Neetel Inside 文芸新都
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ショートショート集
ある医師の物語

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白衣を着た若い医師が手術室で黙々と手術をしている。この医師にとってこれが自分がやる初めての手術であった。簡単な手術であったが手伝ってきただけの今までとは違う。自分が考えてやらなければならない。まあもちろん上司がついていたが。ちょうど予定の時刻に手術はぶじ終了した。上司が若い医師をねぎらう。
「良くやったな。無事に終わった」
「いえ。簡単な手術ですので」
「そう謙遜するな。今日はもう良い。明日からはまた激務をこなしてもらうぞ」
 病院を出て家に向かった時医師の心は頭上の太陽のように晴れ晴れとしていた。ここまで来るのには大変な努力が必要だった。まず医学部に入る為の想像を絶する努力。入ってからも授業について行く為に一日中勉強した。医師がここまで努力したのは金の為ではない。この医師は現代には珍しくただ人を助けたい為に医師になったのであった。感心な事である。

 翌日病院に出勤するとなぜか皆が医師の方を見てくる。そのうち上司がやってきて驚くべき事を言った。なんと医師が手術した患者が今日死亡したというのだ。医師は思わず上司に聞いた。
「何故ですか。手術は成功したはずでは」
上司はいらつきながら答えた。
「私にもわからん。老衰かもしれん。とにかく君は家に帰りたまえ。原因究明の後に呼びだすから」
そういわれて医師はとぼとぼ家に帰った。

 一週間後医師は病院に呼び出された。上司は嬉しそうにこういった。
「調査の結果君のせいではないという事がわかった。明日からまた働いてくれ」
 男は翌日から精力的に働きだした。だが、しかしまたもや手術した患者が死んだ。そして同じ繰り返し。ついに男は病院を辞めざるを得なくなった。
 
 失意の男を尋ねたものがいた。そのものとは背が高い紳士であった。話を聞くと手術をしてもらいたいという。男は当然断ろうとした。
「そんな。私が手術した患者は皆死んでいるんですよ」
「その話を聞いてきて訳です。どうか父を手術してください。報酬ははずみますよ」
 紳士が提示した額は男が前の病院でつとめていた時の月給に相当した。一回の手術にしては破格だ。

 翌日紳士が用意した病院で男は手術をしていた。簡単な手術だった。が、問題はこれからである。その翌日やはり紳士の父は死んだ。男は謝った。
「申し訳ございません。」
 が、なぜか紳士は笑っている。医師は聞いた。
「何で笑っているんです。貴方のお父さんが死んだんですよ」
「実はですね私は莫大な金が必要だったんです。父には莫大な遺産があるが死ぬ見込みは無い。が、これからは父の遺産で何とかなる」
 男は驚きそして激怒した。
「なんという事をしたんですか。つまり貴方は父親を殺したという事ですよ」
「おやおや。何をおっしゃっていられるのかわからない。私はあくまで父の健康を気遣って手術をさせたのですよ。人聞きの悪い事を」
 男は言葉を失い、うなだれた。やがてそのような仕事が続々舞い込むようになった。

 いつの間にか男は毎日酒を飲むようになった。それは当たり前の事といえた。男は人を助けたくて医師になったのである。だが、しかし今男がやっているのは人殺しに近い。とはいえ男は仕事を断る事が出来なかった。生計が立てられなくなってしまう。貯金をすれば良いのだが憂さ晴らしにいつの間にか使ってしまう。雷がなり、暗くどんよりとした夜男は酔いながら車道を渡ろうとした。そのとき、横から自動車が突っ込んできた。男は轢かれ重傷を負った。が、まだ意識があった。男は思った。もう俺は助からないだろう。このまま苦しみながら死ぬよりも早く死のう。男はポケットから手術用はさみを取り出し即死すると考えられる箇所に最後の力を振り絞りぶっさした。

 男は病院のベッドの中にいた。看護師がこう話した。
「あなたはすごいですね。一時期はもう助からないって皆が言ってたのに」
男は驚いた。
「そんな私は助かったんですか。」
「そうですよ。医学の常識からは考えられないです。回復のスピードもあり得ない速さです」
なぜだろうか。そう男が考えて行くうちに一つの行動が原因として考えられた。

 次の手術から医師は患者にはさみをぶっさすようになった。

       

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