Neetel Inside ニートノベル
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突然ですが、世界を救って下さい。
【エピローグ】お手数ですが、もう一度世界を救って下さい。-02

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《リターンコードゼロ。処理の正常終了を確認。アジョネートモードを停止し、MACモードに変更します》
「痛ぇ、痛ぇぞポンコツ野郎! なぁにが《正常終了》だ、もちっと座標の都合を何とか出来なかったのかよ!」
《機能を確認出来ません。既存のアジョナライザでの座標指定は不可能です》
「チッキショウ! あんのクソアマ、とんだポンコツ押し付けやがっ……あ?」
「……え?」
「……おやおや」

 おい。
 どっかで、見たことある風景じゃないか。

「……すまん」
 僕と梔子高から離れること二メートル。
 そこら辺りに、突如として空間を裂いて、二人組……というより、一人の男と、直径二十センチほどの球体のロボット? が現れた。
 そしてその片割れの男が、僕と梔子高を見るなり、熱でもあるんじゃないかと言うほど顔を赤らめて、鼻を指先で掻きながら謝罪する。
「別に俺は、何と言うか、その、お前らの邪魔をするつもりは無いんだ。ただ、こっちとしても、あー、のっぴきならない理由があるっつーか……。えぇいクソ! おいパット、このクソ茶番が終わったらガデニアに言っとけ! 二度とテメーのクソ腕で作ったクソポンコツなんかクソ信用しねぇってな!」
《命令を受理しました》
 アシンメトリに纏めた銀髪のミディアムヘアを振り回しながら、男が聞くに堪えない罵声を撒き散らし、パットと呼ばれた球体ロボットが、テカテカと額(?)のランプを点滅させた。
 眩暈、である。
 何だこれは?
 否、「何だこれは?」ではなく、「ああ、またこれか」という感想に落ち着けよう。
 知っているからだ。
 僕は、知っている。これは空間歪曲だ。どこかの世界では〈ンル=シド〉と呼ばれていた野郎が使っていた、異空間の移動を可能にする能力である。
 でも、それはおかしい。
 終わったんじゃ、ないのか?
「どっちだ?」
 銀髪の男が、不意にこちらを振り向くなり、僕と梔子高を交互に凝視しながら問いかけてきた。
「どっちかが協力者の筈だ、ガデニアの話が正しけりゃな。ったく、異空間のバランスを保つためだか何だか知らねぇが、とんだ厄災押し付けてくれやがって。言っておくが、拒否権なんかねぇぞ。押し付けた責任くらいは取ってもらうからな」
「……僕だ」
《そうなのかい?》
 僕が力無く手を上げると、いつのまに手元に戻したのか、いつものTTSの音声で、梔子高が僕に問いかけて来る。唯一、僕が理解出来て梔子高が理解出来ない案件である。誇らしくも何ともないが。
「お前か」
 銀髪が、何がそんなに憎いのか、まるで親の仇を見るような目で僕を睨みつける。ああ、僕だよ。厳密に言うなら僕「だった」だけどな。
「イチャついてるとこ悪いが……いや、悪くねぇな。俺はちっとも、これっぽっちも、一寸たりとも悪くねぇ。何故なら、これは元々お前んとこのゴタゴタだったんだってな? そんでそのとばっちりが俺らんとこに来て、俺はこうして見た事も聞いた事もねぇ場所にポンポン飛ばされる羽目んなっちまってる。解るか? 被害者だ、俺は。だから俺は悪いだなんて思わねぇぞ。そもそも最初っから、俺が謝る必要なぞ無かったんだ。むしろ、これが終わったらお前が俺に謝れ」
「知らないよ、そんなの。何の話だよ」
「すっとぼけんな」
 すっとぼけてなんかいない。これにはしっかりと「現実逃避」という固有名詞がついているのだ。
「どっか別の場所で処理される筈だったんだろ? んでも、それをお前がどうにかこうにかして、本来の場所からブッ飛ばされた。俺らは〈アジョン・ハック〉って呼んでるがな。んでその〈アジョン・ハック〉が、俺のツレに飛び込んできた。おかげで俺らはてんやわんやだ。ここまで来てしらばっくれてんじゃねぇぞ」
……要するに、だ。
〈ンル=シド〉は、消えたのではなく、ノマウスではない違う人の所に移った、と。
 そしてこの銀髪のとっつぁん坊やは、その被害者がいた世界から、ご丁寧にもこちらの世界に出張仕った、と。
……また僕が、右往左往しないといけない、と。
《もっと頑張りましょう、だね》
 梔子高が、僕の背後で笑いながらそうのたまった。……本当に、また頑張らないといけないのか? 正直、冗談じゃないのだが。
《大丈夫さ。何とかなるんだろう? それに》
 突如、頬に、暖かくて柔らかいものが当たる。
 この感触を、僕は知っていた。知っていたから、心で舌を打ったのだ。
……またしても、一手及ばなかったか。
「私も、頑張る。一緒に、頑張ってくれるんだろう?」
 随分と嬉しそうで何よりである。忌々しい。
「イチャついてる暇なんかねぇぞ。作戦会議だ、今、ここで。さっさと終わらせて帰らせろ」
 銀髪がどっかと腰を下ろし、小人の家の扉をノックするように、人差し指で地面を叩いた。
 頭が痛い。と言っても、これは例えだ。
 何度も何度も言うように。


 荷が重いのだ、僕「ら」には。

       

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