Neetel Inside 文芸新都
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ショートショート集
ミラー理論

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一隻の宇宙船が宇宙の果てに向かって進んでいた。数十年前に宇宙の果てが
発見されたときはそこにたどり着くのはまだまだ先のことのように思われたが、
科学は凄まじい速さで進歩していった。そして今人類は果てしないと思われた
宇宙の果てへと到達しようとしていた。宇宙船は何の問題もなく宇宙の果ての
近くまで来た。しかしながら宇宙船の乗員は前から宇宙船が近づいてくることに
気づいた。その船はレーダーに映っていなかった。みないったいなにがなんだか
分からなかった。こんな宇宙の果てで宇宙船と出会うとは思わなかったからだ。
それにその宇宙船の形はこの宇宙船と酷似していた。宇宙船は止まれと言う
意味の文を宇宙船に対して送った。その瞬間その宇宙船から同じ文が返ってきた。
人々はわけが分からなかったがとりあえず止まってみた。すると相手も止まった。
なのでまた文を送った。
「あなた方は地球人ですか」
まったく同じ文が届いた。なので
「はい」と送ったが、またもや同じ文が帰ってきた。船長は何が
なんだか分からなかったがとりあえず本部にこの事態を報告し、指示を仰いだ。
本部は宇宙船にすぐに帰還するように命令した。そのとき一人の船員が気づいた。
「あの宇宙船宇宙の外にいるんじゃないんですか」
それを聞いて同僚は
「そんな馬鹿な」
といった。しかし地球で観測した宇宙の果てよりその宇宙船は確かに
外にいた。気味が悪くなった船員たちは最高速度でそこから遠ざかった。

この事件は問題になった。何しろ宇宙の外とされる場所でわれわれと同じ
宇宙船を確認したのだ。すぐさま事故調査委員会の会合が開かれたが
誰にも何が起きた分からないないように思えた。一人の博士が口を開いた。
その博士の名前はカーンといってとても有名な賞を受賞したことが
ある博士だった。
「これは私の提唱したミラー理論ではないか」
ほかの委員はそれを聞いて思い出した。確かにそんな話を博士が
昔していたなと。しかし委員たちはその話をよく憶えていなかったので
博士に質問した。
「博士、その理論というのはどういうものでしたでしょうか」
博士は自分の理論をみなが憶えていなかったのでいやな顔をして答えた。
「簡単にいえばその名のとおりミラーだ。宇宙の果てに巨大な
鏡があるということだ。しかし鏡と違うのはその見えているものは
実在していて、質量もあるということだ。しかし通常こちらの世界から
あちらの物に触れることはできない。またミラーは近くに行かないと
観測できない。ミラーを通り抜けられるのはこちら側からだけで
極端にエネルギーが高いか質量がないものだけだ。あちらの物体は
ミラーに触れたら消滅する。しかしミラーができる確立は極端に低い。
まさか我我の宇宙にできるとはな…」
「それでミラーがあることで何か悪いことがあるんですか」
「ほとんどない」
「そうですか。それなら安心だ」
「しかしこのミラーというものには厄介な点があってな」
「何ですか」
「寿命があるんだよ。時がきたら崩壊する。本物世界もミラーの世界も
一緒に崩壊する」
それを聞いてほかの委員たちは驚いて博士に尋ねた。
「とんでもなく悪いことじゃないですか」
「崩壊するといってもたぶん何万年いや何億年先だろう。まあ一応スーパー
コンピューターで計算しておいたほうがいいだろう」
計算は数ヶ月かかった。その結果は事故調査委員会で報告された。
背広を着た男が報告書を読み上げた。
「ミラーが崩壊するのはあと半年後」
驚いた委員たちはいったいどんな対策法があるんですかとカーン博士に尋ねた。
博士はこう答えた
「簡単な話だ。核爆弾を搭載したミサイルをミラーに衝突させればいい。
ミラーは大きな衝撃を受けると崩壊する」
「われわれは影響を受けないんですか」
「受けない。あちらの世界が消滅するだけだ」
それを聞いて委員たちは安心した。そして政府もミラーへミサイルを衝突させる
準備へと入った。もちろん反対するものもいた。あちらの世界でもわれわれと
まったく同じように生活している人々がいるのだと。しかしその意見は徐々に
減っていった。何しろやらなければあと半年でみな死んでしまうのだ。
それにこちらの世界が崩壊してしまえばあちらの世界も崩壊するのだ。
最悪だ。というわけで準備は着々と進められた。そしてミサイルを搭載した
宇宙船が出発した。数ヶ月後宇宙の果て近くに着いた。そして宇宙船から
核を搭載したミサイルが発射された。向こう側からもミサイルが飛んでくる。
そしてミサイル同士がぶつかったように見えたその瞬間人類は消滅してしまった。
人類はひとつとんでもない勘違いをしていたのだ。人類は自分たちが本物の
世界だと勘違いしていたのだ。 

       

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