Neetel Inside 文芸新都
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ショートショート集
自己紹介

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一人の男が雑誌に掲載する自己紹介文を書いていた。
しかし中々進まない。自分のことを書くとなると
気恥ずかしいものなのだ。男は今回もあの本に頼ることにした。

あの本とは男の家に代々伝わっている本である。青色で、
表紙には何も書かれていない。大きさは30cmぐらい。
ページ数は300ページぐらいある。その本には何も
書かれていない。その本は普通の本とは用途が全く
異なるのだ。その本は物事を調べるためにある。使い方は
こうだ。本閉じてを持ち、そこで調べたい事柄を念じる。
そして本を開くとその事柄が分かりやすく簡潔に書かれて
いるのだ。この本はかなり役に立つ。他の使い方では
見つからないこともあるし、分かりづらいときもあるからだ。
しかしこの本は現時点で明らかなことをすぐに
教えてくれるのだ。この本のおかげで男の先祖は
繁栄してきた。膨大な知識のおかげで、様々な重要な
位置につくことができた。例えば男の父親は財務官僚だし、
男は若くして有名な学者になれた。

男は本を持って自分の名前を念じた。そして開いた。すると
そこには男の自己紹介文が現れた。しかしながら依頼のページ
数には少しだけ足りない。男は言葉を変えたり、改行したり
して何とかページを水増しした。一息ついた男は
こうつぶやいた。
「ふう。この本は本当に便利だな。
しかし一つだけ気になることがある。一体この本は何なのだ。
どこでできてどういう仕組みなのか。全く分からん。
父に聞いてみても先祖代々の品だとしか言わなかった。」
男にある欲求が起こった。その欲求とは本に俺が手に
持っている本は何なのだという事を念じること。
しかしそれは父親から禁じられていることだった。
だが結局好奇心のほうが勝った。男は本に俺が手に
持っている本は何なのだという事を念じ、本を開いた。すると

昔からある本です。
という文字が現れた。しかしこれでは全く念じて
みた意味がない。男はもう一度念じてみた。しかしながら
またも要領を得ない答えが出てきた。何回もそれを
繰り反した。何回目だったろうか念じても何も現れなく
なった。男はこんなことは初めてだったので驚いた。
男は試しに別のことを念じた。何も現れなかった。
他のことも念じたが同じ結果だった。一体どういう
ことなのだろうか。本を失った男には調べる手段はない。
だが自己紹介の文を見てなんとなく答えを
得たような気がしてこうつぶやいた。
「おそらく本は自分のことを言うのが気恥ずかし
かったんだろう。しかし俺は無理に言わせようとして
しまった。本はへそを曲げてしまった。元の状態に
戻すには長い時間が必要だ…」
男の言うことはたぶん正しいだろう。なぜなら男には
すぐに分かりやすく解決の手段のヒントを教えてくれる
本はもうないのだ。それに本に文字が現れことはもう
二度とないかもしれない。

       

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