Neetel Inside 文芸新都
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ショートショート集
儀式

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俺は上機嫌で新築の会社の中に入り、
エレベータに乗り込んだ。
なぜなら今日から俺は取締役会の一員
となったからだ。入社してから長い間
頑張ってきた甲斐があった。よくよく
考えてみればこの会社は俺が入ってころには、
まだそんなに大きくなく建設業界の中でも、
中堅どころといったところだった。しかし数年後
大地震が起こりこの会社は大もうけした。
事業拡張直後のことだったからだ。それに
上層部の対応も早かった。というわけで、
この会社は国内で指折りの建設業者になったのだ。
そういえば創業した直後にも大震災が起こって
この会社は弱小から中堅にまでなることが
できたんだっけ。運のいい会社だ。
しかしそんなわが社にも不満がある。
それは本社を首都からいきなりわが国第二位の都市へ
移転したということだ。社長は今の時代
首都に本社をおく必要などなく、莫大な売却代金が
得られるからだといったがどうにも納得がいかない。
そんなことを思っているとエレベーターは
会議室がある部屋の階に着いた。すると
社長から声をかけられた。
「君、もう他の取締役たちは集まっているよ。
とはいっても時間にはまだ早いがね。そういえば
君は儀式は初めてか」
「儀式とは何のことですか」
「まあ始まれば分かるさ」
そういって社長は会議室のドアを開けた。
会議室の中の皆はなぜか緊張していた。
社長はなにやら紙を見ていた。
しばらくすると社長が
「そろそろ時間だ。おい明かりを消せ」
と命令した。そしてその後社長は、厳かな
声で
「では皆さん頭を下げて目をつぶってください」
と言った。すると社長の奇妙な声が聞こえてきた。
高くなったり低くなったり大きくなったり
小さくなったり。俺にはなにをしているんだかすっかり
分からなかったが、その通りにしていると社長の
「頭を上げてください」
と言う声が聞こえてきたので頭を上げた。
明かりがついて社長が自慢げに皆に言った。
「中々上手く踊れたぞ。」
すると副社長が答えた。
「そうですか。これでわが社も安泰ですね」
俺には何のことだかさっぱり分からないので
ポカーンとしていると社長が声を掛けて来た。
「そうだ。君に儀式のことを説明しなければ
ならないな」
「早く説明してくださいよ」
「分かった。分かった。実はこれはこの儀式は
わが社の創業者でもある私の父が始めたものなんだ。
一年に一回やる」
「それでどんな効果があるんですか。」
「なんというか地震を予知すると言うか…」
「え。嘘でしょう」
「本当なんだ。というか少しばかり時期を早めたり
遅らせたりすることもできる。しかし地震をなくすことは
できない。私の父は宗教にはまってね、地震の神を呼ぶ
ことに成功したんだ。そして毎日祈って一年に一回
儀式をすることである程度は地震に介入することが
できるようになったんだ」
「ということは今まで二回の地震は偶然ではなくて
故意に…」
「そういう見方もできるが、あくまで起こるべくして
起こった地震だったんだ。わが社はその度に大量の資材や
機材を買い占めて莫大な利益を得ることができた」
俺は気がつくと震えながら聞いていた。
「それで次の地震はいつどこで…」
「散々せがんだおかげでかなり早めに起こしてくれる
ことになった。今日、わが国の首都でだ。ここからは
結構離れているが少しのゆれは伝わるかな」
それを聞くと俺は足元に小さな揺れを感じた。

       

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