Neetel Inside 文芸新都
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いごいごな短編
ウサギとカメ 〜かけっこ編〜

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『ウサギとカメ』

昔々、あるところにウサギと亀がいました。
ウサギは亀に言いました。

「おい亀よ、100メートル駆けっこをやらないか?」

あっさり亀は言いました。

「いいよ」

ウサギは鳩が水鉄砲食らった顔になってしまいました。
なぜなら勝てるわけのない、これ程までに見込みの無い勝負にためらいも無く亀が承諾したからです。

ウサギはすでにこの時負けていました。
正確に言うと、勝っても意味のない、喜びもクソもない状態に追い込まれたからです。

本当のところ、ウサギは勝負を望んでいるわけではありませんでした。
ウサギが何を望んでいたかというと、それは亀から「君とやっても勝てるわけないだろう!?何アンポンタンな事をいっているんだ!君は!イカレポンチなのか?あぁ!?オタンコナスか!?どっちか選べこの腐れオカルト野郎が!耳から羽根生やしやがって、きもいんだよゴミ!!」と罵られ、さらに希望を言うなら縛られた後、…(以下略)




そうです。ウサギはドMでした。

亀はドSでなければなりませんでした。
しかし、事実は予想とは反するものです。

とにかく約束してしまったものは仕方がない。
彼らは意味の成さない無益な駆けっこをすることになりました。

その時、亀が言いました。

「僕、用意するものがあるから待ってて」
「構わぬ」

ウサギは待ちました。

「意味のなさない小細工をするつもりか?…ふん、どちらにしろ俺の勝ちだがね…。この美しい筋肉!見よ!浮き出た血管はミケランジェロの如し!…ふふふ…私の俊足に勝てるものなどいない…あいつがどんな策を用いようとな!!ふ、ふはははh!!」

ウサギはずっとひとりでこのような独り言を言っている間、実は亀は近くでウサギの様子を見ていました。
亀はウサギのその「やる気まんまん」な姿を見て、良しとされました。

…5分程して亀が帰ってきました。

「おまたせ」

ウサギには何が変わったのかわかりませんでした。
ウサギは言いました。

「亀よ。ハンディキャップを与えよう。お前は私より50メートル先からスタートするがいい」

亀は言いました。

「やだ」

またもやウサギは瞬く間に鳩が水鉄砲を食らった顔になってしまいました。
ウサギはキレました。

「やだじゃねーーーーーーーよ!死ねゴミ!!!…おっと、平静さを欠いてしまったな…ふふ…私としたことが…まぁいい…後悔するなよ。このできそこないのすっぽん野郎が…」

うさぎの腹の中はなかなか穏やかではありませんでした。
それはその醜いほど血管が浮き出た顔を見れば一目瞭然でした。
ていうか顔がそのものが煮えくり返っていました。

「…」

亀は言い返しませんでした。
心の奥底で亀がニヤリと笑みを浮かべたことをウサギは知る由もありません。
亀は再びウサギのその「やるきまんまんな姿」を見て、尚、良しとされました。

二人はさわやかな秋風の吹く中、スタートラインに立ちました。
上空からもみじの落ち葉がヒラヒラと落ちてきました。

その刹那、二人の間で暗黙の了解が成り立ちました。

落ち葉が地に舞い降りたその時―――

       

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