冷静さ
俺
「ほいで何やったけ?」
向井
「せやから姉ちゃんの好きな人の話。教えてくれへんねんw」
俺
「ああ・・・・・(話戻すなよテメー)」
鉄火
「て言っても今はどうこう出来るような人じゃないけどね、難しいよ」
俺
「そうなん?鉄火姐なら大抵の男はイチコロなんちゃうん?」
向井
「イ チ コ ロ!!イ チ コ ロ!!って!!」
ああ、そうでしたね。死語は禁物でしたね、ついいつもの独り言の感覚で調子を合わせようとしてしまった自分を戒めつつ、俺はこれ以上知りたくもない鉄火の思い人の話からトピックをずらそうと試みた。
すると鉄火がおもむろに口を開いた。
鉄火
「まあ、時間をかけてじっくりタイプだからね、私は。それに今忙しいし仕事楽しいからね。」
オーケー、GJだ鉄火、見事なまでの軌道修正、感服するよ。オプーナを買う権利をや・・・
鉄火
「てか>>1は?好きな人いるの?」
俺の脳内で極めて重い歯車が重い機械音と共に駆動を始める。
歯車の名は「恋に至るまでのかけひき」
さて、如何にしてこやつら二匹を同時に納得させつつ、お互いに好印象を与えることの出来る言葉を生もうか。
だがしかし俺の思惑を超えたところに「思いつき」という言葉の悪戯が存在し、
「言うとどうなるか」という事を考えもせず、ありえない返答を俺は口から発する。
俺
「無理無理、姉ちゃん達じゃ俺のハートは奪えないぜ」
何言ってんの俺、まるで回答になってない。
中途半端なギャグだか本気だか分からんようなサムい返事、しかも標準語。俺関西人。
なんでこんなこと言ったのかまるで不明、結局フラグが立ったとか言われまくって
勝手に脳内妄想が暴走し、
彼女らが俺のことを好きだという前提で会話をまとめようとしたのが全ての間違い。
ダメだ・・・・今のは寒すぎる・・・・。
あまりの気恥ずかしさに下を向いていた俺だが、そろそろと彼女らの顔を見上げると
二人とも俺をあえて横目で見ながらニヤニヤしている。
鉄火
「それは、笑えないし会話としてどうなのよwwwwww」
向井は向井で掌を口に当て
向井
「www滑りすぎwwwwww」
神様、こんな俺をこの世に送り出した事自体は激しく恨みますが、
このような寛大で優しさあふれるリアクションをしてくれる二人を俺に与えてくれて有難う御座います。
どうか、このお優しいお二人に俺のお握り汁を与えてやって下さい。
>>詳しい状況はわからないが最悪の返事ではないと思うww
>>まあ、馬鹿ということを気にしなければありだな。
>>というか、鉄火はビニ子のことを知っててこういう質問をするのか?
>>だよなww昨日の今日でさすがに好きな子いるかはないだろwwwwww
彼女らの温かいリアクションのおかげで俺は、まあ、いいかwという気持ちになり、
今の寒い返事のおかげで好きな子についてはもう聞かれる事も無いだろうと思っていたのだが、どうやら俺はまだまだ甘いらしい。鉄火の猛攻は続く。
鉄火
「で、どうなのよ、ウリw」
向井
「おしえてーなー」
こ・・・・このツートップはなんという攻撃力を誇っているのか。
この二匹を同時に会話で相手するのはゴールドルナフル装備でキリンに挑むようなものなんじゃないのか。
ちくしょう・・・どうにかこれで納得してくれ。
俺
「居ない、以上、俺の話終わり」
二人は顔を見合わせる。なんだいおまいら、スレで住人が言っていた通り二人して共謀でもして俺をハメようとしているのか?
俺はおまいらを実際問題としてハメたいけどハメられたくは無い。断じて。
すると鉄火が俺を指差しながら少し笑いを込めた物言いで俺に迫る。
鉄火
「うっそっつけーい!!ボコ、あんたこないだコンビニで姉ちゃん口説いたじゃん!」
向井も続く
向井
「それ私も聞いたでー、 >>1、ネクラちゃうやん!!」
なんでそんな事、向井に話すんだよ鉄火よ。
後に帰りの車で鉄火はその理由について語ってくれたのだが、
その時は恨みにも似た感情で、彼女を責め立てたい気持ちになっていた。
だが、そんな失恋街道真っ只中な俺を、二人はそれ以上笑わず、
逆に慰め、温かく包んでくれた。
それで非常に救われた気分になり、俺は落ち着きを取り戻した。
その後も会話をエンジョイしながらなんとか平静を取り戻した俺、
そして話は音楽の話へ。本日最大の地雷が俺を襲う。
自分で仕掛けた地雷だが。