Neetel Inside 文芸新都
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ショートショート集
幸せ

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男が目を覚ました。その部屋に
いるほかの5人はまだ寝ているようだった。
男は三段ベットから降り、ほかの連中を
起こした。そして支度をして仕事場に
向かった。仕事場はすぐ隣の部屋だ。
男の部屋の大きさは8畳。
男はたまに狭いなあと思うことも
あるがいたしたかないのだ。
そして男はゆっくりとドアを
開けた。そこには異様な光景が
広がっていた。男は数え切れないほど
この光景を見たがそれでも異様に感じる。
そこには白い服を着て椅子に座り、
頭にヘルメットをしている
人間たちが整然と並んでいた。
縦横何列なのかは分からない。
どこまでも続くように見える。
人間たちは眠っていた。男の
仕事はこの人間たちを管理すること
だった。

今から数百年前。人類の人口は
増え続けていた。そのため一戸建て
住宅などは金持ちすら買えなくなった。
家族4人で4畳の部屋が普通になった。
マンションなので高さを削ってより階を
増やしたほうがいいので天井も
それほど高くない。そうなるといろいろな
不満が出てきた。そこである党の政治家が
大計画を発案した。その計画とは人間が
生まれたときからずっと死ぬまで仮想世界
にいてもらうという計画だ。仮想世界と
はいっても五感全て感じる。また非常に、
リアルティーあふれる世界となっている。
しかしながらあまり悪い思いはしない。
人間たちの能力は高めにしてあるし、
ほかの人間たちはプログラムによって、
悪口を言ったりはしないようになっている。
人間たちはずっと睡眠薬で眠らされている。
また栄養剤が定期的に自動注入される。
管理に必要な物資は自動生産する
この計画には技術的・倫理的問題がいろいろ
あった。だが人口が多いおかげで、優秀な
技術者はたくさんいたのだ。技術的問題は
1つ1つ着実に解決されていった。また
倫理的にも賛成派が勝利した。何しろ
人口増加による不利益は日に日に増えていくのだ。
そして数十年のときを要しその計画は
実行に移された。初めは記憶を消し赤ん坊として
生まれさせたが、次の世代からは
そんなことをする必要はなくなった。
赤ん坊たちは人工授精によって生まれた。
精子と卵子は人工的に作られ、人工子宮の
なかで育った。何もかもうまく言ったように
思えたが管理者がどうしても必要だった。
管理者の数は100人に1人ほど必要だった。
そのためランダムで赤ん坊を選んだ。そして育てて、
管理者にした。管理者の仕事はいろいろあったが
この男の仕事は主に単純な修理と運搬だった。
修理とは老朽化して取り替えなければならない
電線を変えたりする。運搬とは赤ん坊を運んできて
装置にセットする。また死んだ人を運ぶ。
そんな感じで一日が終わる。そして今日も
無事仕事が終わった。

しかし今日の男の一日はいつもと違った。
上司が定年を迎えたのだ。定年を迎えると
仮想世界で暮らすことになる。つまりは
記憶を消して装置にセットする。
最後は皆で見守る。セットをしながら
男は上司に聞いてみた。
「あのこんなことを聞くのは何なんですが、
仮想世界で暮らしている人たちは幸せ
なんでしょうか」
上司は静かに答えた。
「さあな」
同僚が横から口を挟んだ。
「えっ。幸せでしょう。なんていったて全部が
平均より上の人生が遅れるんですからね。
嫌なことなど何一つない」
「そういうふうに考えることもできるな」
雑談をしている間にセットはほとんど終わった。
後は睡眠薬兼忘却剤を注射してスイッチをオンに
するだけになった。男は最後に聞いた。
「あなたはこれから幸せになると思いますか」
「さあな」
上司の顔が心なしかさびしく男には思えた。
男は痛くないようにそっと注射をした。

       

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