Neetel Inside ニートノベル
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突然ですが、世界を救って下さい。
想い、君に届け-04

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【──私がそうノマウスを叱責した瞬間、一度目の暴走が始まった】
《母は強し、だね》
 後ろ向きな案に定着してしまった夫を叱責するような、強かな妻。やはり女はこうでなくてはいけないと、梔子高千穂は何度も頷きながら思う。
【今でも、間違ったことを言ったとは思っていない。有無を言わさず甲冑と剣を身に着けさせられ、何を言うかと思えば『自分を斬れ』だ。後悔していることと言えば、張り手の一つでも喰らわせておけば良かったということだけだな】
《でも、斬らざるを得ない状況になってしまった》
 梔子高千穂がそう言うと、ハユマは俯き、太陽を直視した時のような顔色を模る。
 それでも。
 愛する夫の願いを、妻は忠実に遂行したのだろう。
 そうせざるを得ない状況になってしまったから。そうしなかった時に待ち受ける結果は、夫が最も望まない結果だと、容易に想像出来たから。
【流石、と言うべきなのだろうな】
 ハユマが、瞑った目を薄らと開けて呟いた。
【先ほど君の言わんとしていたことは、私には解らない。私には過ぎた話なのだろう。ただ夫も、君と同じようなことを言っていた気がする】
 おそらく、時間が足りなかったのだなと思う。時間さえあれば、もっとリスクの低い方法を思いついたのだろう。
【私には、解らない……解らなかったんだ】
 ポポロカを抱きかかえ、別途用意した布団に横たえた。よほど深い眠りに落ちているのだろう、寝返り一つ打たない。このまま二度と目覚めないのではと心配するほどだ。
【助けたい。夫の力になりたい。どんな些細なことでもいい。ノマウスを助ける為に、自分に出来ることをしたい。……でも、解らない! 些細なことすらも解らないから、励ますことすら出来ない!】
《出来るさ》
 ポポロカに掛けた毛布を定期的に掌で撫でながら、事も無げに梔子高千穂はそう言い放つ。
《根拠なんかいらない。ただ一言、でも何度も何度も、『大丈夫! 何とかなる!』って、言葉をかけてあげれば良かったと思う。それだけで良かったと思うんだ》
【そんなもの、根拠の無い励ましなど……! 君に、何が解る!】
《もう一人の私なんだろう? だったらきっと、そう思った筈さ》
 ハユマが、口を噤む。怒鳴り散らしたいが、怒鳴り散らす言葉が思い当たらない。そんなところだろう。
 根拠の無い励まし。
 それは、自分達のような理屈屋には出来ないことだ。理に適った理屈が無ければ発言すら出来ない、自分達のような理屈屋には出来ない芸当。
 だからこそ、欲しい。本当に困った時には、そんな根拠の無い励ましが、欲しいと思う。
 そして自分には、そんな根拠の無い励ましをしてくれる誰かさんが居た。「よく解らないけど、梔子高なら大丈夫なんじゃないかな?」と、根拠の無い絶対の信頼を寄せてくれる誰かさんが居た。
 だから再び、考えようと思える。そんな無責任な誰かさんの信頼に応える為に、知恵を振り絞ろうと思えるのだ。
……想い人の言葉には、それほどの力がある。
【そんなの、言われないと──】

       

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