Neetel Inside 文芸新都
表紙

ショートショート集
霊媒師

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病院の一室。静まりかえった部屋の中で医師は
ベッドに横たわっている男の家族に告げた。
「ご臨終です」
遺族はあまり驚いていない様子だった。
それもそのはずで平均寿命より、かなり
生きていたのだ。死因は老衰。かなりの高齢
なので結構前から死ぬのではないかと家族は
思っていたのだ。なので死後の処理も迅速
に行われた。生前の職業は霊媒師だった。
ペテンではなく本当に幽霊が見え、しゃべる
こともできた。なので中々有名な霊媒師だった。
男のことを詐欺師だという人もたくさんいた
しかしそんな批判をされても男は霊媒師を続けた。

一方男の魂は体を抜け出した。
このことは分かっていたことだが男は少し驚いた。
たまに自分の頭がおかしいのではないかなどと
思うことがあったのだ。それに幽霊にいざなって
みると浮遊感があって変な感じだった。
話は幽霊たちから聞いていたが百聞は一見に
しかずだ。部屋の中には誰もいなかった。
したいとなった自分の体も。すぐに片付けられた
のか。手際のいいことだ。男はそう思いながら
なれない体で廊下に出た。廊下には数人の幽霊がいた。
試しに一人の幽霊に話しかけてみた。
「あなたも最近死んだんですか」
「いや私は幽霊になってすぐの人間を観察する
のが趣味だから、ここに来てるんだ。驚いただろう」
「まあ」
「その割には驚いていないようだが」
「私は霊媒師だったんですよ」
「なるほど。俺はずっと前に死んだからあんたを
見たことがなかったんでな。ということはここの
仕組みも良く知ってると…」
「ええ」
そう答えて男は周囲に生きている人がいないことに
気づいて
「幽霊ばかりで生きている人がいないようですが
どうしたんでしょうか」
たずねるとその幽霊は笑いながら答えた。
「人間ならいっぱいいるじゃないか。冗談はよして
くれよ」
「何言ってるんです。どこにもいないじゃないですか」
幽霊は男の目を見て真剣に聞いた。
「本当に見えないのか」
「はい見えません」
そう答えると幽霊はしばらく考え込んでこう語りかけた。
「うむ。俺もこんなケースを見たことはないが、たぶん
それはあんたが霊媒師だからだろう」
「というとどういうことですか」
「うまく説明はできんが…。つまりあんたには
生きている人間は見れんだろうということだ」

その幽霊の予測は当たった。男には結局幽霊の姿が
見えることはなかった。幽霊の生活の大部分が人間を
観察する事がしめている。なので男の生活はつまら
なかった。他の幽霊たちと話そうとしても会話が
できるのは自己紹介の時だけ。他に話すことはない。
そんなわけで男は自分と似た境遇のものを探した。
しかしそれは容易なことではなかった。自分の足で
探し回らなければならなかったからだ。また霊媒師には
ペテン師が多いようだった。2,3度見たことのある
霊媒師を見つけたが皆見えるといった。しかし男は
数十年間の時間と多大な労力をかけ自分と同じ立場の
幽霊を探し出した。

その幽霊は落ち着いていた。男が
「あの噂によるとあなたには生きている人間が
見えないそうですが。」
と聞いても驚かずに
「ええ、そうですが。私になにか」
と答えた。男は喜びを抑えて質問した。
「あの。何とかして生きている人間を見えるように
する方法はないんでしょうか」
「ありません。そんな方法があったらとっくに使ってますよ」
「そうですか…。ところで何であなたはそんなに落ち着いて
いるんですか」
「お迎えをじっと待っているんです。次の世界ではごく普通に
なることを願っていますよ」
個人差はあるが数百年ほどで幽霊は消えることは男も知っていた。
「あなたは次の世界があるということを信じているんですか」
「ええ」
「ごく普通というのは一体何のことですか」
「普通になりたいということです。我々は生きているときは
圧倒的少数派だった。そしてほとんどの人は我々のいうことを
信じなかった。そのせいで嫌なことがいっぱいあった。
いわれのない誹謗中傷など…」
男は深く共感した。
「そうですね。あまりにも他人よりも秀でているというのは
損をするものかもしれませんよ。例えば画家や科学者。
あまりにも時代の先に行き過ぎて他の人に理解されていなかった人が
たくさんいる」
「その通りです。また皆ができているのに自分ができない
というのは本当につらいものです」
男は心から
「次の世界では普通になりたいもんですな。まあそれまでは
二人で仲良くしましょう」
と言った。しかしその幽霊からの返事は意外なものだった。
「残念ながら無理です」
驚いた男は質問した。
「なぜですか」
「私はもうお迎えが来たようです」
男は必死で止めようとした。
「お願いです。逝かないでください。あなたが言って
しまったら私は…」
「すいません」
それがその幽霊の最後の言葉だった。辺りに男のすすり
泣く声が響いた。

       

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