Neetel Inside 文芸新都
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ショートショート集
犯行

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ここはある刑務所の一室。そこにいる男が周りの囚人にも聞き取れない小声で
つぶやいた。
『くそっ。何で俺がこんな目に。だが今日でやっと出られる。』
その男は空き巣をし懲役2年の刑を受けた。とはいっても盗まれたものは、
何もないように警察には思われた。しかし実際には男はあるものを携帯電話で、
写しすぐさま仲間のところへおくった。そのあるものとは新しくできる国立
銀行の支店の設計図。盗みに入られた家はそれを設計する建築家の家だった。
もちろん男は警察には金銭目的だという主張を繰り返した。そして今日は待ちに
待った出所日。刑務官が部屋の中に入ってきて男に声を掛けた。
『おいお前今日はお前の出所日だ。早く出て来い。』
言われなくても男には分かっている。だが一応返事をしなければいけない。
『はい。分かりました。』
そして入所時に預かられた衣服やいろいろなものを渡された。そして刑務作業の賃金
を渡された。男が出所しようとしたときに後ろから刑務官が声をかけた。
『もう二度と帰ってくるなよ。』
『分かってますよ。』
もちろんそんな気持ちは微塵もないのだが。男の持ち金は刑務作業で得た、初任給の
半分ほどの金だけだ。とはいえ昔の仲間たちと待ち合わせる予定の公園までの交通費と
しては十分な額だろう。男は電車やバス、タクシーを使いその公園に無事到着した。
そこにはなつかしい顔がいた。感動の再会だ。
『よお。お前が来てくれたのか。』
『ああそうだ。』
その男は用心棒で肉体作業などをする男だった。用心棒の車に乗り男は隠れ家へと
向かった。そこには男の仲間たちが居た。爆破の専門家や電気技師や情報集めをする
詐欺師、リーダー。男は安心した。自分が居ない間に誰も逮捕されなかったようだ。
『さて、刑務所から出たばかりで浮かれているかもしれんが、侵入計画を説明する。』
リーダーが発表した計画は完全無欠なように思えた。おそらく自分が服役中に何度も
再検討をし最良の計画を立てたのだろう。そして最後にリーダーはこう付け加えた。
『皆何も緊張することはない。前も成功したじゃないか。』
そうだ俺たちは10年ほど前に大きな銀行に侵入し6人で山分けしてもサラリーマンの
生涯賃金ほどの額を奪った。しかし皆金遣いが荒いので8年で半分ほどになってしまったので
今回の計画を立てたというわけだ。その日から訓練が始まった。開店まであと3ヶ月。
勘を戻さなくてはいけない。そして開店の1ヶ月後が決行日だ。成功すれば前の5倍ぐらいの
金が入る。そのためにも訓練にも熱が入った。いよいよ決行日。男たちは地下から侵入した。
様々な防犯装置は作動不能にしてある。金庫室の扉を爆破すると男たちの目に入ってきたのは
金やダイヤモンドと高額紙幣の山。電気技師が声を上げた。
『やった。これだけあれば今度こそ死ぬまで遊べる。早く上のトラックまで運ぼう。』
その瞬間だった。男たちに強烈な光が当てられた。振り向くとそこには銃を持った大勢の
警官たちがいた。リーダーがしどろもどろでつぶやいた。
『いったいなんでばれたんだ。』
『動くな。逃げようとしたら発砲するぞ。』
しかし男は走り出した。その時発砲音がし、強烈な痛みが…。意識が遠のいていく…。
『起きろ。早く起きるんだ。』
という声で男は目を覚ました。助かったのかと男が思うと目の前には刑務官の姿があった。
なんだゆめだったのか。それにしても長くて妙にリアルな夢だった。
『おいおい出所日なんだから寝坊なんてするな。』
と刑務官が笑顔で声をかけた。男は無事出所することができた。そして思う。あんなリアルな
夢は初めてだった、こういうのを正夢というのだろうか。ならまっとうに生きようと。
その男が去った後の刑務室では所長と刑務官が会話を交わしていた。
『所長、あの装置の威力は凄いですね。寝言で強盗だとかなんだとか言っていた。』
あの装置とはこの刑務所に今日配備された装置のことだ。人の夢に介入することができる。
つまりあの男の夢は無理やり見させられいたものだった。
『うむ。そうだな。犯罪を犯し、警察に射殺される。こんな夢をみてやろうとするものは
そう多くは居まい。しかしあの男は運がいいぞ。』
刑務官は首をかしげる。
『なぜですか。』
『あと少しすると改良版が届く。それは見ている夢の内部まで分かるというものだ。それを使えば他の仲間も
逮捕できるし、まだ捕まっていない事件も逮捕できるかもしれん。』
『なるほど。科学技術は凄まじいスピードで進化していますな。もしかしたら我々が用済みになるかも。』
所長は笑いながら言った。
『それはないよ。そんなことをする奴がいれば罪をでっち上げ逮捕すればいい。』
いかにいい制度ができても人間の欲望にはかなうまい。

       

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