Neetel Inside 文芸新都
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会社でお姉さんと仲良くなったのに凹られた
〜向井の告白、そして始まるMany Complications〜(12・29うp)

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○昨日のプレスの仕事の一件で、結果として俺は現場からの信頼と、事務所からの信頼、そして鉄火と向井からの「やるじゃん」的な視線を得る事が出来たのだが、かえって俺は自分の浅はかさと、自分は結局人の助けがなければ何も出来ないタイプの人間なのだという事を思い知らされた。
あのVIPPERからの援助がなければ俺は恐らく現場からも、事務所からも、鉄火達からも距離を置かれていたかもしれない。だがTIG君、君だけは俺から距離を置く権利をやる。
工場長はあの一件を片付ける事が出来た俺を社員食堂に呼び出し、

『お前も背水のなんたらにまでならんと実力発揮せんタイプやなあw』

と言った。
あなた様のおかげでこういう状況に陥ったんですがな、とでも言いたかったが、勿論それを心の中でしか言えない俺に、工場長は続けた。

『そういう辺がお父っつあんによー似とるんよなあwただお前はやる気の無さが問題なんよなあ』

ああ、褒められたのか。と俺はなんとなくだが理解した。
この人は、俺の親父を尊敬している。親父は俺と同じく鉄工所の人間だ。というか経営者だ。
今は理由あって営業を停止しているが、働き盛りのころ、この工場長を仕事でよく助けたらしい。
一応このあたりでは「~の息子です」という名前を出すと、

「ああ!~さんの?おやっさんの跡継ぐの?」

なんて台詞が返ってきたものだが、親父が工場を一時休業してからは、そんな言葉も聞かなくなった。俺があまりに情けないから、「跡継ぐの?」なんて台詞も聞きづらくなったのだろうか。
俺がこの工場に入ったのも、親父の口利きによるものだ。工場長は俺を「~さんの息子さんなら」と採用してくれたのだが、俺はいまいちその期待と恩に応えきれていない様な気がする。
今回の事がきっかけでもっとお役にでも立てればいいのだろうが、あまり期待もしないで頂きたいものだ。波風立てずに生きていくのが俺のポリシーなもので。

3時の休憩時間が迫り、俺はいつもの如く社員食堂で冷たい飲み物など飲もうかと事務所を後にした。するとその後を付いて来るかのように、向井がこちらを見ながらニコニコと歩いてくる。
何だ、愛の告白か?勘弁してくれ、俺はナイーブなハートちゃんの持ち主なもんで、休憩時間に君と仲良く話したりなんかしたら、TIGの焼きもちに当てられ、恐怖でお握りに精が出なくなってしまう。いや勿論精は放出(だ)すのだが。

向井
「あんなぁ・・・?今大丈夫?」

向井の甘えたような、困ったような呼びかけに俺はたじろいだ様子を隠す事が出来なかった。
更に俺の困惑を煽るように、顔についた汚れを拭いながら鉄火が社員食堂に入ってきた。
俺の思考の宇宙の法則が乱れる・・・・!!
普通の同年代の男たちならば、こういう状況を楽しみつつ成長したり、はたまた両方の女性を手玉に取ったりして男を上げ下げして着実にLV上げしたりもするのであろうが、今この子たちの前でドギマギしているのは紛れも無く孤独な童貞25歳オスなわけで。
目の前に繰り広げられたトライディザスターをデスペルする余裕も無いわけで。
あまつさえ思考まで停止しているわけで。
脳の再起動を待つ俺を尻目に、鉄火は向井に目配せした後俺に話しかける。

鉄火
「凹、今日仕事何時までなの?」

駄目だ、鉄火の目配せが何を意味しているのかが読めない、というか現状俺の置かれている状況すら処理できない。
とりあえずここは

逃げよう。


「今日はーーーーーー(今はあれやこれや考えたいんで)遅いんですが」

向井
「やって(だってさ)!!鉄火姉ちゃんほな二人で」

鉄火
「おっけ。仕方ないねー、じゃあガンバレ凹、(昨日の勇姿、向井も)ちゃんと見てたぞー」

鉄火は後ろ手に向井の方を指差し、俺にウィンクし、ペットボトルのお茶を口飲みしながら食堂から出て行く。
向井も俺に笑いかけた後、食堂から出て行く。

な、なんじゃそれは。

もう一度言いたい。なんじゃそれは。


       

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