[対蜘蛛男 前編]
人間蝙蝠が敗れたにも関わらず、
"彼ら"に動揺の色合いは全く見られなかった。
「次は わたくしめに」
腰の右手側に巻いたホルダーから拳銃を抜く、
西部劇然とした容姿格好の青年。
テンガロンハットの鍔を銃口で押し上げて、
満面に湛える笑みを仮面ライダー参号に向けた。
「私めは "拳銃遣い"」
拳銃遣いを名乗る青年の口上は、
敵の体勢が整うのを待つ意味合いがあった。
但し、私的に士道を志した人間蝙蝠と異なり、
彼に正正堂堂の戦いを望む気持ちはない。
「この"火竜"の咆哮に 貴方は屈服します」
拳銃遣いが握り締める拳銃の正式名称が
"二十四発式対超人級用大型拳銃 火竜"。
密度と強度を人工的に高めた筋力でしか扱えず、
また改造された肉体をも撃ち貫くよう設計された
高反発高威力の特製拳銃であった。
「銀と、毒と、炸薬を練り込んだ専用弾が」
銃口が、仮面ライダー参号を向いた。
古から退魔性を帯びているとされる銀は、
―…決して製造者が意図せず―…
仮面ライダー参号と、そして"彼ら"の
弱点の一つとなっていた。
「悉く貴方を撃ち貫く」
錆びた歯車のように硬い撃鉄を起こしつつ、
右腕一本でつけた狙いは正確であった。