Neetel Inside 文芸新都
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○メールの送信者は鉄火、送信者の名前を見ただけで胸が高鳴った俺は、いよいよ頭が壊れ始めたのだろうか。
内容的には、残業しているのかどうかといった事が書いてあったが、結論としては電話を掛けていいかと言いたいらしい。
彼女の申し入れを軽くお断りはしたが、強引なドリブルで電話どころかわが家への進入権を得た彼女は、じゃあ着いたら電話するとだけ書いたメールを俺に送りつけてきた。
みんな、どうかしている。何がバレンタインだ。

鉄火は「いやー寒いねぇw」と言いながら俺の部屋のコタツに入る。
黒い髪を束ねた彼女は今日も爽やかだ。しかしその表情は冷たさをも含んでいる。
そんな彼女にマグに注がれたココアを手渡しながら、俺も彼女の向かい側に座る。

鉄火
「これおいしいよね。こないだは腹立ててたから残したけど」


「せやろ?愛がこもってんだようwww」

へらへらした笑い顔をしながらふざけた事を言った俺に、厳しい視線を彼女は送った。
更に良かった顔のまま彼女は自分の携帯を取り出し、メール画面を操作した後、俺にその内容を突きつけた。


受信 向井 (受信日:今日)
表題: 昨日ボコに告ったんやけど、またごまかされたっぽいんやけど

戦慄が走る。

内容的には俺がせっかくの告白を誤魔化した、お姉ちゃん(鉄火)が羨ましい、私じゃあかんのかな、等と普段の彼女とは思えないほどのネガティブ内容がそこに文章化されていた。
いつも明るい彼女が、実は腹の底では自分の可愛さに自信が無く、鉄火に対して可哀想になるほどの劣等感を抱いている印象を受けた。
向井は本当に鉄火を信頼し、頼りにしているようだった。依存してるといえば言い過ぎかもしれないが、鉄火は向井にとっては恋愛の教祖といっても差し障り無いのかもしれない。

そのメールを読んだことで、俺の感情に何の波風も立ったわけではないが、「また怒られるのか?」といったチリチリした感じは、今も俺の背中を這いずり回っている。

鉄火
「あんたあの子が好きだって気付いてんのに、ある程度の覚悟もなしに家入れたの?」


「そんなん言うけど姉ちゃん」

そこまでは口を吐いて出たが、言葉が続かない。鉄火が怒るのも無理は無い。それくらいは俺にでも分かる。

鉄火
「何よ、言えばいいじゃん。怒ってないから」

言葉とは裏腹に吊り上った眼が、彼女の怒りを伝えるツールとして俺と彼女との間に定着しつつある。
彼女の目線が俺を捕らえ続ける。
そこで俺は意外な事に気付いく。俺の対人スキル的な重大欠陥に起きた異変。
俺が、人と目を合わせて話をしているという事に。
更に俺の口は自らの思考を介さずに、脊髄反射的に新たな1ページを刻む。
ちょっと待て俺の口、もう少し会話のキャッチボールをだな・・


「なあ、向井に頼まれて俺に話しかけるようになったん?」

鉄火
「聞きたいの?そんなこと」


「おう、教えてよ。俺には意味があったりなかったり」

鉄火
「違うよ、ずっとTIGに苛められてさ、いつも一人で昼休み車で引きこもってさ、コンビニで立ち読みしてさ、可愛そうじゃんか。
-私が私の意志でアンタに近づいたんだけど、迷惑?」

俺の肝は意外にも座っているのかもしれない。ここまで引き出したら、いける所まで逝ってしまおうか。


「おっ、男としてはどう?興味ある?」

彼女は少しびっくりしたような表情を見せたが、少し眼を逸らした後で俺に微笑みかけ、口を開いた。

鉄火
「はは、どうだろね、嫌いじゃないって言ったよ私」

瞳孔と毛穴がいっぺんに開くような感覚に襲われ、背中をまたもチリチリした感覚が這い回る。
と、そこで鉄火が何かを取り繕うような様子を見せ、少し慌てた様子でTVを点ける。
TVではダウンタウンDXがオンエアされており、今流行のガールズマジシャンユニットの女の子が手品を披露していた。

鉄火
「へえ、プリマヴェーラのマミね、なんかこの子向井っぽいね」

そう言った後、彼女はTVの方に顔を向けてはいたが、番組は見ても居ない様子だった。
彼女が手土産にケーキを持ってきていたので、それを皿に出そうとキッチンに立つ俺。
『甘いココアに甘いケーキは合わなかったかもな、お茶にしたら良かったな』
そんな考え事をしていた俺は、背後から突然冷たい手で自分の手を握られ、思わず跳ね除けるように後ろを振り返った。

鉄火
「大丈夫?変に悩んでんじゃない?」


「ん、だいじょうぶ」

鉄火
「ケーキ2個とも食べていいよ。バレンタインだし。なんか急だけど帰るね。」

少し混乱した頭の俺を置き去りにするように、鉄火はジャンパーに袖を通し、ブーツを履き始める。
立ち上がり、玄関側を向いたまま暫く下を向いた鉄火は、俺に背を向けたまま

鉄火
「タイミング 悪いよね」

とだけ言い、あいさつもせず俺の部屋を出た。
タイミングってなんだよ。俺にも分りやすい言葉で伝えてくれよ。
今は目の前に居ない鉄火に向け、俺は悪態をついた。

>>・向井は本当に凹の事を思っていた。
>>・鉄火は向井のために凹に近づいたのではない。
>>タイミング悪いというのは、私が凹と親しくし始めたのと
>>向井の告白が同時期なので凹が変に悩んでしまったのでは?

>>「タイミング悪いよね」
>>鉄火も凹が好きなんだな

>>・向井が最初の頃凹を嫌ってるように見えたのは、すでに気が合ったから。でも鉄火と仲が良くて嫉妬してた。
>>・鉄火が凹と仲良くなったのはTIGとのやりとり等を見て心配だったから。で、話やメールをしてみたら以外に面白かった。

住人様方、昨日も今日も疲れたよ。血のバレンタインとはこのことだ。息子を握る気も起きないよ
だが、みんなの意見を整理していくと、両ルートが生きている可能性は大だが、グダグダしていると両ルート消滅もありうるということだな。

>>なんか違うけどもういいわ・・・・

>>落ち着けwwwwやはりチンコ握っとけwww

>>安心しろ、凹は常にマイナスからのスタートだからこれ以上幻滅されても
>>「ああ、凹だしなぁ・・・ww」で済む
>>少なくともスレ住人の間ではだが

このバレンタインの間に300近くのマジレスを頂いたのだが、ようやく人の意見が聞けるようになったのは俺の進歩というべきか。
ともあれ、血のバレンタインはこうして終結し、新たな戦火が俺を迎えようと手薬煉を引いている事に、当時の俺は全く気付いていなかったのである。

>>人の意見が聞ける→聞こえるの間違いだろwwwなめとんかww
>>散々指南のレスは出てきていただろうがwwwww

>>進歩と違うwwwやっと人並みwwww

       

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Neetsha