Neetel Inside 文芸新都
表紙

ショートショート集
殺人狂たち

見開き   最大化      

長い混乱を経て人類は平和的に世界の統一に成功。さまざまな問題も徐々に
解決されていき、戦争も紛争もなく格差もほとんどない社会を実現した。
しかしながらそんな人類にも大きな問題があった。それは殺人事件が絶えないことだった。
減るどころかどんどん増えていく。とはいっても事故死の人数と比べれば最初は少なかった。
だが事故死はさまざま安全対策が行われてどんどん減っていった。一方殺人は減らないどころか
増えていく。ついに殺人事件の死者数が事故の死者数を抜いてしまった。こうなると大きな
問題になってくる。何しろ戦争も紛争もない時代。社会は安定し、貧困層もそれほどいない。
どうして殺人は減らないのか。その議論はさまざまなところで行われた。そんな中一人の学者の
論文が注目を集めた。その学者の説によると殺人を犯す人間は検査により発見できる
ということだった。当然こういう意見が出た。

全国民を検査し、陽性反応がでた人間は逮捕しろ。

だが賛同するものは少なかった。何しろまだ科学的検証も行われていなかった。だが数年を掛け
この理論の正しさが証明された。。今度は数万人の人間を検査した。その後殺人を犯すかどうか
確かめようというのだ。すると陽性反応が出た者はみなその後殺人を犯した。こうなると話は
違ってくる。何しろ遺族からするとたまったものではない。反応が出たものを拘束していれば、
自分の家族を死なせずにすんだのだ。ついに遺族が政府に対し賠償金を求める裁判を起こした。
もはや陽性反応が出た人間を逮捕せよという意見は少数派ではなくなってきた。しかし政府は
慎重だった。さらに大規模な検査を行った。だが検査が間違っていたということは一度もなかった。
遺族たちがいっせいに国に裁判を起こすのを見て政府上層部はついに決断した。全国民に
対し検査を行うことを。もちろん反対意見も根強い。だがそういうものに対しては
こういえばいいのだ。
「自分が殺人狂だとばれるのがそんなに怖いんですか」
この検査が行われたおかげで故意の殺人はなくなった。だが社会に衝撃が走った。殺人犯
予備軍として刑務所に入れられていた囚人たちが反乱を起こし、多数の死傷者が出たのだ。
するとこういう意見が出てきた。

連中はどうしようもない。死刑にすべきだ。

この意見も最初は賛同者が少なかった。だが度重なる反乱をみて人々の気持ちは
変わっていった。ついに陽性反応が出るものは死刑となることが決まった。つまり全国民は
生まれると同時に検査され、その結果によって生死が決まる。とはいっても陽性反応が
出るものは数少ないが……。

なぜか傷害事件が減り始めた。殺人を犯すものは傷害事件もも起こすからだろうか。
しかしそれだけでは説明できないほど急激な減り方だ。まただんだんと囚人の処刑をする
刑務官になるものが減っていった。ついにはあちこちの刑務所で定員割れを起こし始めた。
いったいなぜか誰にも分からなかった。だが、一人の権威ある学者はインタビューに対し
こう答えた。
「これは私のあくまで予想ですがつまりあまりにも人が死傷するところを見なくなった
からではないかと。戦争もないし紛争もないし、殺人事件もない。そういうわけで
昔よりもそういうものに対する嫌悪感が強まったんじゃないかと」
それに対し記者が反論した。
「じゃなぜ相変わらず検査で陽性反応が出る人は減らないんですか」
「あの人たちは特殊な人たちなんですよ。要するにこういうことです。たいていの人たちは
今後人を死傷することはなくなっていくでしょう。誰かに命令されてもできなくっていく。
最終的には自衛行動をとることもしなくなっていくでしょう。だが一部の人たちは
違います。自分から人を死傷しようとする」
この学者の説が正しいとしたら未来はこうなるだろう。処刑をする刑務官になるものは
誰もいなくなる。すると当然殺人犯予備軍を囚人として刑務所に入れなければ
ならない。彼らの中から処刑をするものを選べばいいのではないかという人もいるだろう。
だが果たして誰がそんなことをするだろう。そんなことをすれば下手したら自分の首を
絞めかねないのだ。そういうわけで処刑をするものはいなくなるだろう。囚人は増えて
いきやがて反乱を起こす。そうなった場合の結果は明白だ。自衛行動すら取れない
ものたちと殺人狂。どちらが勝つかは目に見えていくではないか。

       

表紙

山優 [website] 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

Tweet

Neetsha