一千を越す同志が我先にと"異形"へ喰い付こうとした、刹那。
「拙が 往く」
静かな静かな一声で、静止する。
異形を囲んでいた同志の動きがぴたりと止まり、
"彼"と異形との道を作るようにその場を退いた。
"秘密結社"の人造兵士―…その一体。
ゴティック調に洗練された吸血蝙蝠の仮面を被り、
闇色の外套は足元までを覆い隠していた。
「拙は人間蝙蝠なり」
異形に対し、正正堂堂の名乗り口上。
腰をゆるやかに落としながら、
仮面に隠された鋭い視線が異形を貫いた。
「蝙蝠一刀流」
"人間蝙蝠"が疾走する。
改造と鍛錬を重ねた脚力が生む急加速は
音速にも近づき、間合いを一瞬にして詰める。
「秘伝奥義」
姿が消えたかのような人間蝙蝠の行く先を
仮面ライダー参号が己れの背後だと判ずるより早く、
人間蝙蝠は腰に帯びた日本刀を抜いていた。
「二重閃波」
"ぱ"の音と刃筋が同時に空を割いた。
蝙蝠一刀流は高速移動から展開する居合術であり、
相手に予備知識がない場合の勝率が極めて高い"奇襲"の型である。
その経験が、人間蝙蝠に"斬れた"と云う意識を持たせた。
"手応えがない"と云う感覚が一瞬遅れて発生する頃には
一寸身を前へ屈めて剣戟を凌いだ仮面ライダー参号が、
体勢を整え直してこちらを向いていた。
「遅い」