Neetel Inside 文芸新都
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第二話

気づけば公園にはたくさんの人がいた。
犬の散歩に来ている人、子連れの親子、ジョギングをしている人。
ざわざわとしてきて、子猫は危機を感じたのだろうか。
颯爽と起き上がるとすぐに塀の上へと逃げ、自分の体の十倍はあろうかというシェパード犬を影から注意深く監視し始めた。

カチッカチッと私の耳元で音がする。
振り向くと私のすぐ隣にあるベンチに白髪のおじいさんが腰を降ろして、ゆっくりとタバコに火をつけていた。
煙をくゆらせて、ふぅーっと吐き出す。
煙を目で追っているとその先に、あの黒人が見える。彼はそわそわしている。

今がチャンス。人は集まってきた。さぁ吹くんだ!

…と、恥ずかしがっている自分に言い聞かせているようだ。
しかし彼はうつむいて、頭を垂れてしまった。

未だ黙々とサンドイッチを食べているビジネスマンの男が彼を見ている。
(いったいどれだけのサンドイッチを買ってきたんだ?)
その眼差しは「さぁ勇気をだして!」と言わんばかりであったが、結局、昼食を食べ終えるとちらりと腕時計を見て、そそくさとネクタイを締めなおした後、彼は太った体をよっこらしょと言わんばかりにベンチから起こし上げ、ちょこちょことせわしなく公園を出て行った。
そして塀の上に逃げていた子猫もとっくのとうにどこかへ行ってしまっていた。


そろそろ五、六歳の子供を連れた母親達が恒例の井戸端会議を始める時間だ。
公園が一番盛り上がっているように見えるこの時間。
今日の話題は隣町と地元のスーパーの比較。
どうやら、野菜の質について話し合っているようだ。
そんなことに毛頭興味のない子供たちは、砂場に座り込んでじゃれあい、泥まみれになりながら笑っている。

おじいさんは既に二本目のタバコに火をつけていた。
コバルトブルーのスラックスに白のポロシャツを着て、彼は公園の移り変わる景色を楽しんでいるようだった。
まるで「おかまいなく」と書かれたようなその顔は、誰にも気付かれないよう静かで穏やかな雰囲気を醸しだしていた。
澄んだ空気に彼の吐いた白い煙が映える。
木々たちに程よく遮られた光が公園に気持ちよく注がれて、ずんぐりとしたシェパード犬が闘争心を忘れ、うとうとと居眠りをしている。
白い煙は天から与えられた光の階段を登る途中で、たちまちに次から次へと風に消えてゆく。

私の待ち人はまだ来ない。

       

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