その言葉を吐いたのは確かに仮面ライダー参号である。
流れるような仕草で拳に力を込め、振りぬく。
鼓動のように波打つ血が、不整に荒野を染めた。
左の脇腹から右の肩へと迸る深い傷を帯びた―…
仮面ライダー参号が力の抜ける拳に視線を落とした。
「そんな」
次いで移る視線は傷跡の形に注目する。
確かに回避した筈の"二重閃波"の刃筋が、
そのまま腹から肩へと刻まれていた。
「銘刀"天涯蝙蝠"が繰る表閃波が一つ」
人間蝙蝠が抜いた日本刀が、その鋭鋒に月光を照らす。
極限まで砥がれた刀は鋼を容易に裁つ切れ味を誇る。
「そして拙の超音波が繰る裏閃波が一つ」
人間蝙蝠が湛える微笑みは尋常ならば犬歯に位置する
二対四本の牙歯の見栄えを良くした。
人間蝙蝠―…その名の通り、
人間に蝙蝠の性質を持たせた人造兵士は
攻撃性の超音波を自在に吐くことが出来た。
表閃波で割いた空気の筋に吐く攻撃性超音波は
表閃波同様の軌跡を描いて敵に喰らいついた。
「表裏に敵を襲う"二重閃波"」
表閃波で確実に相手の動きを制し、
一瞬遅れて放つ裏閃波で仕留める。
繊細緻密とも云える唐繰りを口にする
頑なな自信が人間蝙蝠を支えていた。
「回避不能の 斬撃なり」
天涯蝙蝠を鞘を収めた人間蝙蝠は
十歩―…自身が急加速で埋めた距離を再び取る。
乱れた外套のすそを直しつつ
もう一度"二重閃波"を放つことを、
その構えから仮面ライダー参号に知らせる。