Neetel Inside ニートノベル
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突然ですが、世界を救って下さい。
その血、誰の血、気になる血-02

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 などと、くどくどと言い訳を重ねたくせにと罵詈雑言を浴びせかけられるのも仕方無しなのだが、僕はその議題を、一人で、未だに、この帰宅路にて、考えているのか考えていないのかも曖昧になる程度の度合いで反芻している。
 足る事を知る心とは良く言ったもので、大分に物と金と自由に満ち満ちているこの日本という国に足を着いていても尚、僕は足る事を知らずにいた。
 足りないから、欲しいと思う。欲しいと思うから、手に入れる為の努力をする。手に入れる為の努力をするから、結果としてそれは獲得出来る、或いは獲得出来る確率は飛躍的に上昇する。
 幼稚園児だって知っている理屈だ。にも関わらず、僕は、今、ここで、足りない足りないと言っておきながら、帰宅路を歩む事しか出来ずにいる。
 だって、解らないのだ。
 獲得出来るかどうかが解らない。獲得出来るかどうかが解らないから、獲得する為の努力の仕方が解らない。獲得する為の努力の仕方が解らないから、欲しいと思えない。
 欲しいと思えないから、何が足りないのかが解らない。
 見事なメビウスの輪だと思う。「足りない」から始まったその問答は、必ず最後には「足りない」に返って来るのだ。
 ライト兄弟は偉大だと思う。ガガーリンもまた偉大だと思う。
 彼らは、知ったのだ。この延々と続くメビウスの輪に存在する微かな綻びを見つけ出し、そこからこの螺旋を脱出して、自分に足りないのは「空」なんだと、理解したのだ。
 空を見る。特に風情云々を気にする事も無く、人は何かの節目や段落を迎えた際、その行為に意味があろうが無かろうが、とりあえず空を見る。
 ライト兄弟は、初めて自作の翼で空を飛んだ時、何を思ったのだろう? 僕らの時代ではすっかり慣れてしまった「空から見下ろす地面」を見た時、何を感じたのだろうか? 世界中の誰よりも最初に、その風景を見つけた時、どんな気持ちでいたのだろう? 或いはガガーリンだってそうだ。ガガー


 落ちてきた。


       

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