Neetel Inside 文芸新都
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○車は無言の二人を乗せて俺の家の傍まで来てしまった。
どうしてこの様な展開になってしまったんだろう。




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向井
「なあぁ~家に入れてよ~ねえぇ~入れてよ~」

約20分前、彼女の猛烈な「家に行きたい」コールに俺は辟易していた。
女性に好かれるのは嫌な事ではないが、俺にも触れられたくない秘密の一つや二つ位ある、それがオタク臭漂う秘密であったならなおさらの事だ。
彼女のアヒル口から発せられる「入れてよ~」の言葉を、「脳内iPOD」に保存してやりたい気持ちにさせられたのは事実だ。
だがそれと家に入られたくない気持ちというのは別もの、俺は彼女の言葉を遮るが如く口を開いた。


「あんなあ向井、俺ン家は臭いかもよ~?」

完璧な断り文句、我ながら先っちょ濡れそうな程、スラリと口を衝いて出たその言葉は、
「君の行きたがっている家は悪臭がするんだぜ」というありがちな言葉の裏に
「ゴミ箱が臨月を迎えてるので、栗の花の匂いで涙を伴った嗚咽が出るんだぞ」
という二重の極みの如く彼女の心を粉砕する要素をたっぷり含んでいる、完璧だ。
正直なところ実際に俺の部屋は今非常に散らかっている。例え鉄火であっても入室をご辞退頂くほどの惨状だ。
イマドキの23歳の女の子が入るには、あの部屋は少々ワンダーランド過ぎる。
今部屋にこられると困る様々な要因を含んでいたために出たとっさの言葉だが、
彼女は俺の言葉を脳で理解するよりも先に、すでに口から出す言葉を決めていたかのようなタイミングで俺を迎撃した。

向井
「凹さんの事、好きやからええよ」


『(・・・ああ、そうか、君は俺の事が好きだったのか、それは初耳、俺としても紳s)』


自分が何を言われたのかを理解した瞬間脳が揺さぶられるような衝撃を受け、一瞬意味も無く今日の朝飯がフラッシュバックし、ついでに朝飯の後のお握りネタの事までフラッシュバックしたあたりで、頭が完全に混乱している事だけが把握できた。
俺は咄嗟に左ウィンカーを点灯させ、すぐさま路肩に止めたが、次にはハザードのスイッチを入れ、そのまま滑らかに本線に戻るため発進してしまうという困惑モードに突入した。
どうする、この告白、一生に一度かもしれない。もう一度聞き返すか。
いや、ここは聞こえてない振りでやり過g

向井
「好きやから家に入れてよ」


プラント関係の工場の明かりが夜景として車の窓の外を流れていく。
俺はどのくらい沈黙を保っていたのだろう。
心音と生唾を飲む音が彼女に聞こえそうな気がして息をするのも憚られた。
完全に張り詰めてしまった空気を和ませようと俺が勇気を振り絞って俺の意思をボケを共存させた返答を彼女に返す。


「てっ・・・・・手は出すなよ」

向井
「そっちが手ぇ出すなら手はちゃんと洗ってよw仕事上がりやから油だらけやでw」

まるで俺は蟻で、彼女はウスバカゲロウの幼虫のようだ
俺は腹をくくるべきなのか。
どうする俺、どうする--------

>>ウィンカー出す→路肩に止める→すぐに発進
>>すぐに想像できすぎてフいたwwwww





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沈黙した俺たちを乗せた車は俺の家に着く。彼女は俺の方を全く見なくなっている。
ついにここまで来てしまった。


「ほな、掃除させてくれるか。」

向井
「うひゃひゃ、まだそんなん言うてるん?ダメー。」


「いや、頼む」

向井
「じゃあ鍵しめんといてよ。1分で入るからなぁw」

俺は返事もそこそこにドアが閉まり切るまで決してドアノブを離さず、彼女がドアの間に割り込まない事に気を配った。
ドアが閉まったのを確認するや、すぐさまゴミ袋を取り出し、ゴミ箱から溢れたティッシュをそれに放り込む。
空になったゴミ箱を見てようやく一息、そのゴミ袋は直ちにクローゼットに投げっぱなしジャーマンで放り込む。
さて次は漫画を収納して、というところで玄関ドアが不意に開いた。

向井
「お邪魔しまーす」

ドアを入った向井の目に入ったのは、
ぽっちゃり姿のメイドが表紙の単行本第一巻と、繰り返し読み続けたために表紙が取れ巻頭ポスターがだらりと垂れたP-mateを掴み、
唖然とした表情で彼女を見つめる25歳孤男だった。


つまりどう見てもエログッズを持ちひたすら焦っているだけの俺だったのである。



       

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